Mar 21, 2018

IoTとロボティクスで変わる「日本の食文化」。Kronosys×トレタ中村氏対談

Game Changer Catapult

IoTとロボティクスで変わる「日本の食文化」。Kronosys×トレタ中村氏対談

このままの状況が続けば「馴染みの"あの店の味"」が失われてしまうかもしれない──。私たちの知らないところで、日本の飲食業界はかつてない「人手不足」に直面しています。

飲食店に「IoT」と「AR」を導入し、日本の「味」が後世に残るようにしたい──。飲食業界全体でボトルネックになっている課題を解決しようと立ち上がったのが、今回紹介する「Kronosys(クロノシス)」です。

開発チームは、スマートグラスを用いて、飲食店の厨房業務に対しての「トレーニングソリューション」を起案。包丁の研ぎ方や調理方法などの「調理の基本」をグラスに映しながら指導することで、時間やタイミングなどの情報を随時提供し、研修業務を遠隔あるいは濃密に行うことで、個々人のスキルをアップ。それにより、「教える人がいない」を解決し、省人化を図ります。

002.pngSXSW2018にも出展されたKronosys(クロノシス)

しかしその展望は、研修だけに留まりません。顧客管理、調理技術、在庫などあらゆるもののデータが集まった時代では、世界中どこでも、いつでも「味」を再現できるようになる可能性を秘めているのです。

図らずもキャリアを松下電器産業(現在のパナソニック)でスタートさせた起業家、株式会社トレタの代表取締役である中村仁さんも同じく飲食店の改革に想いを持つひとりでした。「トレタ」は飲食店向けの予約/顧客管理サービス。予約管理をタブレットのアプリで行うことで、顧客情報をデータで管理し、分析することまでを可能にします。Kronosysは「調理」、トレタは「予約」と、参入する領域は違うものの「飲食の情報武装」というミッションを背負います。

課題に挑む、大企業とベンチャー。両方の視点から描く「IoTと飲食業界の未来」とは。Kronosys開発チームから有井英樹と松田典久を交えて、議論を深めます。

037.png(左から)株式会社トレタ代表取締役 中村仁氏、Kronosys開発チーム 有井英樹、松田典久

飲食業界になぜ「省人化」は必要か

有井:今、飲食業には「長時間労働」のイメージが先行してしまい、なかなか人が集まりません。社員やアルバイトを採用したとしても離職率が高い。飲食店には効率化が求められているのですが、テクノロジーを使った解決策が少ない現状です。

中村:飲食店はそもそも、長時間労働になりやすい業態なんです。営業中の通常業務に加え、その他にも在庫管理やメニュー開発など、やることは基本的に尽きない。それに加えて、人手不足の問題もある。現場で働く人たちは「ホスピタリティ」「おもてなし」をやりたいと思って飲食店に入ったのに、1日12時間も働いているなかで「お客さまと会話できる時間は30分しかない」では流石にモチベーションが保てませんよね。

機械を導入する前段階として、「業務においてどこが付加価値を生んでいて、どこが生んでいないのか」をきちんと棚卸しする必要があるんです。たとえば繁盛店さまでは、営業が好調であるがゆえに「今のオペレーションや業務の回し方は理想形なんだ」と思い込んでしまっているケースがあります。しかしそれは発想が逆で、非合理なやり方でも儲かっているから効率の悪い方法を「残せてしまう」んです。

010.png株式会社トレタ 代表取締役 中村仁

有井:その現状は私たちも目にしてきました。もともと私たちはBtoBで飲食店に設備機器を納入する部門におり、「サポートする役割」として現場を見ていました。でも、そういった現場の課題は、厨房機器の商品設計では改善しきれません。

そこで、「予約」や「調理」などと飲食業務の工程をひとつずつ明らかにしていって、どこに大きな課題があるのかを考えた結果、ITを導入すべきは「厨房」そのものである、という結論にいたりました。

その思いをベースに開発しているKronosysは、主に外国人を含む従業員向けに基本業務をトレーニングするメニューを提供するスマートグラスです。映像や音声を遠隔で共有でき、離れた場所でも手元を確認しながら作業できる仕様になっています。「研修」を機械が代替することで省人化を、ひいては飲食店の業務効率化につながり、従業員の定着率向上もできると考えています。

056.pngパナソニック産機システムズ 有井英樹

飲食店の"デジタル化"が進む未来、飲食の「付加価値」はなにか

中村:これからの飲食店は、「フルサービス型」と「ロボティクス型」の二極化が進むでしょう。個人経営の飲食店や高級店など、フルサービスで調理からホールまでを人が担う飲食店は、接客など付加価値を売りにする一方、ファストフード店は大量生産と機械化によって低価格を追求していくことになるはずです。カジュアル業態では、多くの作業が自動化されていくことは間違いないと思います。


松田:とはいえ、安易に「省人化」を目的にすると、「飲食店のすべてがロボットになる」ような未来を描きがちです。そういう時代の動きがあるのは必須ですが、「ご飯を食べにいっても誰にも会わない」では少し寂しい。自動化の動きがあることは認めつつ、Kronosysは別軸で日本の「食文化を残すこと」に舵をきっていきたいのです。

