Mar 28, 2018

機能追求から発想を転換。AMPが提供するのは「ちょうどいい」空間体験。

Game Changer Catapult

機能追求から発想を転換。AMPが提供するのは「ちょうどいい」空間体験。

テレビはいつも、私たちの団欒のなかにある存在でした。煌々とした画面、華やかな番組、それに集まる家族たち──。点いていたら、ついつい目をやってしまう。そんな存在です。

でももしかしたら、リビングでくつろぐ、あなたの隣にそっと寄り添う。そんな「インテリアとしての映像機器」があってもいいかもしれない。そんな想いから生まれたのが、住空間ディスプレイ「AMP( Ambient Media Player )」です。一般的なテレビのサイズ比が16対9なのに対し、AMPは正方形。「Ambient」の文字通り、映像と音を空間に取り込むアイテムです。

AMPは、2017年SXSWにゲームチェンジャー・カタパルト発のサービスとして出展。アメリカでプロトタイプへのフィードバックを受け、今まさに商品化に向けて動き始めています。家庭へ、オフィスへ、あらゆる場所に彩りを添えるメディアになりそうです。開発リーダーの谷口旭は、テレビ事業で新規テーマ開発に従事。数々のプロジェクトを手がけるなかで、「インテリアとしての映像機器」への可能性を感じたと言います。建築家の牧野仁さんも、AMPのコンセプトへと共感した人のひとり。「物質的な豊かさは限界にきている」と考える牧野氏は、空間のなかの「本当の豊かさ」への展望をAMPのなかに見出したと言います。

AMPは、映像によって空間をより心地よく変えられるのか──。ふたりの対話によって、深めていきます。

「機能」ではなく「テレビがもたらす空間」に価値がある

谷口:実はもう、AMPは草案から4年も時を経た製品なんです。もともと僕はPanasonicに入社してから、ずっとテレビの「新規テーマ開発」をしてきました。入社したころは薄型テレビ全盛期で、どうやってテレビの額縁を薄くするか、どうやって本体を軽くするかに没頭していた時期。厚さ8.8mmのプラズマテレビの構造を検討したり......そんな時代でした。

牧野:今のテレビって、本当に薄いし、画質も綺麗ですもんね。まさに「技術の結晶」というか。

谷口:ただその試行錯誤を経て、薄さ、細さ、重さも「行きつくところまで来てしまった」と感じるようになったんです。発表当時は新しい技術でもいつかは追随されてしまうし、機能を高めること自体は新しい価値ではないですよね。本当は「なぜ薄くするか」を考えなければいけないんです。薄くした先に豊かさがあるかどうか、を考えなければいけない。
もしかすると、牧野さんのように「空間をデザインする人」にとっては、テレビって「なくてもいい存在」なのではないかとさえ、思うんです。

AMP_0008_20180225_AMP_078.pngGame Changer Catapult 事業開発リーダー  谷口 旭


牧野:そうですね。率直にお伝えすると、僕は常々、リビングで豊かな生活をするためには「テレビを無くす」のが最も簡単だと思っています。僕も実践しているのですが、そうする事で自然とリビングに会話が生まれたり、音楽を聴きながら食事をするなど、主役が家族の会話になり「生活の豊かさ」を感じることができると思うのです。

「生活の豊かさ」というのは、時代によって変化します。昔はモノがなくて、新しい技術が出たらどんどん便利になる時代でした。だから、技術を高めることが豊かさにつながる。生活者にとっても形や大きさは関係なく、欲しかったのは「新しい技術」だったと思います。でも今は、「テレビは薄くて当たり前」になり、生活者はただ技術が最新になったものを求めなくなっている。一歩引いて「空間」の視点から見たら「そこまで薄くしなくていい」というレベルまで機能重視になってしまっているんですね。

AMP_0007_20180225_AMP_076.png株式会社 HITOSHI MAKINO Design  牧野 仁氏


谷口:僕は、テレビには「テレビが主としていない機能」に実は大きな価値があると思っているんです。テレビが流すコンテンツとしての価値ではなく、昔テレビができたころは、そこに「人が集まって団欒する」という価値がありました。でもいまは、そういった情報もパーソナル化し、コミュニケーションの中心にはなれていない。むしろ、リビングでテレビが点いていると、そちらに注意が集まってしまい、コミュニケーションを分断してしまうことだって起こっていると思うのです。そこに、住空間価値を考えるということと、デザインを追及することの矛盾を感じ始めていたんです。

つまり、テレビの存在そのものではなく、「テレビがもたらす空間の価値」を考えなければならないということです。

牧野:そう。「心地良い空間をつくること」と「機能を重視すること」を分けて考えてはいけないんです。僕は長年イタリアに住んでいたのですが、彼らがデザインにおいて優れているのは、製品と空間どちらの視点から見ても「心地いい」と思えるものをつくるからなんです。

