Apr 5, 2019

Slush TOKYOというデザインシンキングの舞台

Game Changer Catapult

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Slush TOKYOというデザインシンキングの舞台

Written by Game Changer Catapult サポーター 片岡 由梨奈(パナソニックアプライアンス社デザインセンター エンターテインメントデザイン部所属)

今まで見たこともないような新しい物事を見つけたとき、クリエイターのカリスマ的なセンスとひらめきで生まれたのだろうと思っていませんか?素晴らしいアイディアの種であればこそ、最初のアイディアのまま、あるいは当事者のみで育てていくことは非常に難しいことです。仮説を立て、ターゲットユーザーと話してみて、あらゆる角度から客観的に検証して、そこから得られた要素を取捨選択し、アイディアに取り入れていくという地道なステップの繰り返しがアイディアをとぎすませます。いわゆる「デザインシンキング」という手法です。そしてその繰り返しこそがクリエイターのセンスが強く問われる場所であり、クリエイティブなものづくりに本当に必要なことなのです。

本当のクリエイティビティは繰り返し確かめる中で研ぎ澄まされる

私は日ごろ、デザインセンターでオーディオ製品のデザイン開発を行っています。ひとつの商品について多様なアイディアを展開しますが、それらを絞り込む際、主観的な自分の目だけで判断するのでは不十分です。職場の仲間たちに客観的な目で見てもらい、良い要素を洗い出して整理し、また同時に新たな気づきを得てアイディアを拡げ...の繰り返しで、徐々にある一つの答えにまとまってゆきます。

Game Changer Catapultのアイディアは、既存の家電の枠を飛び出した「未来のカデン」です。彼らも「デザインシンキング」の考え方を元に事業コンセプトを創りあげてSlush Tokyoに臨みました。彼らはどのような期待をもってこのSlush TOKYOという場に来たのか。事業アイディアのコンセプトとプロトタイプを出展することでどんな発見をしようとしたのか。デザイナーの目線からレポートします。

Slush TOKYOは、様々な人と出会いアイディアを検証したり、人々の共感を得て新たに気づきを得て、クリエイティブなアイディアを磨き上げたりする場として申し分ない、というのが実際に現場を見て来た私の実感です。デスクリサーチや特定の層へのアンケート調査では得られない声が聴けました。来場した様々なバックグラウンドの人から多様な視点を垣間見ることができ、それぞれのアイディアにも新しい視点に気づくきっかけとなりました。ここではいくつかのチームを紹介したいと思います。

DECARTE―多様な人が入り混じるSlush Tokyoだからこそ得られたインサイト

口腔内をカメラで撮影しお口の健康チェックをするデバイス「DECARTE」のチームは、Slush TOKYOでサービス具体化の新しい糸口をいくつか見つけました。「歯科医療」という専門性の高いテーマゆえに、出典前はSlush Tokyoの来場者の方には少しとっつきづらく感じられるのでは?という不安を持っていたようですが、現実味のあるアイディアに多くの意見が寄せられ、チームにとっても新しい発見が多くあったようです。

事業コンセプトを出展することで確認できたことの一つは市場別の反応です。Slush Tokyoは東京で開催されているものの公用語は英語、会場内の掲示やピッチは基本的には全て英語で行われます。そのため会場内でも日本人だけではなく、世界各国から多様なバックグラウンドの方がいらしていて、Game Changer Catapultのブースでも英語が飛び交っていました。

1_英語の掲示_English Signage.jpgGame Changer Catapultのブースも基本的には英語が使われている

そんな環境にDECARTEのプロトタイプを持ち込んだので、世界各国からの来場者の反応を確認することができました。わかったのは「日本国内よりも海外、特に欧米の人からの興味関心が高い」という点。逆に言えば欧米に比べると日本はまだまだ「お口の健康が体全体の健康に直結する」ということへの認知度が低い模様。日本市場をターゲットにする場合はどんな風にその点をアピールしていくか、ということが課題になりそうです。

一方で、日本人でもたとえば若い女性は、口腔内の健康とは別の観点で関心が高いということもわかりました。「健康」に加えて、「美」という観点です。よく噛むことが小顔効果につながることや、歯科矯正をして笑顔を美しくみせることなどが浸透してきたからでしょうか。例えば、審美歯科や歯科矯正の定期チェックをDECARTEを使って自宅で撮影するだけで行うことができれば、「美容」という側面から、より上質なサービスを安価に提供できることになるかもしれない。そんな可能性に気づくことができました。

