Dec 28, 2018

大企業でも改革を起こす人材と新規事業を育てられるのか? 「大企業でイノベーションを起こすには〜企業内仕掛人サミット」

Game Changer Catapult

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大企業でも改革を起こす人材と新規事業を育てられるのか? 「大企業でイノベーションを起こすには〜企業内仕掛人サミット」

東京国際フォーラムで開催されたパナソニック創業100周年記念「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」の中で、「大企業でイノベーションを起こすには〜企業内仕掛人サミット」と題して、リーダーズセッションが行われました。長い歴史と過去の成功体験を抱えた日本の大企業が、どうやって新たな時代の新事業を切り拓くか。今まさに多くの日本企業が苦悩しているテーマを掘り下げながら、学術的な視点から現場のアクションまでカバーし、本音で語る幅広い議論となりました。Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)代表の深田昌則が、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授、ヤマハ株式会社の畑リーダー、キリン発ベンチャーLeapsInの日置代表取締役と登壇し、改革の現場からのリアルな声が聞こえたセッションとなりました。

当日の登壇者

モデレーター

  • 早稲田大学ビジネススクール 経営学博士 准教授 入山 章栄氏

パネリスト

  • ヤマハ株式会社 ブランド戦略本部 マーケティング統括部 UX戦略部 UX企画グループ リーダー 畑 紀行氏
  • 株式会社LeapsIn(キリン社発ベンチャー) 代表取締役 日置 淳平氏
  • パナソニック株式会社 アプライアンス社 ゲームチェンジャー・カタパルト代表 深田 昌則

イノベーションは、広い世界を巡り歩く「知の探索」から生まれる

入山: 私はいくつもの大企業の中で、イノベーションへの挑戦に関わらせていただいていますが、今の時代、どこも非常に苦労をされています。しかし一方で明るい兆しも出ていると思うのは、今ここにいるような仕掛人の方たちが企業の中に現れて、自発的に企業を変えようという動きを始めているんですね。今日はそういった方々が具体的に何をしているか、高尚な話ではなく泥臭い実際の行動を聞き、それを互いに持ち帰っていただきたいと思います。

ではまず私から、専門の経営学の視点から話をさせていただきます。この変化の激しい時代、かつては安泰だった事業があっという間に消滅するということも起こっています。だからこそ、自分たちが変化しなければならないという意味でのイノベーションが求められているわけです。

イノベーションの第一歩は、新しいアイディアを生み出すことです。では新しいアイディアとは何か。人間は、何もないところから何かを生み出すことはできません。アイディアは今ある既存の知と、別の既存の知の組み合わせでしか生まれないのです。このことは1934年に、イノベーションの父と呼ばれるシュンペーターという人が、「ニュー・コンビネーション」として提唱したことです。

ところが認知科学の問題として、人間の認知には限界があって、どうしても目の前にあるものだけを組み合わせる傾向があります。とりわけ大企業は、新卒一括採用で採用された似たような人材で構成されている場合が多い。同じ業界、同じ場所、似た人同士で提案し合う「知」は同質的で、なかなか新しいものは出てこないのです。

1_説明する入山准教授の写真_Picture of Iriyama.JPG早稲田大学ビジネススクールの入山准教授

この状況から脱却するためには、自分の領域から離れ、なるべく遠く、広く「知」を探索する必要があります。これをExploration(知の探索)といい、イノベーションのために決定的に重要です。かつて生まれたイノベーションは、全てこの探索から生まれています。こうして遠く離れたもの同士を組み合わせ、アイディアをたくさん出したら、その中から有望な事業アイディアを収益化して磨き込む、深掘りする必要があります。この磨き込みを、Exploitation(知の深化)と言います。知の探索と深化、この2つがイノベーションのために必要であることは、すでにわかっています。

