Oct 25, 2019

どうすれば「香り」はビジネスになる?香りの新規事業「Aromation」による挑戦

Game Changer Catapult

どうすれば「香り」はビジネスになる?香りの新規事業「Aromation」による挑戦

Written by Aromation リーダー 横田 雅美/

皆様には自分の「お気に入りの香り」はありますか?Aromationは「その時の自分にぴったりの香りを提供する」をコンセプトにしたGame Changer Catapultの事業アイデアです。香りをどうビジネスにするか、実証実験のレポートをお届けします。

「香り」のビジネスが抱える課題とは?

こんにちは、Game Changer Catapult (以下、GCカタパルト)の事業アイデア「Aromation(アロメーション)」のリーダーをやっている横田雅美です。(トップ画像の中央が横田です。ちなみに左右にいらっしゃるのは今回の実証実験でもサポートしていただいた皆様。右は株式会社スパホリデーズ代表取締役の芳賀みゆきさん(国際アロマセラピスト連盟日本代表)、左は株式会社スパホリデーズ アロマパシィーPR伊師ゆかりさん(アロマ環境協会 インストラクター/セラピスト)です。)

Aromationは「ユーザーのその時の気持ちや状態にぴったりの香りを届ける」をコンセプトにした、GCカタパルトの新規事業アイデアです(詳細はこちら)。

初めてお客様にお披露目した2018年3月のSXSW(*1)以降、2018年11月に実施したパナソニック100周年記念フォーラムでのNEXT100や、2019年2月のSlush Tokyo(*2)など、大きな展示会に出展してきました。

展示会では「香りと音・映像の演出を絡めたデモシステム」を用いて、来場者に今までとは一味違った香り体験を試していただき、大きな反響を得ました。これによって私自身も、「自分に合った香りを今までと違ったやり方で楽しむことに、価値を感じていただける」と手ごたえを感じることができたのです。

事業化に向けての次なる課題は、「香りの魅力のどこに着目してビジネスにするのか」を明確にすること。たとえば、「香り」を欲しているお客様は誰なのか、どのような課題を持っているのか、ということを明らかにしなければいけません。

そのために、展示会とはまったく別の取り組みが必要になります。そこで2019年5月から社員を対象にした実証実験を実施、具体的には「香り」についての情報交換や、気持ちに合う香りを選べるアプリのテストなど、ユーザーから直接意見をもらえる実験を設計しました。

今回の実証実験で確かめたいのは、「『そのときの気持ちに合った香りを教えてくれる』という価値は、本当にユーザーに求められているのか?」です。

現在一般的な香りの楽しみ方は、「自宅に所有しているアロマディフューザーで、良い香りやリラックスした時間を楽しむ」というものでしょう。この過ごし方は、特に女性に広まっていると感じています。

一方で、ユーザーの皆さまはアロマショップに行ってたくさんの精油の中から選択する際、本当に「今の私にぴったりの香り」を見つけ出せているのでしょうか。実は半信半疑で使っている人も多いのではないでしょうか。この「半信半疑」が結果的に「飽き」につながり、香りの本当の価値を狭めてしまっているのではないか、という仮説を私たちは持っています。

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*1 SXSWとは?:アメリカ合衆国テキサス州オースティンで毎年3月に開催されるデジタル・インタラクティブや映画・音楽の分野での世界的規模の大型展示会。1987年に音楽イベントとして始まり、1994年にフィルム部門とインタラクティブ部門が追加され、現在の形式となる。特にインタラクティブ部門は世界的に影響力があり、スタートアップ企業の登竜門として、昨今、企業や投資家などから大変注目を集める。

*2 Slush Tokyoとは?:Slushは世界中からアントレプレナー、投資家、学生などが集まる、2008年に北欧フィンランドで始まった、世界最大級のスタートアップイベント。現在は、シンガポール、上海などグローバルに拡大し、東京での開催は2019年で5回目となった。

