Apr 7, 2022

社内の新規事業からスピンアウトに成功。事業創出の秘話を語る

Game Changer Catapult

社内の新規事業からスピンアウトに成功。事業創出の秘話を語る

Written by Game Changer Catapult 事務

パナソニックのGame Changer Catapult(以下、GCカタパルト)では、新しい事業アイデアを生み出す風土を醸成し、実現するためにさまざまな取り組みをしています。
2月は「社内新規事業制度発!大型Exitの誕生秘話に迫る」と題したセミナーを開催。リクルートグループの社内新規事業コンテストから収益化、独立まで導いた外部講師を招き、新規事業誕生秘話を語っていただきました。では、イベント内容を詳しくレポートしていきます。

ゲスト講師:小早川 斉(こはやかわ ひとし)

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▲画像をクリックすると拡大して確認頂けます

ペッツオーライ株式会社 代表取締役CEO。不動産会社に就職後、25歳でリフォーム会社を起業。年商2億円相当にまで成長させる。大企業の経営を学ぶためリクルートホールディングスへ転職し、総合結婚情報誌ゼクシィのディレクターとして社内MVP受賞など輝かしい成績を残す。その後社内新規事業コンテストNew RINGにてグランプリを獲得し、事業化へ。よりスピーディーに成長させるため、202012月にはリクルートからスピンアウトして、ペッツオーライ株式会社の代表取締役に就任。それ以外にもBlockchainの技術を使ったビジネス支援や企業内新規事業のコンサル、富山県のスペシャルアドバイザーなど幅広く活動している。

ペットの代弁者でありたい。ペッツオーライに込めた想い

今回の講演会には、160名近い申し込みがありました。やはり、社内発の新規事業がテーマであることから、皆さんの関心の高さがうかがえます。
ゲスト講師の小早川さんは、冒頭で自身の経歴を紹介したあと、現在は本業以外にもさまざまな兼業を行っており、新規事業やビジネスを作るのが大好きであると語っていました。

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そんな小早川さんが代表取締役を務めるペッツオーライ株式会社はペットを軸にさまざまなサービスを展開しています。飼い主がスマートフォンのアプリでペットの悩みを相談すると獣医師などの専門家から回答が得られるサービス「ペッツオーライ」は、2015年に事業検討を開始し、リクルートグループ内の社内新規事業コンテストNew RINGでグランプリを獲得。スピーディーに事業化を進め、2016年にリリースされました。2020年には黒字化を達成し、同年12月にはアイペットホールディングスからの出資を受け、見事Exitに成功しています。

小早川さんは「ペットを『共通言語を持たないパートナー』と定義し、ペッツオーライは、ペットの『代弁者であり翻訳者』であり続けたい」と事業へ込めた想いを語ります。

さらに小早川さんは、ペッツオーライの新事業立ち上げるにあたり、日本はトレーナーの教室に通わせている飼い主が少なく、ペットのしつけができていない。だからペットNGの施設も多いという現状の問題点にも着目。ドッグトレーナーが認定し、発行された証明書をアプリ上で管理することで、さまざまな施設をペットと利用できる社会を目指す新プロダクト「WanPass(ワンパス)」の提供を進めています。同サービスについて「紙ではなくスマートフォンのアプリだけで証明書の提出ができれば、利用したいか」とアンケートをしたところ、96%が利用したいと回答(アイペットユーザー調べ)しており、世間の期待の高さがうかがえます。

飼い犬の異変に気が付いたのがきっかけ。ペッツオーライ誕生の経緯

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講演は、ペッツオーライ誕生の経緯についての話に移り、小早川さんは「新規事業は、何か突然ひらめくのではなく、日常に転がっているただの疑問から生まれる」と自身の体験を語り始めます。
ある日、小早川さんは愛犬が片足を上げていることに気が付きました。かかりつけの獣医師に脱臼と診断され、治療すると病状は回復。しかし、しばらくするとまた同じ症状が出てしまい、別の獣医師に相談したところガンが発覚しました。あまりにかけ離れた診断内容に驚き、診断理由を聞くと、その獣医師が、腫瘍学を学んでいたことがわかります。
さまざまな選択肢がある人間に対し、ペットにはかかりつけの獣医師一択になっている。獣医師にも専門分野があるのに、飼い主には認知されていない、という現状に小早川さんは疑問を抱きました。

そして小早川さんは、これから必要になってくるのは、ペットのささいな違和感に危険信号を出し、その症状にあった専門の獣医師が見つかるという両面を兼ね備えた医療相談サービスではないかと考えました。
飼い主のニーズを確認するため、街やドッグランへ出向きペット連れの人たちに声をかけたところ、「獣医師にも得意分野があることを知っていたか」の問いに対しては全体の83%が知らないと回答。「病状に合わせて専門医に診てもらいたいか」の問いには65%が診てもらいたいと答え、専門性に対する認知は低いが、症状に応じて専門的な病院に診てもらいたいという潜在的なニーズがあるとわかりました。
獣医師にも「あなたが思う一番優秀な獣医師を紹介してほしい」と、輪を広げていきながら全国を飛び回り、思想を深めたようです。