2_イノベーションの生まれ方について説明する様子_Explaining how innovation is generate.JPG

ところが、多くの大企業では、知の深化にばかり偏る傾向があります。なぜかと言うと、人間は認知の限界のせいで、どうしても近くのものばかりを組み合わせてしまう。加えて、これはここにおられる仕掛人のお三方が経験されていることと思いますが、探索は大変なのです。知を組み合わせるための探索には人も、金も、時間もかかる上に、失敗も多い。大企業では失敗を嫌いますから、どうしても知の深化の方向に偏っていくんですね。この現象を「コンピテンシー・トラップ」と言います。

つまり、日本の多くの大企業でイノベーションが起こらない理由は、知の深化に偏りすぎていることであると、すでに明確になっているのです。

このように、企業でイノベーションを起こすためには、幅広い知の探索をどんどん行っていかないといけないのですが、これがとても難しい。短期的には無駄や失敗が多く、時間を費やして遠くにある知見を集めてくる知の探索は、失敗や無駄を許さない日本の大企業には嫌われます。大企業には、イノベーションを起こしにくい本質的な傾向があるとも言えます。

こういった状況の中で知の探索、イノベーションを起こそうとしているのが、今日登壇された仕掛人の方々ということです。皆さん、自分の思いやパッションで動いておられます。こういうやり方は、仕掛人というより「ゲリラ」的だと思うこともあります。今日はそんなお三方がゲリラとしてどういったアクションを起こされているのか、じっくり伺っていきたいと思います。

「未来のカデンをカタチにする」ために、キーワードはUnlearn & Hack

パナソニック株式会社 Game Changer Catapult代表 深田昌則

深田:創業100年の電機メーカーとしての経験の蓄積を、新しい事業の学習能力へ転換していかなければならない。そのために本社部門などのコア部門ではなく、組織の周辺(エッジ部門)から変革を起こそうとしています。また、これまでに学んだことを一旦横に置いて「Unlearn (アンラーン)」するということをつねに念頭においています。働き方を変え、社外の方々と共創して、大企業のプラットフォームを活用しながら、社会課題を解決する。そのためにGame Changer Catapultは企業内アクセラレーターとして、新しい価値を生み出し、加速する役割を担っています。

3_Game Changer Catapultについて話す深田代表_Masa Fukata talking about Game Changer Catapult.JPGGame Changer Catapultについて話す深田代表

我々のミッションは「未来のカデンを作る」ということです。従来のハードウェアとしての家電製品だけではなく、サービスやコンテンツ、デリバリー事業のようなデータ事業までを含めて新しい価値を提供する、という想いでカタカナで「カデン」と呼んでいます。

トップダウンの指示で部下が動く、あるいは若手の声が届いてトップが動く。それだけでは両者の間にいる中間管理職がうまく動いてくれない。我々はトップ、ミドル、フロントの三層に同時に働きかけるというアクションを起こしていますが、ミドルへの働きかけには難しさを感じることもあります。

Game Changer Catapultの活動のひとつに社内のビジネスコンテストがあります。書類審査を通過した7チームが数回経営幹部の前でプレゼンテーションし、短期間で検討や試作品の改良などを重ねて最終選考に臨みました。最終選考で選ばれた5つの事業アイディアは、3月にテキサスで開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)に出展しています。家電の展示会ではなくSXSWという映画や音楽、インタラクティブ分野の大規模イベントです。メンバーたちは普段会わないような様々な人の意見に触れ、自ら英語でアイディアを説明するという大変貴重な経験をしてきました。2016年にスタートして、現在は第3期のチームが走っているところです。

4_Game Changer Catapultの仕組み_Concept of Game Changer Catapult.JPG

我々のキーワードは、「Unlearn & Hack」。これまで学んだ仕事のやり方を一旦捨てて(Unlearn)、新たなルールを作って切り込み、実現していく(Hack)ということです。

もう1つのしくみとして、社内で事業化できない時には社外での事業化を視野に入れて、ベンチャーキャピタルの方と連携して事業会社を設立しています。パナソニックのルールではなく、ベンチャーとしての基準で新規事業を判断するということも始めています。

