Mar 23, 2020

介護現場の「ごめんね」を「ありがとう」に ―Swalloweeが目指す「介護をする・される」関係のない社会―

Game Changer Catapult

介護現場の「ごめんね」を「ありがとう」に ―Swalloweeが目指す「介護をする・される」関係のない社会―

Written by Swallowee リーダー 原田 彩乃


「スプーン一杯の水で溺れる」※1という言葉をご存じですか?私たちの多くが普段何気なく行う「水を飲む」という行為は、生きるうえで一日も欠かすことのできないものです。しかし、病気の後遺症や加齢による筋肉の衰えなどにより、たった一杯の水を飲み込むことが困難な方が存在します。

ケア家電でお困り事を解決する

パナソニックの新規事業創出活動Game Changer Catapult (ゲームチェンジャー・カタパルト)で、新規事業アイデア「Swallowee (スワロウィー)」のリーダーを務めている原田彩乃です。私は大学時代に社会課題を体験するフィールドワークに参加し、初めて介護の現実を知りました。それは想像以上に厳しいものでした。

老いるということは、今まで難なく出来ていたいろいろな事が、だんだんと困難になることでもあります。それは当事者だけでなく、サポートする人にとっても精神的、肉体的な疲労を伴います。この、いつか自分も直面するであろうと思われる現実を目の当たりにしたことがきっかけで、介護課題の解決に興味を持ち、入社後もその思いを持ち続けていました。

そんな時に、「Team Ohana」という社内の有志による、ケア家電を考える集まりがあることを知りました。Team Ohanaとは、Game Changer Catapultの第1期ビジネスコンテストにおいて、嚥下障害者向けの食のソリューションを起案したメンバーによって設立されたグループです。「介護によって支援が必要な方々に向けた『ケア家電』をお届けしたい」というグループ創立の思いに共感した様々な分野・職種のメンバーが社内外から集い、「介護・ケア」に関するニュースの共有や、それぞれが課題に感じているテーマを自由に議論しています。このTeam Ohanaの活動に積極的に参加する中で、嚥下障害というものを知り、嚥下障害で苦しんでいる人のお役に立ちたいとう思いからSwallowee のアイデアが生まれました。

みなさんは「嚥下障害」をご存じでしょうか?嚥下障害とは、病気の後遺症や加齢による筋肉の衰えなどによって食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる症状です。

乳幼児から高齢者まで、誰でもなる可能性がありますが、特に高齢の方に多く見られます。

ある研究によると、日本の65歳以上の高齢者の3人に1人は食事中にむせるなど、嚥下障害の症状を発症している疑いがあるそうです。嚥下障害を発症すると、食べ物や飲み物が食道ではなく気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」を引き起こし、「窒息」や「誤嚥性肺炎」など、命に関わるリスクが増加します。

とろみ飲料にまつわる課題解決で、介護現場に笑顔を!

私たちはSwalloweeという、とろみ飲料自動調理器と、機器の使用を通じて取得できるデータを活用し、嚥下障害を持つ方とその周囲の方をサポートするサービスの実現に向けて取り組んでいます。水による誤嚥を防ぐためには、「とろみ調整食品」という主に粉末状のものを飲料に混ぜ、とろみ付けを行います。一見シンプルですが、結構難しい作業です。しかも、一日に何度も行う「水分摂取」の度にとろみ付け作業が不可欠なため、とろみ飲料を作る人にとっては、精神的にも肉体的にも負担になります。実際に、介護でとろみ飲料を日常的に作っていたTeam Ohanaメンバーの1人は、日々の作業のストレスでだんだんとイライラが積り、とろみ飲料を巡って家族と口げんかになってしまうこともあったそうです。この様な課題を解決し、介護者の日常の負担を取り除きたいという思いが湧き、4人のメンバーと共にプロジェクトを開始しました。

