Oct 23, 2018

クックパッド小竹氏と語る:食×テクノロジー 未来のキーワードとは?

Game Changer Catapult

クックパッド小竹氏と語る:食×テクノロジー 未来のキーワードとは?

「食・料理」を重点エリアのひとつと考えているGame Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)。毎日の生活に欠かせない食。その現状と未来、そしてテクノロジーとの融合についての対談が実現しました。お招きしたのは、広告代理店でWeb広告を手掛けた後、現在クックパッドでブランディング等を担当され、前職よりパナソニックとは関わりがあるという小竹貴子氏。Game Changer Catapult事業開発総括の真鍋と、「食×テクノロジー 未来のキーワードとは?」というテーマで、白熱したトークが繰り広げられました。

食・料理の課題や問題点から見える、その先のビジネスチャンス

小竹:食と料理についての課題は色々ありますが、一つはスキルかなと。料理はすぐに誰でも上手になるものではないと、当たり前のことですが理解したほうがいいなと思います。ただちゃんと練習すると間違いなく上手になります。千切りだったり、あと火加減もそうです。練習しなくてもそれなりに美味しく料理が出来ちゃう電子レンジやオーブンがあるので、失敗のプロセス、反復練習のプロセスみたいなものがどんどん進化して行く現代では、テクノロジーが、上達したという達成感や喜びをどう提供してくのかを考えなければなりません。クックパッドもレシピに依存しきってしまうと、失敗もなくできてしまうので、最終的には今のレシピという形ももっと進化すべきなのかとも思ったりもします。。御社も家電製品がないと料理ができない...という人を望んでいらっしゃいませんよね?

2_クックパッド小竹氏の写真_Picture of Ms.Kotake from Cookpad.jpgクックパッド株式会社ブランディング・編集担当本部長 小竹貴子氏

真鍋:もちろん、家電に依存している人は望んでいません。むしろ、食のきっかけとなって上達するプロセスを楽しんで、食をもっと好きになって、作る喜びを味わって欲しいですね。

小竹:依存ではない、言葉が少し悪いですが、レシピや家電を踏み台にしてスキルを伸ばしていかないと、料理は気がつくと、ただの作業になってしまうのは勿体無いなと感じます。話は少し変わりますが、料理や食にもっと思いやりを持ってほしいです。普通に誰かのために作るとか、作ってくれたから食べるみたいな心の繋がりみたいなものを、クックパッドや料理家電が作り出せるといいかなぁと思っています。

心のこもったお料理を食べているという実感、つまりそれほど値段も高くなくても旬の食材を使って美味しいものを作って食べられる生活があるだけで、幸せを感じられますから。最近は、毎日の生活や日常にお金を掛ける人が減っています。食費は節約して、年に数回旅行をするみたいな価値観もいいのですが、平日をどう心地よく生活するかということが、本当の豊かさに繋がるといいなと感じます。

真鍋:お客様の日常の暮らしをどう彩れるかが、当社の根幹であり、大事にしているところです。暮らしに寄り添うのがコンセプトですから。実際、Game Changer Catapultのビジョンステートメントにも「一人ひとりの暮らしの願い事や困り事に寄り添うこと」を入れています。毎日の生活で食は結構なウエイトを占めているんです。みんなが当事者として何かしら食に関わっていますから、共感も得やすく、必然的に中核のひとつとして事業開発を進めています。家族というカタチを含め、一人ひとりの課題に寄り添った結果、食のニーズが多く、ビジネスチャンスも含めて多いと思っています。

3_GCC真鍋の写真_Picture of Manabe from GCC.jpg

小竹:それは嬉しいですね。「スマートキッチン・サミット・ジャパン2018」で男性の参加者が多かったのも嬉しくて。昔は食や料理というテーマでのイベントには、参加者を見渡すと業界関係者か、料理が好きな女性しか集まらなかったんですよ。ですから、あまりビジネスの話もなくて...。今回感じたのは、料理というものに対して、そこに未来とビジネスチャンスがあると多くの方が思い始めているのが感動です。今は、男性が料理を作っても楽しめる家電があったり、視点が変わるだけで自分たちが意識していなかった面白いものがいっぱい出てきたような気がします。男性が料理に目を向けた途端、低温調理やスモークコーヒー、ロティサリーなどの調理器具が男性の間で話題となっているのに驚きました。料理の価値観が性別を超えた瞬間に広がったので、さまざまな課題が出てくるのはとても面白いですね。