「気分にあった香り」という価値を確認するための実証実験の設計

そこで、実証実験を以下のような形で設計してみました。まず、参加者に10mlの小さいアロマオイル(約10個)のセットを1000円でご購入していただきます。その後、実証実験用のアプリを参加者のスマートフォンに提供し、アプリの指示に沿って、各自気分に合ったアロマを選択してもらいます。そこで実際にその香りを体験してもらい、気分に合っていたかどうかのレポートを提出していただいたのです。

参加者にはまずワークショップに参加していただき、その後の体験期間を4週間設けました。5月の第一回ワークショップの場所は「Wonder Lab Osaka (ワンダーラボオオサカ)」。ここはパナソニックの本社技術部門に近いイノベーティブなワーキングスペースです。また、6月には大阪駅直結の商業施設GRAND FRONT OSAKA (グランフロント大阪)内のパナソニックセンター大阪にて、第二回を実施。合計38名が実験に参加し、25名の方から結果レポートをいただくことができました。

1_グランフロント大阪で行われたワークショップの様子_Workshop at Grand Front Osaka.JPGグランフロント大阪で行われたワークショップの模様

実証実験の一番の思い出は、レポートを一つひとつ読み、ユーザーの想いを定量的、そして定性的に解析していったことです。というのも、アンケートのような選択式回答形式ではユーザーの真の意図が図れないと思い、あえて日記のような報告スタイルで実証実験を決行したんです。これは以前家電部門でデザイナーをしていたときの経験に基づいたUXリサーチ手法でした。家庭訪問調査を計画した際、訪問前に写真日記を被験者に課したところ、訪問前から気になる事象についてメールでコミュニケーションができ、ユーザーのインサイト発掘に有効だったのです。その経験にもとづいて、調査方法を今回のAromationの実証実験向けにアレンジしました。

また、当初はエクセル形式で「日時」「使った際のシーン(就寝時など)」「どんな気分の時」「結果どういう気分になったか」について記録してもらおうとおもっていたのですが、「エクセル作成が負担」「会社のメールでうまく転送できない」などの声があがってしまい・・・。それが理由で実験が嫌になってしまうのは本末転倒です。なので、ユーザーの意図がそのまま伝わる様、「簡単なメモ形式でも良いです」、「都度メールで送っていただくことも可能」、「記録形式は自由です」と対応に追われたりもしていました。

そんなこんなだったので、とにかく実証実験結果の解析が大変でした。生の声をたくさんいただけたので、定性的データとしては充実したのですが、実証実験後の報告には定量データを求められていたため、データ分析と整理に苦労しました。

必要なときに「香り」は使われない? 実験で見えてきた課題

2_WLOで行われたワークショップの様子_Workshop at WLO.JPGWLOで行われたワークショップの模様

実証実験で一番知りたかったのは、「自分の気持ちに合わせて香りを選べるということに、価値を感じてもらえるのか」ということでした。

実験後のレポートを解析した結果、「気持ちに合わせて香りを選んでみた」というグループと、「もともと好きな香りのみを選んだ」というグループに分かれることがわかりました。事前にある程度予測はしていましたが、既に「この香りが好き」という意識がユーザー側にある場合、それを変えることはなかなか難しいことを再確認しました。例えば、「香りが好きなのでワークショップには参加するけど、好きな香りと使う時間は自分の中でルーチン化しており、新しい習慣にトライする気はないので実験には参加しない」と表明した方が5名いました。つまり、既に「香り」を取り入れた生活をして、その生活習慣がルーチンワーク化している人は、我々のターゲットではないのかもしれません。

一方で、この「自分の気持ちに合わせて香りを選ぶ」という新しい習慣にトライした人のグループは、レポート提出者の中の12%とボリュームが小さいものの、ターゲットユーザーになりうる大きなポテンシャルがあると感じています。新しい習慣にトライする人はどんな人なのか、その人たちと香りの今の関係は、何がモチベーションになっているのかなど、今後も深掘りしていく予定です。

