Mar 13, 2018

パナソニックの若手デザイナー集団「FUTURE LIFE FACTORY」の挑戦(後編)

Game Changer Catapult

パナソニックの若手デザイナー集団「FUTURE LIFE FACTORY」の挑戦(後編)

Game Changer Catapult (ゲームチェンジャー・カタパルト)とともにSXSWに出展したFUTURE LIFE FACTORYを紹介させていただきます。前回のインタビューでは、FUTURE LIFE FACTORYの活動概要についてお聞きしました。今回は、SXSWに出展する「WEAR SPACE」と「+WINDOW」の2テーマについて、もう少し深堀して聞いてみたいと思います。

―この2テーマのアイディアはどのように生まれたのでしょうか?

期初の時点で、レッドドットデザインアワードに応募することを決めていたこともあり、1.5か月という短期間で、集中してアイディエーションを行いました。その中で、アイディアの拡散と集中を何度も繰り返しながら、FUTURE LIFE FACTORYが独自に設定した5つの基軸(※1)を用いて、客観的な評価を行い、最終的に6つに絞り込みました。「WEAR SPACE」と「+WINDOW」は、その中の2つです。両者に共通して言えることは、デザイナー自らの体験や課題意識からそれに紐づくアイディアが自然と生まれてきたという点です。また、着想の段階から、簡易的なプロトタイプ作成で価値の検証を行い、試行錯誤しながら、アイディアを明確にしていきました。

※1 新規性があるか、事業性があるか、近い将来に来るか、社会課題を解決しているか、パナソニックの未来にふさわしいかの5つ。

―「WEAR SPACE」の活動取り組みについて教えてください。

「WEAR SPACE」は、ノイズキャンセリング機能のヘッドホンと視野角を調整できるパーテーションで構成された、新しいウェアラブルデバイスです。オープンな空間にいながらも、「WEAR SPACE」を身に着けることで、瞬時に周囲との境界を作り出し、心理的なパーソナル空間を生み出します。

このアイディアはレッドドットデザインアワードの「Best of the Best」を受賞することができました。その、池袋PARCOで開催されたファッションブランドANREALAGEの展覧会「A LIGHT UN LIGHT」にプロトタイプを8台出品し、ユーザーの方に実際に手に取って試していただくことができました。引き続き、現在LAのJAPAN HOUSEで行われている同展示会(3/18まで)にも出品しています。当たり前ですが、これまでは、発売前の商品を一般の方々にお見せすることはほぼありませんでした。「WEAR SPACE」は、プロトタイプの段階で一般の方に使っていただくことで、リアルな声や反響を得ながら、コンセプトの練り直しやプロダクトとしての精度を上げることができています。

また、ヘッドホンの既存の価値、音楽を聴くことが目的ではない「WEAR SPACE」は、オーディオ事業部での商品化はどうしても難しいという社内の課題がありました。そのため、Cerevo社と協業し、量産に向けた設計試作を行っています。デザイン組織だけでこのような商品開発を行う取り組みは初めてで、ここまでデザイン部門が進めることが正しいあり方なのかどうかという葛藤もありますが、今はありがたいことにチャレンジできる状況にあるので、まずはやってみようと思っています。

WEAR SPACE Pictute 1

―ファッションブランド「ANREALAGE」とのコラボレーションは、どのような経緯で実現したのでしょうか?

「WEAR SPACE」はまったく新しい装着方法のウェアラブルデバイスですので、世の中に受け入れられるかどうかは、ファッションとしてどうデザインされるかが、非常に重要なポイントだと考えています。ファッションの世界で活躍されている方の中でも、森永氏は、テクノロジーの視点からファッションの在り方や可能性を探求されており、「WEAR SPACE」を見ていただくなら森永氏しかいないと思っていました。ですので、何か少しでもアドバイスをいただければと、アポイントメントを取りました。

一番初めに森永氏にお会いした時には、プロトタイプもなく、スケッチの状態でお見せしたのですが、話をする中でWEAR SPACEのコンセプトに共感してくださり、「ANREALAGEの展覧会で使ってみたい。」とご提案いただき、ANREALAGE展覧会への出品が決定しました。

―ANREALAGE展覧会に出品した反響はどうでしたか?