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「DeliSofter」は食の課題×テクノロジーの分かりやすいモデル

小竹:昨年のスマートキッチン・サミット・ジャパンの時に出されていた「DeliSofter」*1の話を聞いた時に、パナソニックさんらしい商品だなと思ったんですよ。その理由は2つあって、女性の生活者の課題意識から生まれているプロダクトだということ。もうひとつが、元々あった圧力なべのテクノロジーを使い、発想の転換で電子圧力なべを作ろうとしていること。これは大企業にしかできないと思います。御社の「DeliSofter」では、介護食を作るのは高齢者同士や子どもとか、性別だけでなく、いろんなバリエーションの作り手が生まれることも興味深いことです。クックパッドでは出しにくい介護食とかでも、家電という入口があれば、市場を広げてくれる嬉しさがあります。「DeliSofter」は、それをされている商品だと思いますが、他の商品もそうなんですか?

真鍋:「DeliSofter」にこんなに共感していただいて嬉しいです。他のアイディアにも共通するのですが、デジタルトランスフォーメーションなど世の中が大きく変わりつつある時代において、新しい価値提案や、その先の社会課題へのアプローチというのは自分たち1社だけでは到底できないという前提で活動をしています。ですので会社の枠を超えて社外の方々と共創し、それぞれ持っているバリューを持ち寄るみたいな感じですかね。

5_議論の様子の写真_Picture of discussion.jpg

小竹:外部のパートナーさんと組んだ「Ferment 2.0」*2では、味噌メーカーのナンバーワンと組むというやり方や、既存のアセットを新規事業で生かすなどのチャレンジを沢山されていますしね。

*1...咀嚼する力や飲み込む力が弱い方でも、見た目と味はほぼそのままに、料理を柔らかくできる調理器のアイディア、Game Changer Catapultのビジネスコンテストを通過し、2017年3月にサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)に出展された。

*2...マルコメとコラボレーションして作られた、お客様の好みに合わせた味噌作り材料キット。センサーにより最適な食べごろを通知してくれる。2018年3月にSXSWに出展された。

クックパッドが注目しているキーワードと食×テクノロジーの関係

真鍋:今、クックパッドさんが注目しているキーワードはありますか?

小竹:一つに絞りきれないですが、一つは「スマートキッチン」でしょうか。機械と人間の共存みたいなのには興味があります。あとは「ローカル」。クックパッドは、2020年に100国ナンバーワンになろうというのをテーマに掲げています。しかし、世界中の人が同じレシピが見られるというメリットではなく、自分の住む街で、その場所、その場所で取れる食材を使った美味しい食べ方を通じた小さなコミュニティを作りたいと考えています。注目しているのは、どうその土地にあったコミュニティを作っていくか、その文化をどう守っていくかです。日本の場合、料理という点に関しての文化は戦後に確立されて来ました。しかし、アフリカのケニアには、まさにこれから新しい料理文化、食文化が生まれて行く途中。採れたものを食べるだけで、美味しい食べ方を知らない人も多いようです。クックパッドハウスというコミュニティスペースの中で、現地の方に料理を教え、その人たちが自分の家で料理を生み出す、まさに食文化の生まれる瞬間、文化の創造をサポートしたりしています。

冒頭にも話をしましたが、料理は絶対1回で上手くならないし、失敗の繰り返しで上達に向かっていきます。どれだけ失敗したかが、料理上手にさせると思うんです。事業やコミュニティづくりも一緒かなと思っています。トライアンドエラーで、どんどんと磨かれて上手くなっていくなんだろうなと。

クックパッドは、失敗をせずに料理ができるというのがウリなんですけど、料理上手になってもらうために、うまく学ぶきっかけ、そして極端な話でいうと失敗をどう作っていくかが今後の一つのカギではないかと思っています。料理を作る達成感やスキルをどう磨いていくかが現状の課題かもしれません。

事業と料理は似ていて、いろんなもので連携するし、一概に正解はなくて、だからこそ楽しいんでしょうけど。モノ作りも一緒じゃないですか?

