Jul 26, 2019

ギフモ 株式会社Episode0 - DeliSofter商品化への挑戦-

Game Changer Catapult

ギフモ 株式会社Episode0 - DeliSofter商品化への挑戦-

Written by Game Changer Catapult サポーター 新井 雅美/ コミュニケーションマネージャー 湊 麻理子

こんにちは、GCカタパルトサポーターの新井雅美です。この度、新規事業創出を目的としてパナソニック、スクラムベンチャーズ、そして株式会社INCJの合弁で設立された株式会社BeeEdge*から、「摂食嚥下(えんげ)障害に関する課題解決を目指す『ギフモ株式会社』を設立・事業開始」との発信がありました。(プレスリリース)Game Changer Catapult(以下GCカタパルト)のビジネスコンテスト出身者から初の事業化です!チームメンバーの家族の嚥下障害をきっかけ、「年をとっても、最後まで家族で同じ食事を食べられるソリューションを提供したい!」という強い想いから「DeliSofter」は生まれました。料理の見た目と味はそのままに、かまずに簡単に飲み込める柔らかさの調理ができる、というソリューションです(詳しくはこちら)。社内のビジネスコンテストを勝ち抜き、SXSW2017に出展して華々しい注目を集めたDeliSofter。大変注目された後、紆余曲折を経て事業化にこぎつけました。この2年間、DeliSofterはどのように困難を克服し、ギフモ株式会社としてスタートを切ったのか?同じパナソニック、アプライアンス社の仲間として感じていた「パナソニックで新しい事業をどうやったら生み出せるのか?どんなところに難しさがあるのか?」という疑問を元に、DeliSofterプロジェクトを始めた水野時枝さん、そしてギフモ株式会社の社長となった現在のリーダーである森實将さんに話を聞き、大企業で新規事業を生み出す難しさ、そして挑戦への志に迫ります。初回は、SXSWを経て、DeliSofterチームが新しい仲間を見つけ、事業化の兆しを見つけるところまでを追います。

*株式会社BeeEdge:新規事業の創出促進を目的として、米国サンフランシスコをベースに日米でスタートアップへの投資を行うベンチャーキャピタル「スクラムベンチャーズ」と、産業や組織の壁を超えたオープンイノベーションを活用し新たな付加価値創出を目指す株式会社INCJ、及び新規事業の創出を目指すパナソニック家電事業部門のアプライアンス社が共同で出資・運営する新規事業支援会社。 (公式Webサイト

DeliSofter SXSWへの出展、しかし思った以上に険しかったその後の道のり

最初のチームメンバーであった2人(水野時枝さん、小川恵さん)の家族に対する思いから始まった事業アイディアDeliSofter。事業に必要な「徹底した顧客目線」が、社内の事業性検討選考で評価され、2017年3月に出展したSXSWでは社外から高評価を得た。その後、事業部からの協力も入りDelisofterは事業化に向けて検討をすすめることになる。SXSWでの成功後、事業化に至るには時間が必要だった。

0_その後どうなった?DeliSofter商品化への挑戦_the untiring challenges of Delisofter.JPG2017年にDeliSofterをSXSWに出展した水野時枝さん。チームの「アジト」で話を聞いた。

私が水野さんの話を聞いて感じた、事業化の難しさの一つは 「徹底した顧客目線だからこその難しさ」だ。DeliSofterでは徹底して顧客目線に立ち「こんな商品がほしい」という切実な声を形にしたマーケットアウトの商品企画を目指している。その為、商品化にあたりどのような技術を掛け合わせるかを0から考える必要があった。「普段の仕事仲間がたまたま持っていた人脈を生かすなど、本当にいろんな方の協力のもと、手探りでやってきました。」水野さんが語るように、一つ一つの課題を自分たちで地道にクリアしていく必要があった。

もう一つの理由は、人の口に入る「食」をテーマにしているという事業の特徴だ。DeliSofterは、社外の人を集めたイベントやヒアリングも精力的に行い、そのたびにアイディアに対するファンは増えている。「ぜひこれを家庭で使いたい!」「飲み込むことが困難になった家族にも、家族の味を食べさせてあげたい」という言葉が広がった。その一方で、使う人の幅が増えれば増えるほど、商品化に向けてクリアしなければならない安全性のハードルは高くなり、検討しなければならないことの数も増える。アイディアが徐々に受け入れられ課題をクリアするたびに、新しい試練は次々と現れた。

二人だけでは何もできない・・・無力感をバネにDeliSofterチームがとった新しい道

慣れない英語に苦労しつつもたくさんの来場者から共感していただき、達成感でいっぱいだったSXSW。しかし、事業化に向けて課題は山積みであり、しばらくすると二人だけでは限界があるという現実に直面した。打開のきっかけとなったのはGame Changer Catapult代表の深田からの言葉だ。「水野さん、2人だけではやれることが限られてるでしょ?どうしたらいいと思う?仲間、集めてみたら?」そこで、半信半疑ながら仲間づくりを始めた。「最初に仲間づくりを始めようとしたときは手探りで、こんなに仲間が集まるなんて思ってもみなかった、でも、最初に仲間集めを目的に企画したイベントが満員になって、イベント終了後には『一緒にやりたい!』って手をあげてくれる人がいて、仲間が徐々に集まった時、本当に感動しました。」