事業実現のカギは「人」「ビジョン」「強い思い」

ヤマハ株式会社 ブランド戦略本部 マーケティング統括部 UX戦略部 UX企画グループ リーダー 畑 紀行氏

:ヤマハは楽器と音響を主な生業として、創業130年を迎えました。ヤマハ最大の新規事業はヤマハ発動機株式会社ですね。新規事業の積み重ねの歴史は長いです。

ヤマハでは、Value Amplifier(バリューアンプリファイヤー)というしくみを作っています。AV製品を扱う会社なので、Amplifierという名前がつきました。Game Changer Catapultさんと似たところがあるしくみで、挑戦する風土を作るといった考えてやっています。今回はボトムアップ型のお話をご紹介します。イントレプレナー(社内起業家)を鍛え、外に出して羽ばたいてもらおうという取り組みで、スタートから3年半ほどが経っています。

5_ヤマハの畑リーダー_Mr. Hata from Yamaha.JPGヤマハ株式会社の畑リーダー

具体的なプロセスを簡単にご紹介します。期間は16ヶ月、金額は1000万円以内で、事業化審査までを駆け抜けてもらうことになっています。提案者のリソースは20%くらいを使い、80%は通常業務に割く。専任でイントレプレナーとなってもらうのが理想ではありますが、それだとどうしても提案者の数が少なくなってしまいますね。少数を抜擢するよりも多数の人からアイディアを募る方にフォーカスしています。

1期が半年というサイクルで、1期ごとに20人くらいがエントリーし、その中から5件のアイディアが通ります。この5件に平均で3人くらいのメンバーがつくことになり、合計で15人くらいが半年ごとに動くイメージです。

特徴としては、「人」そしてその人の「思い」に焦点を当てていることですね。ヤマハという企業のビジョンではなく、ばらばらの個人が持つ強い思いとビジョンです。

しかし基本的に募集に対しては似たアイディアばかりが集まってくるんですね。やはり同じ会社にいる人間は考えも、課題も、その解決方法も、発想が似てしまうんです。だからアイディアの良し悪しよりも、結局は「人」「思い」「ビジョン」だということをこれまでの紆余曲折の中で確信しています。

例えば、「アイディアが先に進まない」ということは往々にしてあります。アイディアソンをやったとしても、半日で作った事業アイディアに、人は自分を賭けられないわけですね。実現したいという強い「思い」を持つ人が中心にいなければ、アイディアは動かないんです。

他に、アイディアが定まらないということもよくありました。たとえばターゲットの課題解決のために何かしら仮説を立てて話を聞きに行くと、仮説とは違う話が出て来たという場合、アイディアを修正していく必要が出てきます。ここで明確なビジョンを持っていないと、仮説が迷走して着地できない。ビジョンという軸があって初めてアイディアのブラッシュアップが可能なのだと痛感しました。

ここで、Value Amplifierの卒業生をいくつかご紹介します。卒業した新規事業には、通常の部署と同じように予算がつき、まずは社内のいずれかの事業部で面倒を見る形となります。

まずは、「OMOTENASHI GUIDE」。音声アナウンスの可視化をすることで、聴覚障害者や外国人の方の課題を解決するサービスです。ですね。空港や駅などで社会実験も行いました。

次は「VOCALOID keyboard」。VOCALOIDというのはコンピューターによる合成歌唱技術なのですが、社内から「いや、自分で弾きたいんだ! 手で」という人間が出てきて、事業化することになりました。最近ようやく発売にこぎ着けました。

次は「tollite」、変わり種です。製造業に特化した映像制作サービスです。お客様ご自身で、テンプレートに合わせて撮影していただき、最終的な編集だけはプロの手で整え、品質を安定させてお客様にお返しします。

こうして卒業していくアイディアもありますが、一方で社内の多様性の限界も感じています。最近は社外から広くアイディアを募集するヤマハアクセラレータープログラムを実施したり、You Fabというアート系のコンテストにヤマハ賞を設定し、アーティストやクリエイターの方々と何か新しいものが作れないか、という取り組みもしています。

