Jun 29, 2022

「社会問題の解決こそビジネスが挑むべき」ソーシャルビジネスの専門家が語る想い

Game Changer Catapult

「社会問題の解決こそビジネスが挑むべき」ソーシャルビジネスの専門家が語る想い

Written by Game Changer Catapult 事務局

パナソニックの新規事業創出活動をサポートするGame Changer Catapult(以下、GCカタパルト)は、新しい事業アイデアのヒントを見つけるために、さまざまな活動をしています。

今回は「社会問題はビジネスで解決できる~個人の想いがソーシャルビジネスになるまでの道のり~」と題したオンラインセミナーを開催。近年注目されるソーシャルビジネスについて、株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役副社長の鈴木雅剛さんにご講演いただきました。


ゲスト講師:鈴木 雅剛(すずき まさよし)

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貧困、差別・偏見、環境問題などの社会問題を解決するソーシャルビジネスに特化した企業、株式会社ボーダレス・ジャパンの共同創業者で代表取締役副社長を務める。2007年の創業後、世界各国で次々とソーシャルビジネスを生み出してきた豊富な経験と実績を持つ。

悪気のない効率優先のビジネスが、社会の中で取りこぼされる人を生む

講演が始まると、まず鈴木さんは「そもそもビジネスとは何か」と130人ほどの参加者に対して問いかけました。参加者が「ビジネスとはお金儲けなのでは」と回答すると、お金儲けもたくさんある答えの一つだとして、続いて経営者になった気持ちで考えてほしいと、次の質問を出しました。
「あなたはTシャツを販売する事業を立ち上げています。商品の仕入れ販売が赤字だったとき、経営者として今後どのような対策をするか」
この問いに対する回答は、「仕入れを減らす」「人件費を減らす」「家賃を減らす」「売り上げを伸ばす」の4つ。参加者からは「仕入れを減らす」という回答はわずかで、最も多かったのは「売り上げを伸ばす」でした。

これについて鈴木さんは「今の質問をさまざまな企業の講演会で行っていますが、通常は仕入れや家賃、人件費などを削減するコストカット系の回答が多い。これは、人間は予測できないものを対処することにはリスクを感じており、仕入れや家賃など、目に見えるものから対処する傾向があるからです。実は、売り上げを伸ばすと回答を選ぶのは、経営者に多い傾向があります。このような結果になるのも、新規事業に関心のあるパナソニックの社員らしいのかもしれない」と、話しました。

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次に「仕入れ先を増やそうと考えたとき、30軒の小規模工場と大手商社2社のどちらにするか」「採用するならスキルのある経験者か子育て中のシングルマザーか」「新しく出店するなら若者が集まる大きな街か人口が減少している小さな町か」と質問を続け、「ビジネスパーソンとして正しい回答は『大手商社と取り引きする』『経験者を採用する』『大きな街に店を出す』だと思います。たくさん商品を売って、たくさん利益を出すことが、ビジネスパーソンの常識。これを前提にどちらの回答を選ぶかを考えたときに、人は、お金・手間・時間がかからない効率的な取り組みを『悪気なく』優先する。これがビジネスの持つ構造です」と、説明しました。

そして、今までの質問を踏まえたうえで鈴木さんは「悪気なく沢山ものを作り、販売し、効率優先のビジネスを続けた結果、さまざまな人が取り残されています。これから社会が変わるなかで、この現状はどんどん広がっていくと考えています」と話しました。

分断された人を単純に支援するのではなく、ビジネスとして巻き込んでいく

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資本主義社会によるビジネスの効率化追求のために取り残されてしまった人々がいる。希少金属採掘のために、違法に働かされる産出国の子どもたちや仕事中心の生活で人とのつながりが薄れ、孤立してしまった人など、儲からない、非効率な状況から貧困や環境破壊、難民問題などの社会課題が生まれ、世の中に効率と非効率の大きな分断が生まれていると、鈴木さんは警鐘を鳴らします。

では、このような社会課題は誰が解決するのか。鈴木さんは現状を変えるためにも「社会問題の解決こそビジネスが挑むべきであり、そこにチャレンジする人や機会を増やすことが大事」と訴えました。

さらに、ソーシャルビジネスについて「非効率な存在を悪気なく置き去りにしてきたビジネスモデルから『意図して』非効率なものを巻き込み、理想を実現する新たなビジネスモデルが必要になると考えます。この『意図して』がとても大事で、そのためにも難民やシングルマザーなど社会問題によって取り残された当事者のことを、皆さんが知りにいかなければならない。分断された人に対しては単なる支援ではなく、うまく巻き込んで一緒に頑張っていくビジネスを作れるかどうかが重要なポイントになります。社会問題を解決するために、非効率な状況を含めて社会を再構築し、利益を出せるビジネスモデルを構築することが、ソーシャルビジネスには必要です」と解説。

鈴木さんはビジネスにおいて、人がつながり、助け合いながら巻き込んでいく「協働共創」を重要視していると話し、ビジネスを作る目的を意識することと課題を何としても解決したいという情熱が、新たなビジネスにつながると伝えました。

その例として、鈴木さんはGCカタパルトの第1回ビジネスコンテストから生まれた料理を柔らかくする家電の事業アイデア「DeliSofter(デリソフター)」について触れ「DeliSofterの起案者も、高齢者など流動食しか食べられないという課題を抱える人に出会って『なんとかしなければ』という思いから、事業アイデアが生まれたではないか」と、新規事業に必要な原動力について話しました。


 