1_決して平坦な未知ではなかったと語る水野氏_talking about Delisofter's long distance.JPG

2017年の6月に結成された有志サークル「Team Ohana(チーム オハナ)」には現在19名ものメンバーが集い、DeliSofterに加え様々な支援が必要な方々に向けた「ケア家電」の商品化に向けて活動している。自発的なグループだが、活動はとても活発だ。拠点が離れているメンバーが多いため頻繁には会えないが、彼らのオンラインチャットグループでは商品化のヒントになるニュースや情報が日々飛び交い、各メンバーの所属する部門を通じて既存事業の社員の巻き込みも広がっている。

「土日を中心に活動しています、貴重な休みを活動につかってくれるメンバーのために何かしたくて、私もお昼ご飯を提供したり、ワイワイと活動しています。定例会も毎回全員はそろわないけど、できる人達だけで少しずつでも進めるようにしていますね」。 自分が得意なところを頑張る、できる人に何でも聞いて協力し合う、がモットー。メンバーの勤務拠点が離れているというデメリットを逆に生かし、日本の中のいろんな拠点で市場調査を進めるなど、チーム全員で前進に向けて活動している。

4_研究を重ねながらチームに料理を振舞う_study for swallowing food.JPGTeam Ohanaの活動中の様子

当初DeliSofterの中心だった水野さん、・小川さんに加えて、今は新たに加わった森實さんがTeam Ohanaのリーダーを務めている。現在はギフモ株式会社の代表取締役だ。

6_Team Ohanaリーダー森實氏_Mr. Morizane in charge of Team Ohana.jpgギフモ株式会社 代表取締役 森實将

「もともと持っていた思いは『使ってくださるユーザーの顔が見える家電を作ってみたい』、というものでした。様々な技術の強みや蓄積があるパナソニックであれば色々なチャレンジができるのではないか?という思いでパナソニックに入社。『嚥下障害を抱えたユーザーに、いつまでも家庭で食事の喜びをお届けしたい』、という思いで、社内のノウハウを駆使して検討されているDeliSofterのアイディアはまさしく自分の思いと合致するものだなと直感しました。ケア家電を考えるイベントをきっかけに『一緒にやります』と声を上げました」と森實は語る。

7_Delisofterイベントでのプレゼン_giving a presentation at a Delisofter event.jpegケア家電について想いを語る森實さん

「水野さんが言うように、チームの力を自分も感じています。『ケア家電を世にお届けする』 という目指す方向は同じですが、個性豊かなメンバーが集まっていて、お互いに忌憚ない意見を言い合っています。フラットに意見を言い合える関係をプロジェクトを進めていく原動力にして、ケア家電を世に届けたい」。

エンジニアがメンバーに加わったことで、プロトタイプをチームの手で作ることも可能になった。 例えば、DeliSofterに続く事業アイディアの原理モデルはチームメンバーの手作りだ。「社内の人材のパワーって本当にすごい。パナソニックの経営理念に『衆知を集める』という言葉があるけど、今まさにその力を実感しています。今でもケア家電の事業化をあきらめないで前向きに進められているのはチームのおかげです」と水野さんは語る。多彩なメンバーが集まり、社会の課題について考える時間を共有することで、Team Ohanaの中からGCカタパルトの第3期、第4期のビジネスコンテストに挑戦するチームも次々と生まれている。

起案者の熱い想いから始まったDeliSofter事業と、多様なスキルや情報、そしてかけがえのない仲間が着々と集まった有志サークルTeam Ohana。彼らは今も定期的に会議やイベントを開催して生の声を拾い続けている。夏休みも毎日介護施設を訪問して、生の声を集めて回った。「少しでも生の声を商品化に生かしたい」との思いからだ。2019年2月には、パナソニックの拠点内での試食会も実施された。チャンスはいつ来るかわからない。チームのメンバーは、今日売り出すことになっても良いように、商品の開発だけではなく、事業化の後を見据えてマーケティングの勉強を始めた。様々な壁に悩み、考えながらもいつもその準備の手は止めない。お客様に商品を届けるために、今日も明日も活動はノンストップだ。

9_マーケティングの勉強本_studying marketing.JPG「いつチャンスが来るかわからないから」とマーケティングを勉強中

ケア家電を世に出す、という変わらない熱い志。それは2016年にチームが始まった時から変わらないものだ。そしてこの6月、ついに「ギフモ株式会社」という形で事業化のスタートラインに立つことができた。新たにチームに加わりTeam Ohanaの代表を務めていた森實さんが、新たに設立されたギフモ株式会社の代表取締役に就任した。これまで以上に色々な困難を乗り越えて、高齢者の「食」に関する課題を解決する、というビジョンに向けて邁進していく。

取材して感じた、新規事業に向けて挑戦し続ける人

今回の取材は「新規事業DeliSofterの挑戦をしていた人達はその後、どうなったのだろう」という自分の素朴な疑問からスタートした。そこには大企業ならではの醍醐味、難しさ、そして商品化に向けた変わらぬ挑戦の軌跡が今も続いていた。取材中に印象的だったのは、自他に対して素直な姿勢だ。「出来ないから助けて、教えてって言うんです。協力してもらいたい方に頭を下げ続けています」自らの強い信念と、お客様をとことん想う気持ちが、チームをケア家電事業への道へと突き動かしている。そして、もう一つ印象的だった言葉がある。「絶対に諦めないです。だってそこに待ってくれている方がいらっしゃるから。」という水野の言葉だ。自らの強烈なまでの経験と、そこから生まれた想いは今も薄まることなく、全ての活動の根源になっている。だからこそ「ギフモ株式会社」という形で事業化までたどり着くことができたのだと確信した。

GCカタパルトサポーター 新井雅美(アプライアンス社海外マーケティング本部コミュニケーション部)

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