大企業から飛び出したイントレプレナー

株式会社LeapsIn(キリン社発ベンチャー) 代表取締役 日置 淳平氏

3人目のスピーカーは、株式会社LeapsIn(キリン社発ベンチャー) 代表取締役 日置 淳平氏です。日置氏はキリンという大企業の中で新規事業を提案し、企業を飛び出して別法人を立ち上げるチャレンジをされています。

日置:簡単に自己紹介から始めようと思います。新卒からキリンビバレッジという会社で働いていましたが、この7月にLeapsInという会社を立ち上げ、代表になりました。イントレプレナー(社内起業家)です。LeapsInは企業内ベンチャーで、キリン本社は中野にありますが、私は1人で東京駅近くのコワーキングスペースを借りています。

キリンにもヤマハさんと同様のアクセラレータープログラムというのがあります。本来は社外のベンチャー等からの応募を想定しているのですが、これに社内から応募して選考され、独立したということです。

私はもともと研究開発や生産管理に携わっていました。研究開発ではラボで試作品を作ります。ラボでは作れる、でも大量生産するのにはどこの工場で作れるかという点でいつも苦労する。私はこの問題を「どこでつくれるのか問題」と呼んでいます。工場を探して展示会を回り、インターネットで調べるのですが、回りを見ると誰も彼もみんな同じように工場を探していて、ひどく非効率だと思ったのです。

そこで、フード系スタートアップ企業や地域で特産品を商品にしたいと思っている人たちなど、大量生産の道筋がつかず困っている人たちのニーズに応じて、スケールアップに特化した事業を始めようと思ったのです。

6_LeapsInの日置氏_Mr. Hioki from Leaps In.JPG

LeapsInのチームは3名いますが、フルコミットしているのは私だけで、法務と財務を担当してくれている2名はキリンから兼務の形で出向してくれています。

私のミッションとして、古くアナログな食品業界の中で、情報の非対称性を解消したい。そして、多様性のあるエコシステムを構築したいという思いで取り組んでいます。食品の量産化で困っている、その他のことでも何かを一緒にやれそうだということがあったら、ぜひ声をかけてください。

イノベーションへの道は1つではない

各社新規事業の開発には苦慮しつつ、それぞれの企業に合ったスタイルを模索しているのがわかります。パナソニックとヤマハは大企業で新規事業を生み出す人材を育る取り組み、LeapsInの日置氏は、そういった取り組みの中から出て来たイントレプレナーでです。

深田:新規事業はできれば社内で事業化したいと思いますが、現実には既存の事業部が引き受けたがらないという場合があります。そこで社外でベンチャーキャピタルと組むなど、事業化を加速するしくみも作っています。できるだけたくさんのオプションを用意しておきたいのです。

入山:そういった仕掛けで日置さんのような人が生まれてくるといい、ということもありますね。

深田:ベンチャーキャピタルと共同出資で新規事業に投資するやり方にはポイントが3つほどあります。1つには、新規事業の目利きができるかどうか。大企業の幹部は、新規事業の目利きに関しては不慣れな点も多く、その場合は社外の方の力を借りたほうがいい。もう1つは、リスクをいかに低減できるか。パナソニックというブランドを背負っていると、失敗を繰り返すことに寛容ではいられない場合もある。3つめとしては、どうしても組織としてコンフリクトが起こります。新しいことをやろうとしている人たちと、既存の仕事を効率化したい人たちが一緒にいると、どうしても判断が定まらないようなことになります。そういう意味でも、組織を分ける意義があると思います。