適切に食事をサポートすることは、食べる楽しみを取り戻すこと、生きるうえで必要な栄養を摂ることに加え、誤嚥性肺炎や窒息などのリスクを減らすことにもつながります。介護が必要な分野は、生活の様々な範囲にわたりますが、私たちは家族が長い時間をかけて行っている飲食の介護課題の解決を通して、介護の在り方を変えていきたいと考えています。

1_Picture of Swallowee members_Swalloweeメンバーの集合写真Team Ohanaのメンバー

インタビューで感じた課題の深さと「作り手」「飲み手」双方の思い

摂食嚥下障害の専門医や、言語聴覚士、在宅介護家庭などにインタビューを行うと、家庭でのとろみ飲料作りは、思った以上に深刻な課題を抱えていることがわかりました。

飲料の誤嚥を防ぐための「とろみ付け」のレベルは薄い・普通・濃いの3段階に分類されていて、その人に合ったとろみが求められます。(※2

しかし、とろみの度合いは、飲料の量や種類、温度、そしてとろみ調整食品そのものによって左右されるため、プロでさえも出来上がりにばらつきが生じてしまうことがわかりました。そんな困難な作業のため、家庭で適切なとろみ飲料を作ることは容易ではありません。特に、とろみ飲料の知識が十分でない場合、「とろみさえ付ければ安全に飲める」という誤解から、とろみ調整食品の適切な投入量を超えて作ってしまうことが多くあるそうです。しかし、飲み手にとってとろみの度合いが適切ではない飲料を飲むことは、窒息や誤嚥のリスクを高めることにもつながります。それだけでなく、必要以上のとろみや、だまによって飲み心地が損なわれるため、それが原因でとろみ飲料を飲まなくなってしまい、その結果、脱水症を引き起こすことにもなりかねません。

2:出典「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013

2_Picture of Swallowee members with OSAKA CITY UNIVERSITY HOSPITAL Nutrition Support Team_大阪市立大学医学部附属病院栄養部の先生方との写真大阪市立大学医学部附属病院栄養部の先生方と

これらの課題に加え、嚥下障害を患う方々のナマの声を聞いたことが、何としてもこの事業を実現しなければならないという意を強くさせました。

大好きだったビールが飲めなくなった男性がの「ビールが飲めるなら死んでもいい」、というお話や、嚥下障害が悪化し、口から飲み物を摂取することが難しくなってしまった高齢の男性が、嚥下専門の先生同伴で、とろみをつけたコーヒーを飲む日を楽しみにしている姿。

様々な話を聞く中で、嚥下障害を持つ人が、飲むことを楽しめる、そんな日常を実現したいと強く思いました。

3_Picture of Swallowee members with  patient_嚥下障害を持つ患者さんとの写真嚥下障害を持つ患者さんと

Swalloweeで実現したい社会―「ごめんね」を「ありがとう」に―

Swalloweeを使用することにより、従来は手作業で行っていた複雑で、不明確なとろみ飲料作りを、簡単に、正確に行えるようにします。あとはコップに飲みたい飲料を注ぐだけです。このように、嚥下障害を患う方への特別な「ケア」を、嚥下障害が発症する前の生活と変わらない「日常」に変えることで、「介護をしている」「されている」という感覚をなくしていきたい、そう考えています。

家族の介護に直面した方のお話しをお聞きすると、「大切な家族だからこそ、自分がしっかりと面倒を見てあげたい」という気持ちがありながら、家族だけでは支えきれない現実に苦しんでいる方が多くいらっしゃるように思います。

家族に優しく接したいのに、介護にともなう精神的、肉体的な負担が原因で、ついイライラしてあたってしまう。そして、冷静になってから後悔をする。

私たちは、Swalloweeをはじめとするケア家電事業を通じて、介護にまつわる日々の負担を取り除くことで、介護をする・されるという関係をなくし、「ごめんね」というマイナスの気持ちではなく、「ありがとう」という感謝の気持ちを伝えあえる、そんな社会の実現をビジョンに今後も活動をしていきます。

Swallowee4.jpg社内でのイベントの様子

1「食べるを支える」(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック運営サイト)

2:出典「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013」

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