谷口:たしかに「なんでも揃っている空間」は便利ですが、ある一定のところまで機能を重視して「便利さ」を求めていくと、「快適さ」が阻害されていくようになります。機能性を重視することは経済活動を営む上で必要ですが、どちらかに寄ることがなくその間の「ちょうどいい」を考えなくてはいけない。

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空間においての「ちょうどいい」がAMPの事業コンセプト

牧野:イタリアで長年暮らしていて面白かったのが、夏にホームパーティーに呼ばれたとき。すると「暑いからエアコンを点けよう」と言った直後に、窓を開け始めたんです(笑)。意外にも、温度が調整されているなかで風が吹くその空間はとても心地よかったんです。

エアコンを点けるなら窓を閉めるのが日本では常識です。でも、防温と断熱が効いている部屋でエアコンを点けると、温度上ではぴったりと適温でも風通しがなくて気持ち良くないことがある。お寺のような場所をイメージするとわかりやすいと思うんですが、空間において意図しない風や音が入ってくることは、実はとても重要なんです。

谷口:ある同い年の男性が、「奥さんが嫌がるから3年前にテレビを捨てた」と話していて。テレビがあるとそれに気をとられてしまって、同じ空間にいるのにコミュニケーションが起こらなくなってしまう。それを聞いて、テレビは注意を引くのではなく、ときどき視界に入っているくらいが「ちょうどいい」のかもしれない、と。

僕らはその空間の中の「ちょうどいい」を「Ambient」という言葉で表しています。日本語ではそれを直接表す言葉がないんですが、プロトタイプを昨年のSXSWに持ち込んだときは「部屋にかける絵画のようなもの」とか「ムードメーカー」と来場者に言っていただいています。AMPは音と映像を流すだけで、テレビのような「情報」を発信しません。ただ、AMPがそこに「ある」だけで時間の変化をなんとなく感じることができる。受動的なコンテンツ体験なんです。

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牧野:僕が建築デザイナーとして提案したいのは、AMPを中心に据えて空間全体のラインナップを充実させること。インテリアデザインにテクノロジーを取り込むことは、業界自体があまりやってこなかった挑戦です。だから、「流すコンテンツ」も含めて新しい価値になる可能性があると思うんです。

谷口:インターネットをはじめ、いたるところに情報に溢れている現代ですが、「自分に合ったコンテンツ」に出会えるシーンはまだ少ないと思っています。AMPではその人が家にいるときに持ちたい「感情」に寄り添って、コンテンツを流すことができると良いですね。たとえば、日が暮れると遠くで鳴るチャイムの音が聞こえたり、トンボが飛び回ったり。時計を見てなくても時間の変化に気づけるようなイメージです。牧野さんのような空間づくりに携わる人が、AMPを含めてまとめて「空間」をプロデュースすると、より生活者に寄り添ったサービスになると思います。

新規事業を立案するカギは「資料より、まず体験させろ」

谷口:生活者をヒアリングした情報だけをもとに製品をつくると、あれこれと機能を盛り込んだものが出来上がりがちです。でも、生活者は「便利さ」だけを求めているわけではなく、ある種の「揺らぎ」や「不自由さ」を求めている。そういう隠れたインサイトをきちんと見つけるような商品開発がメーカーには求められていると思うんです。

ただ、弊社も他社も「経済合理性を高める」ことを高度経済成長期から行なってきているなかで、「合理さ」から外れたものをつくることは組織の都合上、難しい。実際にAMPを提案したときは実績もチームもないため、なかなか承認が降りませんでした。

牧野:僕は経験や年齢に関係なく、それぞれの現場にいる人が一番、本質的な事業課題をわかっていると思うんです。谷口さんはどうやってAMPを承認してもらったんですか?

谷口:AMPは「ちょうどいい」や「心地よさ」をコンセプトにしているので、会議室ではその価値は伝わりにくい。社内の支持を得るときも、体験価値にこだわって伝えてきました。ソファがある空間を借りて、そこにプロトタイプを設置し、更にワインまで準備して(笑)そこでプレゼンテーションしました。資料よりもモノ、モノよりも体験、そうやって少しづつでもタンジブルにしていく。すると、ゲームチェンジャー・カタパルトのように、組織や部門を超えた先で理解してくれる人が出てくるんです。それが結果的に機能訴求から離れて、「生活者に寄り添う製品」を大企業のなかで実現する手立てになると思います。

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牧野:僕の意見としては、決裁権を持つ人と、アイデアを考えた人を分けるべきではないと思うんです。大企業のなかで、情熱を持った人たちが実行から決断まで責任を持てる土壌を育てる。それがゲームチェンジャー・カタパルトが目指すものなのですね。

谷口:僕だってひとりだったら、ひとりの機械エンジニアです。支援してくれる人がいるからこうやって何とか前に進めています。大企業だからこそ、組織をまたぐ情熱を持った人がこれからたくさん出てきてほしいと思っています。

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Special thanks ; HITOSHI MAKINO DESIGN

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