:いろいろなやり方があるというのがとても大事なことです。社内で事業化できるのが羨ましいですね。新しいことをやり続けないと会社は死んでしまいます。

7_4人での議論の様子_Picture of discussion.JPG

:当社の場合は、経営層が危機感を持ち、新規事業への理解があるというのが大きいかなと思います。ただどうしても、新規と既存なら既存事業が重視されるのは事実です。

深田:当社の経営幹部も危機感は持っていますし、今までやってこなかった新しい事業に大きくシフトするという活動、たとえば自動運転車や現場ソリューションの事業へ、積極的に取り組んでいます。そういう社をあげての大きな動きとは別に、我々が取り組んでいるような、従業員が自ら発案し、パッションを持って、大企業の枠組ではできなかったようなことに踏み出す新規事業。この両方をやっていることが重要です。前者は入山先生の最初のお話にあった知の深化に当たり、後者は知の探索に当たると考えています。

:ボトムアップ型の新規事業への取り組みは、一個人が考えたわけのわからないものに見えますから、価値を信用してもらうのが難しい。でも自動運転車のようなトップダウン型の取り組みは信用されますよね。日置さんの事業も、信用されるのが難しかったのではありませんか。

日置:実は提案する側として、キリンの中でやるか外でやるか検討して設計していました。中でやると、やはりどうしてもうまくいかないことが多いと思って、外でやることにしたのです。また事業プランを作る時には、距離感の設計をかなり考えました。事業領域とマネタイズの2つの視点で、なるべく既存事業に影響しないよう設計したわけです。たとえばビールはやらないとか、ものを売って儲けるモデルではないということです。

過去に何度か提案して駄目だった経験から、ボトムアップ型はこうやってゲリラ的にやっていかないと残れないとわかってきました。上の人はシナジーということを言いますが、シナジーは後からついてくるものです。もし私が上にいたら、やはり既存事業を守ろうとすると思いますし。

イノベーションを阻む壁を突破するには

入山:今日のテーマにもなっている本題に踏み込んでいきたいと思います。大企業ならではの難しさ、もっとも手強い壁はどういうものかを話していただけますか。

日置:軽いところからいきますと、キリンにはミドル層の人たちが応援してくれる風潮がありますので、会社設立は非常に順調でした。でも新規事業案を通すまでが大変でしたね。外部のベンチャーさんの中で選考されましたから。

:一番説明が難しいと思っていることは、「偶発性を信じる」ということを理解してもらうことです。やってみなければわからないし、やった後の結果を噛み砕きながら別の道を模索する醍醐味が、既存事業側の人にはなかなかわかってもらえません。企業の中で「とりあえずやってみます」という文化をどうやって根付かせればいいか、教えてもらいたいところです。

8_議論する入山氏と畑氏_Mr. Iriyama and Mr. Hata.JPG

深田:我々も全く同じ課題を抱えています。参加メンバーが上司や先輩に相談すると、ことごとくセンスの悪い助言が出てくる。新規事業に取り組んだことのない人たちが、ひたすらPDCAを失敗なく回すためのアドバイスをするので、最近我々はメンターとして「上司と先輩には相談しないこと」「お客様のお話はとことん聞くこと」と言っているくらいです。既存事業で培ったノウハウは新規事業には活きないことが多いということをきちんと認識した上で、社内ではなくお客様の声を聞く。そういうことを文化として根付かせるために、とりあえずやってしまうということが大事です。

日置:とりあえずやるというのは大事ですね。大企業にいると「やる」の感覚が違っていて、ブレストしただけで全くお客様にリーチしていないのにやったつもりになってしまう。これでは何もしていないに等しい。「やる」という簡単な言葉ですが、実際にはとても難しいことです。キリンの場合はR&D本部(研究開発部門)には10%ルールというのがあって、あまり上司に行動の許可を取る必要がない、そういう権利があります。今の若い世代は真面目なので、そういう縛りのハードルを下げておくことは大事かなと思います。

入山:スタンフォード大学のCharles A.O' Reilly III氏とハーバード大学のMichael L. Tushman氏が、まさに大企業のイノベーションをテーマに米国で本を出しまして、私がその日本語監訳をやっているところです。この本で彼らが言っているのは、大企業でイノベーション、知の探索をするのに必要なものとして、まずは畑さんが言われたビジョンとパッションを強調しています。2つめは、新規事業を扱う分野は物理的にも法人格としても切り離した方がいいと。それから3つ目として、一番上、あるいは比較的上の層にいる人が守ってあげる必要があると書いています。