また、「気持ちに合わせて香りを選ぶ」という新たな習慣について、「やらずにはいられない」ところまで根付かせるモチベーションをつくることも、新たな課題として浮かび上がりました。

実験の結果から、1日のうちに「香り」を体験する生活シーンは「1日の終わり(44%)」「1日のはじまり(22%)」「職場での切り替え(18%)」、という3つのシーンが、大きく見て取れることがわかりました。一方で「疲れているとき」など、「香りに頼りたくなるのでは」とこちらが想定していたシーンでは「疲れすぎてAromationは使わなかった」、「すぐに寝た」、という結果が出ています。「疲れている場合に面倒なことは絶対しない」という声も多く聞かれ、Aromationという体験を設計する上でクリアしなければいけない課題が発見できたと感じています。

「なんか素敵」「いい感じ」じゃ足りない。私たちが目指すのは香りの日常化

3_WS参加者と語る横田_Yokota discussing with attendees for WS.pngワークショップにて参加者とディスカッションする横田

正直なところ、最初のワークショップを募集して40名の枠が2日で埋まったとき、人気ぶりに安堵とすると共に、少しの焦りもありました。というのも、参加希望者には技術部門の社員が多く、「香りと気持ちの相関」という科学的なエビデンスが得にくい価値に共感が得られるか不安があったためです。その反面、エビデンスの得にくい「まだ確立されていない」分野こそ、新規事業として立ち上げ甲斐があるという根拠のない自信も、自分の中に確かにありました。

案の定、ワークショップを開催し、実証実験をやってみると、その「まだ確立されていない分野」に対しては質問攻めでした。香りと気持ちの相関については、市場のアロマテラピーで説明されている内容を元にしているのでまだ良いのですが、アプリで体験してもらう「音楽をベースに気持ちを表現してもらう手法」については「本当にこれが今の気持ちなのか」「その気持ちにこの香りはあっているのか」「どういうエビデンスか」と質問攻めになりました。やはり五感に対するアプローチは、自身の状態を定量化・見える化して納得させる必要があると強く感じました。

一方、今回の試みを通じて、普段社内で接することのない方々との広くつながれたことは、大変有意義でした。香りに興味のある方は女性が多いのですが、男性参加者の中にもアロマ検定1級を持っている方がいたり、「遠方なのでワークショップには参加できないけれど、実験には協力する」という方からレポートを回収できたり、心強い仲間とのネットワークができていく様子に勇気をもらうことができました。

加えて、パナソニック社内の他の部門で「香りの価値を新規事業テーマにしたい」という人がいることも判明し、「香り」というユーザーに新しいベネフィットを与えうる要素にいろんな人が注目していることを改めて実感できました。

香りは展示会デモシステムのような非日常な場所では、「ぜひ体験したい」「良い体験だった」と言ってもらいやすいのですが、日常化するには、つまり生活に落とし込むには、まだ工夫が必要であると感じています。今現在の香りには「なんか素敵」「いい感じ」というふうに価値を理解してもらえていますが、「毎日生活に取り入れたい」という自分ごとに落としこむまでには、まだ乖離があるようです。アロマテラピーが持つ香りの種類によって、人の気持ちや状態に影響を与える効能を、いかに必要な人に利用してもらえるようデザインできるかが、課題として残っています。

私たちが「自分に合った香りを届ける」という価値にこだわっているのは、「そのとき、そのときで好きだと感じる香り」が、その人の今の状態を表す重要な要素だと考えるからです。新しい香りに挑戦する習慣をつくることで、多様な香りがその人の好みの可能性を広げるかもしれない。いわば「香りの日常化」の可能性をユーザーの生活にもたらすというのが、Aromationのビジョンです。

香りは「なりたい自分」や「今の自分の状態」を知る大事な道しるべになり得るし、ほしい「香り」を選ぶという体験は、よりユーザーの生活を豊かにしてくれるはず、その想いを胸に、今後も挑戦していきます。

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