地道なヒアリングと発想の転換でビジネスを成長へと導く

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実はペッツオーライはリクルートグループの社内新規事業コンテストで2回落選した経験があるといいます。原因は全国から寄せられる相談に対し、忙しい獣医師が対応できるのか、という問題が浮上したからでした。
小早川さんは、獣医師にヒアリングを続ける中で、女性獣医師が結婚・出産などで現場を離れると、復帰が難しく、最終的に開業という選択肢しかない現状を知りました。
ペッツオーライの相談方法はこのような背景を考慮した結果、電話やメールではなく、アプリ上での問診・診断になりました。そうすることで、女性獣医師が自宅で子育てをしながらでも相談にのれ、現場復帰へのロールモデルが形成できるのではないか、と小早川さんは考えました。

ペッツオーライは、小早川さん一人だけの状態でスタートし、地道にヒアリングを続けながら、ディレクターや開発担当、デザイナーと徐々に人を集めてサービスを構築してきました。
しかし、間違いなく需要はあるはずなのに成果は出ず、運用も最小限に抑えても一時は撤退の危機にあったといいます。
そこで「専門性のある病院を探す」ためのサービスではなく、「悩みの相談にのり、結果専門性の高い病院を紹介する」方向へと切り替え、2000%の成長率を出すことに成功。
「華々しく上り詰めたイメージがあるかもしれないが、地道に勉強し、顧客の声を聞きながらファクトに向き合った結果、今がある」と小早川さんは語ります。
また、当初はWebのマーケティングを最重要視していたことも失敗の要因だったといいます。ネット検索で流入してくる方は、今まさに抱えている問題を解決したくて加入するため、短期的な投資にしかならず、LTVは伸びません。しかし、ペットを飼い始めた頃から利用してもらい、生涯のパートナーとしてサービスを使ってもらう仕組み作りに成功したことが、事業がブレイクする大きなきっかけになったと、小早川さんはこれまでの軌跡を振り返りました。

新規事業を考えるポイントは、身近な疑問とインサイト

新規事業を考えるポイントについて小早川さんは「世の中には山ほどビジネスアイデアが転がっている」と語り、「最近イライラしたことはありませんか?」と参加者に問いかけました。
例えば、車が渋滞している中、信号が赤で止まっているのに、青信号の方からは車が出てこない。子どものマネーリテラシーが育たないのはなぜか、といった日常のイライラや疑問をビジネス構想のヒントにつなげているようです。
さらに「生活者が気付いていない深層心理、無意識の本音=インサイト」を見つけ、サービスに専門性を持たせることが大事だと小早川さんは語ります。

ただし、世の中では変化を嫌う傾向があるのも確か。小早川さん自身もたくさん考えられたサービスのほとんどが、実を結ぶことなく終わったのを見てきました。
人はちょっと便利なだけでは使わない。ロースペックでシンプルなものが誰かに刺さるかもしれない。このプロダクトが誰の何を解決するものなのか考えることが、新規事業成功の鍵なのかもしれません。

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講演の最後に小早川さんは「ビジネスに同じ瞬間は二度とない(※)」と自身の好きな格言を引用し、最も成功しているビジネスは、現在とはまったく異なる未来のアイデアを持っている。否定されても縮こまる必要はなく、ビジネスコンテストで仮に落ちてもペナルティはないので、挑戦してほしいとエールを送りました。

※ピーター・ティール ()、ブレイク・マスターズ ()、瀧本哲史 (序文) 、関美和 ()「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」

原動力は課題を解決したいという想い

講演が終わると、QAセッションが始まります。たくさんの質問がある中で、一番多かったのは、小早川さんが約100人の獣医師と数百人のカスタマーに行ったというヒアリングについてでした。
「ヒアリングでの失敗談は?」の問いかけに対し、自分の熱意が先走るあまり「こういうサービスがあればよくないですか?」と誘導する質問はよくないとし、自分が想定している人に、何に困っているのか聞き、その際に気持ちが入らないようオープンクエスチョンで投げかけるのがベストだとアドバイス。
ヒアリング後のデータ収集については、定性的な情報を定量化しまとめている、と自身の方法論を教えてくれました。

また、さまざまな相談サービスがある中でペッツオーライの優位性について話が及ぶと、ペット業界に先攻有利性があったとしつつ、寄せられたすべての質問をモニタリングし、回答のレベルアップに取り組んでいる、と現状を明かしてくれました。

さらに、くじけそうになったときの対処法については「原体験なので、この課題を絶対に解決するという想いが大切」と語り、否定的な意見がありながらも獣医師たちや周りの「実現したらいいよね」といった言葉に背中を押されたと、自身の経験を振り返りました。

まだまだブラックボックスな部分が多いというペット業界。「その現状を伝え、動物たちも人間社会で生きていてよかったと思えるようにしていきたい」と小早川さんはいいます。
新サービス「WanPass(ワンパス)」のリリースを控える中、会社の上場という目標を掲げ、小早川さんの挑戦は続きます。

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今回の講演は「社内新規事業からのExit」という身近なテーマだったためか、多くの方が参加し、さまざまな質問が飛び交いました。
「この話が参考になって便利なプロダクトが生まれてくれたらうれしい」と語っていた小早川さんの言葉を実現するべく、GCカタパルトは今後も新規事業創出に向けサポートを続けます。

プロダクト紹介はこちら:ペッツオーライ

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