お三方も、おそらく大企業の中で上の人に守られている、上の人に理解されているということがあるかと思いますが、この点はいかがでしょう。

深田:アプライアンス社社長の本間は新規事業に理解がありますし、パナソニック社長の津賀は今回のフォーラムでも新しいことに取り組むのが大事と話していました。また、経営幹部の理解を得るためには入山先生のようなアカデミックなバックグラウンドがある方に、こういう活動の大切さを言ってもらうことも非常に重要だと感じています。

:当社は社長がまず「やりなさい」と言ったことから始まっています。ただ、定期的に話をしに行くことも大切です。そうしないと忘れられてしまいますし。

日置:まだ日が浅く、守ってもらわなければならない状況になっていないのが幸いですが、いずれそんな日が来るかもしれません。

入山:大企業の社内には面倒くさい人っていませんか?

日置:一般論ですが、ルールを守らなければならない立場の品質保証部門などから懸念を向けられることはあります。そういう時は、そのルールを読み込んで抜け道を突く、ということをやりますね。

深田:賛成です。ルールを知らないと間違った道に踏み出してしまうこともありますから、どこまでがOKでどこからがNGということを知るのは非常に重要です。

また先ほどの面倒な人という点で言うと、難しい人に何度も当たって挫ける必要はないと考えています。わかってくれる、話しやすい経営幹部と話せばいい。ビジネスコンテストの審査員にも新規事業を応援してくれる経営幹部を集めて話を聞きます。本当に難しいところは、事業化の段階で必ずぶつかりますから、社内で苦労するよりも現場で苦労すればいいですよね。私も若い人に「そこは俺が守るから、大丈夫だよ」と話すようにしています。

:誰も間違ってはいないんですよね。戦っても不毛なので、社長クラスの経営層に守ってもらうしかないかなと思います。我々が気を付けているのは、泥臭いことをやりながら許してもらおう、ということです。新規事業のプログラムでは半年ごとに15名ほどの社員を受け入れるわけですが、その際は必ず部課長のところへ説明に出向き、頭を下げながらお願いをする。だんだん「助けてあげてもいいかな」という雰囲気が醸成されてくるように思います。

入山:こういう上司なら皆さんがやりたいことを自由にできそうだ、というイメージはありますか?

:やはり、上とのインターフェイスとして遮断してくれる、守ってくれる人が理想ですね。社内で苦労するのが一番大変です。

深田:白以外全部黒というより、黒以外全部白という考えでやっていくのがいいですね。絶対にやってはならないこと以外は、何をしてもいい。上司の方は、これは絶対アウトということ以外は、一旦やってみて黒くなったらやめる、くらいの度量が欲しいですね。

:いいですね......。

日置:私は上司やトップの方々に恵まれているのですが、直接話を聞いてくれる人がいいなということは思います。ここにいる方々にお伝えできるのであれば、若者は背中を押してあげないと進まないので、どんどん押してあげていただきたいです。

企業内仕掛人たちからのメッセージ

:マインド、ビジョンが大事だということを話してきましたが、それを育てて外に出すために企業のリソースやアセットを使えるというのは、とても楽しいと思うんです。会場にお集まりの皆さんも苦労をされていると思いますが、一緒にがんばって日本を、世界を変えていきましょう。

日置:私はまだ起業から日が浅いので、むしろ皆さんに教えていただきたいくらいです。アイディアとか、私が間違えていたところとか、個別にでもお話していただけたらと思います。

深田:大企業のサラリーマンの役割が大きく変わっていると思います。働き方改革と言われていますが、残業を減らすということではなく、2割の時間でやりたい新規事業をやり、8割で既存事業をやる。ということは、8割の時間で10割と同じパフォーマンスを出さなければならない。こういうことをGame Changer Catapultの活動で取り組んでいきます。

今日は皆さん、ありがとうございました。

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