2_DECARTEブースの様子_Booth of DECARTE.JPG

「スタートアップとテクノロジーの祭典」と銘打つSlush Tokyoには、様々な業界の方がアイディアを求めて集まってきます。Game Changer Catapult ブースにも投資家やスタートアップの皆さまをはじめ、教育業界、自動車業界、保険業界、地方自治体と様々な業界の方に来ていただきました。そのような環境のため、DECARTEチームもより専門的な検討をすることができたようです。DECARTEは当初、老人ホームなど歯科医や病院まで行くのが困難な患者のいる場面でのサービスを考えていました。Slush会場で保険業界に携わる来場者の方と議論することで、例えば「介護保険とセットで提供する共同事業の可能性」という新しいアイディアの可能性を得ました。また、専門家の皆さまにとっても、「医療機関と他のサービスがつながる」という点が高く評価される、という点も確認できました。撮影を行うことで患者の症状を事前に医師に提供できるため、実際の診察時間を短縮することができますし、定期的にこのデバイスを通しやりとりをする事で患者とのコミュニケーションも密にとれます。しかも医師にとっては安定して仕事を得られるという強みもあります。医師の仕事を奪うのではなく、医師、他のサービス、患者全てにメリットがあるという点をさらに自信を持って訴求していきたいと考えるようになったそうです。

Howling Box-使用シーンを忠実に再現することで得られたリアルな反応

もう一つ、印象的な検証を行なっているプロジェクトがありました。ジュークボックスのようにバーで音楽をリクエストしコミュニケーションを生む「Howling Box」です。 Howling Boxには大きく2つのアピールポイントがあります。1つ目は、アプリにより近くのバーで流れている音楽が地図上に表示される店舗検索機能です。今までちょっと行きづらかったバーも、自分のお気に入りの曲が流れている!と背中を押され、バーを利用するきっかけ作りになります。2つ目は店内カウンターに1人1つずつあるランタンの光り方が変わる機能です。今流れている曲をリクエストした人のランタンがクルクル回るように光っていたり、周りの人が流れている曲を気に入ったらアプリでリアクションを送るとリクエストした人の光の色が赤く変化したりします。流れている音楽をきっかけに店のお客さん同士のコミュニケーションを生むことがねらいです。

これらのアピールポイントがユーザーに受け入れられるか検証するため、実際にバーカウンターで向かい合いながらアピールポイントを説明していました。

3_Howling Boxブースの様子_Booth of Howling Box.JPG

その結果、最も反響があったのは「曲をリクエストしたのが誰なのか一目でわかる」というポイント。「今まではバーのマスターにこの曲は誰のリクエスト?と聞きに行っていた...こういうのが欲しかった!」という声がありました。リクエストした人のランタンがクルクル回っていたら、そっと話しかけてみようかなという気分にさせてくれる。ここに重点を置いたプレゼンテーションが効果的かもしれない、というヒントも得ることができたようです。一方で、「自分のリクエストが周囲に筒抜けになりすぎると恥ずかしい」という声もあがりました。公開度を調整できるようにする等、ブラッシュアップの余地がある点も確認できました。

Slush Tokyo会場で見かけた対話から新しいアイディアを生む仕掛け

2つのどちらの例も、来場者の感想、意見、反応から多くのヒントを得ていました。目の前で説明を受け、プロダクトを手にとって生まれ出る感情の動きやしぐさはピュアで正直なものです。そんな実りある会話の背景には、Slush TOKYOならではの仕掛けがありました。

まず、会場の雰囲気が他の家電ショーのような催しとは全く異なる印象でした。照明は暗く、ダークな色調のお洒落な什器や観葉植物などが置かれ、どこか飲食店やクラブのよう。あえて照明を暗くすることで、内にこもる雰囲気をつくり、かえって来場者同士、思い思いの対話が促される環境ができていました。また、それぞれの展示ブースも、品物を置いて見せる「Show」の仕組みだけではなく対話の場、「Experience」の場として機能させる工夫が凝らされていました。例えば他社ブースでは、サービスを実際に体験してもらうデモアプリを提供していたり、実際に動く商品を多数用意して一度にたくさんの人に体験してもらったりしていました。思いを持って作り上げた事業コンセプトを来場者の人に体験してもらう場をつくることで、共感が広がり、思いを実現していく後押しになっているのではと感じました。

さらに、会場内にいくつか設けられたピッチと呼ばれるステージでは、様々な人、会社、プロジェクトがひっきりなしにプレゼンテーションを行なっていました。もちろんすべて英語です。世界中様々な人にプレゼンテーションを聞いてもらえるので、グローバルに意見を収集し、より広い気づきを得ることができます。そして、自分の言葉でピッチを行えば、なにか意見を持った人に後から会場内で話しかけてもらえ、新たなコラボレーションが生まれる場になるという仕掛けです。Panasonicのメンバーも、果敢にピッチに挑戦していました。(ピッチの様子はこちらのレポートからどうぞ。)

Slush Tokyoの会場で発見した手法は、普段デザイナーとして働いている私の目にも新たな気づきとして映りました。日ごろは商品のデザインが決定するまでの業務が大半です。ですが、今後はプロダクトをとおしてユーザーとコミュニケーションする力、多様な人からインサイトを得る力を身につけることで、さらに強いプロダクトデザインを作れるのではないかと思っています。私自身も、Slush Tokyoでの気づきを生かして、「デザイン」でより多くのユーザーのお役にたてるよう、挑戦していきたいと感じさせられました。

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