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真鍋:はい。最近のテクノロジー側の言葉で言うと、アジャイル開発というんですが、失敗が当たり前の中でいかに繰り返して失敗をしながら前に進めるかということを意識していますね。「いいね」とか「それ嬉しい」と言ってくれる、本当に困っているお客様のフィードバックを最速で反映して仕上げていくよう心掛けています。失敗した時には原因分析もしますが、精緻に時間をかけて課題を明確にしてからでないと次のアクションに行かない、という風にはしないようにしています。失敗から学べる本質課題と、自分たちが実現したい事への意志であったり、新しい価値への一種の遊びなんかも含めてスピーディーに仮説を作り、検証するサイクルを素早く繰り返すことを意識しています。

小竹:クックパッドもそうで、ユーザーのために作っているものより、まずは自分が心から欲しくて作ったっていう方が面白いんですよね。主婦はこんなものに困っているだろう...と想像してつくるものは、なんだか面白くなかったり、悪くいうと上から目線だったりするのが多いんですけど、自分が困っているから...というものは真剣度が違います。ですから、遊びが入れ込めないと面白くないというのも分かる気がします。遊びを加えるために取り組まれていることや、遊び感覚を取り入れる方法はありますか?

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真鍋:「知の探索」は意識している事のひとつで、あえて違う業種の方たちとワークショップや、仕事に関係のなさそうなイベントに行ったりして交流しています。そうするとインスパイアされたり、気付きもあったりするので、それは意識的にやっていますね。それが正しいかは試行錯誤中ですけど。

小竹:会う人みんなに「クックパッド使ってます!」って言われるので、クックパッドは愛されている、なくてはならない存在で、みんなが料理をしていると思ってしまうのですが、一方で引いた所で見ると、圧倒的に内食する人が減って、外食する人が増えています。一般的な視点を持ったり、世の中で自分たちのポジションは何なのかと考えることは、料理に関して意識はしています。同時に、うちのスタッフにも多様な視線を持ってもらうようにしています。

私からも質問してもよろしいですか? 10年後のテクノロジーはどうなっていると思われますか?

真鍋:環境もテクノロジーも変化が激しいので、決め打ちはできないのではないでしょうか。その時々で例えば10年後の仮説を作りますが、固定概念にしないよう常に学び続ける必要があると思っています。また忘れてリセット、アップデートする感じです。うちのチームが掲げている「Unlearn」ですね。

そんな中でも今凄く注目されているのは、「CaloRieco」でしょうか。「CEATEC Japan 2017」で米国メディアパネル・イノベーションアワードを獲得するぐらい注目を浴びました。健康と食を考えたもので、日本だけでなく欧米でも、例えば肥満や糖尿病といった社会課題へのアプローチとして、カロリーや栄養素などのデータを活用できないかというムーブメントがきていて、そのあたりのテクノロジーは熱いと思います。

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小竹:栄養素もまだ見つかっていないものもありそうですよね。そこの曖昧さもこの機械が学習してくれたらいいですね。

真鍋:そうですね。どんどん学習したら、パーソナライズレコメンドもできるようになりますね。それを狙いのひとつに進めている事業アイディアに、「totteMEAL」というものがあります。冷蔵庫とスマートロックを組み合わせて、例えば都心のオフィスでは「ランチ難民」の課題がありますが、そういう方が好きな時に自分の栄養を考えられたお弁当が買える、というソリューションです。お客様の日常の食習慣や基本属性、実際の食事履歴などに合わせてメニューを提案したりするレコメンド機能も作っています。

食や暮らしのデータの総称として、我々は「ライフログ」と呼んでいます。お客様の暮らしに自然なカタチで寄り添い、こうしたライフログで直接繋がることで、こういうメニューがいいですよ、とか今の状態にはこういう栄養素を取り入れたレシピはどうですか、とかおススメをしたり、それを察してそういう食事や食材が届いたりすることがうれしいという人もいるかもしれません。テクノロジーの力でお客様の暮らしに自然と寄り添う=日常的に繋がり続けると、お客様への理解が深まりますし察する事ができるようになると思います。それが使う人にとっての価値になるし、喜んでいただける体験が広がっていくんじゃないか、という思いでやっています。

食・料理の未来、そして両社で手を組んでやれることとは?

真鍋:日本の食文化は豊かだと思っているのですが、未来の食についてどうお考えですか? 先程、食文化のローカルな部分を守っていきたいとおっしゃったのは、変えない方がいいのか、変わっていった方がいいのか、どちらでしょうか?