059.pngパナソニック産機システムズ 松田典久


中村:テクノロジーで代替できる単純作業は山ほどあると思います。たとえば、野菜を決められた大きさにスライスする、一定の時間に煮込むなどは機械の方が得意なのは言わずもがなです。
一方でフルサービス型の店舗で提供されている様々なおもてなしなどは、効率化するに当たってある種の「無駄」ともとれます。ただ、その「あとひと手間」が飲食店の付加価値を生んでいるのも事実なのですね。だから、人間が介する部分の価値を高めていくことを考えなくてはいけない。

松田:おっしゃる通りです。ただ、IT機器を飲食の現場で導入するにあたり「使ってもらえるか」は大きな課題です。すぐ機械に慣れる人もいれば、そうでない人もいる。トレタさんでは飲食店に対してどんな工夫をしているのでしょう?


中村:数々の飲食店に導入していただいてわかったことは、現場にITを定着させるためには、「ボタンをひとつ増やす」だけでも作業を増やしてはいけないということ。「ただでさえ忙しいのに、余計に手間がかかるものを持ってこないでくれ」となってしまう(笑)。これは元飲食店経営者としても理解できる話です。最低でも、同程度の作業量、欲をいえば「減らす」くらいでないと、どれほどシステムが優れていても使われません。私たちも飲食店が紙の台帳を捨て、トレタのシステムを使えるようになるまで人が寄り添ってサポートしています。たとえどんなに簡単で使いやすいアプリであっても、実際に使ってもらうには徹底的に人がついてサポートする必要があります。

013.png

飲食もビッグデータの時代。近い将来、調理データは「知財」に

中村:Kronosysを厨房で使えるようになったら、調理中の行動データを集められますよね。「どの包丁で、どれくらいのスピードで何センチで切るか」までもデータをとり、料理の過程を再現できると面白いかもしれない。いま、世間にはレシピのデータは溢れていても、実際の調理データはほとんどないですから。技術的には、包丁、フライパン、まな板など調理器具すべてにセンサーを入れれば、データが取れるはずなんですよね。そして、調理データが貯まった世界では、それが「知財」になると思うんです。

有井:料理人が自分の調理技術をデータ化できるとすると、その人が作りに行かなくとも世界中で味を再現できるということですね。調理データをシェアすることで、世界中の人が正確に味を再現でき、自分の料理を味わってもらえる。料理人にも味わう人にも夢のある話です。そこまでデータをとれたら、とても大きなビジネスになると思います。

現状、トレタはビッグデータ解析をされているとお聞きしましたが、どのようなデータを扱っているのでしょうか?


中村:いま、僕らが扱っているのは、空席データと顧客データです。空席データはオンライン予約と直結して、「いつ、どのお店に、どのくらい席が空いているのか」を提供できるようになります。

顧客データでは、たとえば「このお客様は何回目の来店か」がわかり、ひいては「どういった人が常連になりやすいか」などの顧客の行動パターンが見えてくるんです。それは将来の売上に直結しますし、このデータを上手く使うことで需要予測もできるようになります。

松田:もし、トレタが持つ顧客データを、Kronosysに送信できたら面白くなりそうです。Kronosysをつけたホールスタッフは、お客様の来店頻度や、以前注文したメニューなどを確認できる。そうなると今まで画一的だったサービスにクリエイティビティが生まれますね。

中村:大量の人材を雇用する飲食店では、スタッフ一人ひとりのクリエイティビティをどう引き出すかが大きな課題です。しかし効率的な営業、均質なサービスクオリティを実現しようとマニュアル化を推し進めれば、どうしても接客から「人っぽさ」が欠けるという弊害も生まれます。でも、スマートグラスで現場の情報武装を実現できれば、テクノロジーによってホールスタッフとお客様の間の関係性を豊かにしていくことができるようになるかもしれません。


「産業の課題」を解決するのに、ベンチャーも大企業も関係ない


有井:中村さんのアドバイスをお聞きして、Kronosysがお役に立てるかもしれない領域が広がったように感じて、すぐ開発チームにもフィードバックしたいところです。ただ、やはり残していくべきは日本の「味」。Kronosysが料理人をサポートすることで、特徴のある料理を、伝承し続けられれば良いと思っています。

中村:とても共感します。「産業の課題を解決する」ことがトレタのビジネスとも一緒なんですよね。飲食業界の課題をテクノロジーで解決しようとしている会社は、まだまだ決して多くありません。グルメサイトなど、エンドユーザー向けのサービスはそれなりに発展していますが、BtoBで飲食店の課題を解決しようという取り組みはまだまだこれからです。

松田:僕たちは実際に食事をつくるわけではないですが、飲食業界の一端を担っているという意識があります。第三者の立場だからこそ、変わり切っていないところにフラットな目線から携わり、変えていけるのではないかと思うんです。

中村:僕は飲食店経営をしていたからわかったことですが、飲食業界にはまだまだ残された課題は多い。だからこそ、大きな産業課題に対してど真ん中から向き合っていくKronosysの姿勢にとても共感する部分があります。ベンチャー、大企業といった括りは関係なく、ぜひ一緒に飲食業界を盛り上げていきましょう。

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