デザイン発のアイディアを、直接一般の方々に見せると、「パナソニックのデザインってこんなにおもしろいことをやっているんですね。」と言っていただけることが多いです。この言葉は「WEAR SPACE」に限ったことではなく、他のプロジェクトでもよく言っていただくのですが、私たちの小さな活動が、少しずつパナソニックデザインのイメージを、いい意味で裏切っていけたらなと願っています。

WEAR SPACE ANREALAGE展覧会池袋PARCO/ WEAR SPACE at event

池袋PARCOでのANREALAGE展覧会の様子

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ロサンゼルスでのANREALAGE展覧会の様子

―「+WINDOW」の活動取り組みについて教えてください。

「+WINDOW」は、窓のない部屋に自由に取り付ける事ができる、光・風・音 で表現された新しい「窓」です。空間の制限や閉塞感を緩和し、心と身体を整える、住空間におけるインテリアの新たな価値提案です。

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+WINDOWの1stプロトタイプ

このアイディアもレッドドットデザインアワードの「Honourable Mention」受賞することができました。受賞後、社内でも窓の無い部屋が多く、コンセプトに対してある程度の理解はあったものの、実際のところ、本当に効果があるのか?と疑問視する声も上がっていました。「+WINDOW」は、その曖昧な感性価値を数値化し、実証するために、福井大学病院のご協力のもと、医科学実験を実施したところが新しい挑戦です。従来のデザイン手法とはまったく異なるアプローチで、価値の検証を行い、商品化に向けて挑戦しています。

また、社内の話にはなりますが、私たちは主に家電を扱うアプライアンス社の先行開発組織です。一方で住空間の価値を高める「+WINDOW」は、住まいを扱うエコソリューションズ社の領域の提案にもなりえます。「+WINDOW」が、二つの巨大なカンパニーをまたぐ提案だということも、「+WINDOW」を提案する大きな意義だと考えています。

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+WINDOWの2ndプロトタイプ

―「医科学実験」とは、具体的にどんなことを行ったのでしょうか?

窓がない部屋、「+WINDOW」がある部屋、本物の窓がある部屋での比較実験を行いました。被験者の方に、「窓がない部屋」に20分滞在してもらいその後「本物の窓がある部屋」に20分滞在した時と、「窓がない部屋」に20分滞在してもらいその後「+WINDOW」がある部屋に20分滞在した時の、被験者の唾液、心拍、脳波を計測し、数値変化の比較を行いました。現在、詳細分析中につき、まだ速報レベルでしかお伝えできないのですが、「+WINDOW」は、本物の窓同等のリラックス効果が得られるとの傾向が出ています。計16日間福井大学に滞在して実験を行うという、非常に地道で遠い道のりでしたが、いい結果が出そうで、嬉しく感じています。

また、過去からも、光や音を組み合わせたデバイスが、人にリラックス効果をもたらすという仮説ベースのアイディアは多く存在していたものの、その価値を実証するということを行うプロジェクトはありませんでした。「+WINDOW」の医科学実験の結果は、「+WINDOW」だけでなく、このような他のアイディアの検証にも使えるよう、社内の各部署に、積極的に公開していく予定です。

FLF_sub9_+WINDW_福井大学での医科学実験の様子.png

福井大学での医科学実験の様子

―FUTURE LIFE FACTORYの今後の活動計画について教えてください。

 まずはSXSWでどのような反響が得られるか、そこで得られたネットワークを通じて、商品化に向けて何かチャンスになるようなきっかけを掴めたらと考えています。「WEAR SPACE」については、今年中に何とか商品化させたいですね。資金調達、モノづくり、どこで売るか、品質保証など、課題は山積みですが、デザインでどこまでできるかチャレンジしてみようと考えています。「+WINDOW」については、エコソリューションズ社が進めている天窓照明と連携することも考えています。私たちFUTURE LIFE FACTORYの活動が、社外の人はもちろん、社内の様々な部門にも波及することで、パナソニック全体の未来に影響を与えられるような存在になりたいと考えています。ぜひ今後もご期待いただければと思います。

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