小竹:私の意見でいうと、食材は変わらない方がいいと思っています。食材の多様性は地域の気候や土・水などによって変わってくると思うので、全部一緒にしたら面白くありませんよね。地元で採れるものを地元で美味しく食べる。まさしく地産地消=コミュニティということです。究極をいうと、たまに、お金ではなく物々交換で生活ができたらいいんじゃないかと思っています。私の家はキュウリを作ったから、あなたのナスと交換しない? となった瞬間、全くお金の価値観が変わりますよね。お金じゃない通貨が生まれるところが食材だと思うんです。極端な発想ですみません。

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真鍋:それはおもしろいですね。わたしたちも、これからのコミュニティのあり方には注目しています。Ferment 2.0チームは「Miso Ball Club」というコミュニティを作れないかと試行錯誤しているのですが、例えば、自分で作ったその家の味噌を誰かと交換したりすることでコミュニケーションが生まれたり、リアル×バーチャルのコミュニティにならないかなと。なくなりつつある食文化を、気候、食材、その土地の水、固有の菌などをデジタルで見える化して、「誰々さんの味噌がそろそろできあがるね」みたいなものをコミュニティでやっていけたらどうだろうという試みです。このような物々交換みたいなものって、これから来ると思いますが? 

小竹:味噌、野菜、魚などの交換で食が成り立っている生活と、高級スーパーで食材を買うのとではどちらが豊かというと、圧倒的に前者の方が幸せ度は高いし、モノを大切にしますよね。先日、ラオスに行った方から聞いたのですが、スーパーの商品がタイからの輸入だから凄く高いらしいんです。ただ所得が低いラオスの方が貧しい生活をしている訳ではない。スーパーではなく、近くのマーケットで買い物をし、そして時には物々交換をして生活をしているようです。お金に依存しない世界は食だからできそうな気がしています。

仕事のシェアリングは徐々に進んでいますが、食に関してもシェアリングができてもいいかなぁと思います。東京で物々交換は難しいかもしれませんが、地方ではできそうですよね。そういう場所作って、そこにレシピがあったり、共有するプラットホームに御社が作られたものがあったりしたら面白いなと。近い将来、そうなるんじゃないですかね。

真鍋:お金という価値交換ではなく、コミュニティの中で完結するエコシステム的なものを、最初は実験的かもしれませんが、やってみたいなとは思います。

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小竹:GDPが低くて幸せ! みたいな。それは食ならできる気がします。

真鍋:実際に途上国ではできているんですからね。

小竹:そうですね。豊かな食材があるところではできると思います。

よく「10年後の食はどうなっていると思いますか?」と聞かれるのですが、それって自分たちが頑張るか頑張らないかの話ですよね。クックパッドは世界でいうと約1億人の方が利用してくれています。つまり私たちかどう場を作るかですかね。ある意味時代のトレンドに逆行している、でもそこにチャレンジするのはワクワクします。

真鍋:データだけ見るとそうなっちゃいますよね。

小竹:そうなんですよ。だからアクションを起こさないと危ないと思っています。一方でポジティブな考えでいうと、今どの国も取り組む働き方改革で時間に余裕が出てくるので、料理をする人が増えるのかなと期待しています。しかし、時間ができたらゲームをするなどのバーチャルな世界を楽しむ人が多くなったりするかもしれませんよね。今が過渡期な気がして緊張感が走ります。

真鍋:食に関する達成感を得ていただけるきっかけを、ぜひ仲間として声を掛け合いながら、色々な取組みを進めていきたいと思っています。

小竹:私からするとパナソニックさんに追いつけで頑張ってきただけに、そう言っていただけるだけで感動...みたいな感じです。パナソニックさんにずっとクックパッドを応援していただいたので頭が上がらないです。

真鍋:お客様のことを教えてもらっている立場なので、少しでも恩返しできるように頑張りたいです。

小竹:私たちも頑張ります!

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Special thanks:クックパッド株式会社   https://cookpad.com/ 

プロフィール--------------

小竹貴子

クックパッド株式会社 ブランディング・編集担当本部長

株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。マーケティング支援事業の柱であり、広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月、クックパッド株式会社ブランディング・編集担当本部長就任。

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