DeliSofter(デリソフター)
GCカタパルトの主な取り組みであるビジネスコンテストから生まれた事業アイデアで、初の事業化を達成。料理の見た目と味はそのままに柔らかくできるケア家電で、飲み込む力などが弱い高齢者や、嚥下障がいを持つ方々でも「家族と一緒に同じ食事を楽しめるように」という想いから生まれた。


貧しい小規模農家がハーブを育てる。目指したのは農家のための「ファーマーズプライス」

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ソーシャルビジネスの概念について話した後、鈴木さんは、自身が手掛けた実例について紹介しました。

鈴木さんたちが注目したのはミャンマーのとある農村。都市部から離れ、携帯電話の電波や道路の整備は悪く、教育、医療機関も十分にありません。さらに平地に畑を持てない住民たちは、山の斜面で農産物を育てていましたが、生産環境も悪く、低い収入と借金のため、出稼ぎから戻れず離散状態になる家族も多かったといいます。

そこで鈴木さんたちは、この貧困に陥った農村でソーシャルビジネスを立ち上げようと思い立ちました。ここで大事なのは、本当に困っている人が具体的に誰なのかを見極めること、なぜ現在の状況に陥っているのか原因を明確に捉えること。さまざまな仮説を立てて、現場で検証することで、現地で起こっている実態が浮き彫りになると話しました。

ある住民の年収は、借金の利息返済分を差し引くと日本円で約3万円。これを十分な医療や教育などが受けられる収入である21万円ほどに引き上げるのを目標としたとき、課題の原因として立てた仮説は「ブローカーの手数料が高い」「輸送コストが高い」「品質問題や生産量、作物の種類」「借金の利率が高すぎる」「マーケットプライス(市場価格)自体が低い」でした。

その後、ブローカーに支払っている料金などは一般的で、改善しても目標達成は厳しいことなどが判明。さらに調査を進めると、大きな貧困の原因は仮説にもあった「不作や現在の農産物の市場価格自体が低いこと」だと分かりました。

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鈴木さんは浮き彫りとなった課題について「この場合、マーケットプライスそのものが悪いというよりも、人々がその価格に依存するしかない状況であることが問題。課題を解決するためには、思いつくレベルでいいのでさまざまな案を出し、どうやって実現するかを考えることが大事。これまでの常識にとらわれる必要はない」とし、その結果マーケットプライスに代わる農家のための「ファーマーズプライス(農家価格)」を導入したと話します。

「ファーマーズプライス」は鈴木さんたちが考案した名称で、取引の際、生産に必要なコストを上乗せして価格を決定するもの。例えば、市場価格では50円で取引される農産物に対して、農家がきちんと生活できるためのコストを上乗せして100円で取引します。

「ファーマーズプライス」を実現させるために、鈴木さんたちは農家と企業の双方の顔が見える関係で取引を行う「コミュニティトレード」を構築。相手の顔が見えることで、利己性ではなく利他性を発動させる関係を築き、利益優先でマーケットに取引が流れることを防ぎます。

ここまで、社会問題を解決するビジネスモデルを組んでから、次にどのような農産物を生産するか検討します。ミャンマーの土地で育てて生産でき、独自性が生み出せるものを基準に、バナナやスパイスなど、さまざまな素材を検討しました。結果、無農薬ハーブにたどり着いたと語ります。

無農薬ハーブを育てるために、農家の人々とともに栽培技術を確立。さらに鈴木さんたちは彼らの借金を立て替え、月利を下げて貸し直し、借金返済のスケジュールも作成しました。生産されたハーブは母乳が出ない、出にくいなどのトラブルを抱える妊娠・授乳期の母親をターゲットにした機能性ハーブティーとして販売することで売り上げを確保することができました。
ハーブティーの売り上げで得た利益はさらに再投資を行い、同じ状況下にある現地の農家にビジネスを浸透させて規模を広げていきました。結果、農家の人々の収入は安定し、借金も返済。家族で一緒に暮らせるようになったと話します。

ここで重要なのは、ハーブティーの販売が、貧困という社会問題への着目から始まったプロジェクトだということ、また「貧困から救うために買ってください」という形で売り出さず、鈴木さんは「あくまでも商品自体の価値で利己性にアプローチした上で、結果として商品の背景を知ることで利他性を発動させる仕掛けを埋め込むことが、ソーシャルビジネスにおいては大切。利他性だけで購入してくれるのは一度だけで、継続的な購買には繋がらない」と語りました。

事業づくりで大切なのは「個」に迫ること。何のため、誰のための仕事かを考え抜く

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講演の最後に鈴木さんは「事業づくりで大切なのは『個』に迫ること。個人のレベルで彼はどう過ごしているか、何を求めているのか探ることで本音が見えてくる。ビジネスでは顧客が何に困っているのか、本質的な原因を捉える必要がある。何のために働くか、誰のために必要なに仕事か考えてみてほしい」と新規事業のポイントを語りました。

参加者からは「社会起業の具体的なフレームワークを知ることができた」「我々もできると思わせてくれた」「分断された人々が、どうして置き去りになっているのか、真の原因を探る必要性を再認識できた」「仕事の概念を完全に覆されるお話で非常に腹落ちした」と、鈴木さんのお話に共感する声が多く上がりました。

ソーシャルビジネスの最前線で活躍する人材が語る現場のリアルな意見に触れることで、新規事業創出活動のモチベーションや、アイデアづくりのきっかけになった方もいるのではないでしょうか。

GCカタパルトは、今後も各分野の専門家による講演会など、さまざまなイベントの開催を予定しています。興味があるテーマがあれば、気軽に参加してみてください。

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