Feb 7, 2019

Creating new value in the space

Game Changer Catapult

Creating new value in the space

東京国際フォーラムでパナソニック創業100周年記念として行われた「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」にて、「映像コンテンツとハードウエアの未来」というテーマでセッションを行いました。登壇したのは、Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)で「AMP」の事業化に取り組む谷口。多彩なゲストとのディスカッションの模様をレポートします。

動画を"見る"のではなく"感じる"「AMP(Ambient Media Player)」

谷口:まずは私から「AMP」のご説明を。「AMP」とは一言で言うと、絵画を飾るように動画を飾ることによって空間に動きを与え、居心地の良い、変化のある場所を打ち出していくものです。「見る」のではなく「感じる」ことで、新しい価値が生まれるのではないかという思いで取り組んでいるプロジェクトです。

1_会場とコミュニケーションをとる谷口_Taniguchi communicating with attendees.jpg

「見る」という体験と「感じる」という体験は対極です。例えば普段からよく目にするテレビやCM、映画など「見せるためのコンテンツ」と、アート作品のような「感じてもらうためのコンテンツ」とは違うと考えています。

では、アート作品のようなコンテンツはどのように楽しまれているのか。映像アートの展示会といった場はあります。そこ以外だとYouTubeやvimeoなどの動画投稿サイトにアップされているのを、パソコンやスマホで見るというのが一般的になっているのではないでしょうか。さらにいえば、本当にアートとしての作品はこういったところに出回るのではなく、データを収録したUSBなどで売買されているのが通常となっているようです。作り手として感じてもらいたい体験に対して、その思いとは違うデバイスでしか接してもらえないという、映像作品ならではの課題が存在しています。そういった与えたいものと体験の不一致のようなことが起こっている映像作品の世界、言い換えると「アートのようなコンテンツを感じる」という領域を、もっと日常の中に持ってくることができれば、皆さんも普段絵画を飾ったりされるように「映像を飾る」という新しい価値が生まれるのではないかと思っています。それが「AMP」です。テレビとは逆の概念です。これを、ハードウエアとサービスの組み合わせで実現していきたいと考えています。

空間の心地よさについてのワークショップなども行っています。(参考記事はこちら)豊かさを感じる体験、生きた空間を作るという体験に注目すると、五感というのは、すなわち人と外界とのインターフェースということになります。香り、音、光など、色々な要素がありますが、例えば香りについてはアロマを焚いたり皆さんされていると思うのでが、映像などになると自分で準備するのが圧倒的に難しくなってくるとと思っています。なので、その映像と音の部分を「AMP」で提供していこうと考えています。

一方で、五感は全てシームレスに繋がっているので、将来的には色々な体験にこれが拡張していくということができるのではないかとも思っています。「AMP」の切り口で、それぞれの人の暮らしに繋げ、変化を与えることで、より豊かな暮らしが作っていけるのではないかと。情報や物に溢れた時代なので、余白を持って心の豊かさを回復する、そういう場づくりみたいなもの、問いかけや新しいご提案を「AMP」の上で何かやっていけたらなという思いで取り組んでいます。ただ、まだ全然未完成で余白だらけ。色々なパートナーの方と一緒に作っている段階です。

2_谷口がプレゼンする様子_Taniguchi's presentation.JPG

実証実験のパートナーから見た「AMP」とは?~「MAGASINN KYOTO」編

谷口:今は実証実験という形で、実際フィールドにこの「AMP」を置かせていただいて、使っていただいて、どんなことが起こるのかを試しています。そこで今日は、実際に実証実験にお付き合いいただいている方にご登場いただきまして、感想をお聞きしたいと思います。

まずは、「MAGASINN KYOTO(マガザンキョウト)」という、「雑誌の中に泊まる」というコンセプトのホテルを経営されているエディット株式会社の岩崎さん。彼と出会ったことが私がアーティストの方々とつながり、色々な人の所に未完成のものをぶつけたり、オープンな形での開発をやり始めるきっかけになっています。

3_マガザンキョウトの岩崎氏_Mr Iwasaki from MAGASINN KYOTO.jpg

岩崎:私が「AMP」に関して何をやったかと言いますと、すでにたくさんの仮説があったので、「じゃあそれを、1回うちのホテルを使って実証実験しましょうよ」という話をするところから始まりました。検証ポイントは、まずはクリエーターと、ホテルというAMPを設置するクライアントとしての立場ですね、あとはホテルに泊まるお客さんの観点で検証を進めました。

それで、最初に京都、関西圏から映像アーティストをホテルにご招待して、「AMP」のプロトタイプを置いて、映像作家としてどう思うか、使いたいか意見交換の場を設けました。良い話でいくと、例えば映像作家って作品を作ると、せいぜい展覧会でモニター表示するか、それを買われた方はパソコンで再生するわけです。なので、自分の表現する環境としてはすごくもどかしい状態があったという時に、この「AMP」という大きいモニターときれいな音響が整った製品というのは、すごく価値があるという声がありました。一方で、アーティストは自分の表現を映像で伝えたい、見て欲しいわけなので、その想いが「AMP」の「見なくても心地良い」ぐらいの距離感に上手く着地するのは難しいのでは?という声も出ていました。

ホテルとしては、うちはけっこう静かな京町屋なのですが、無音だと緊張感を感じる方がいらっしゃるので、こういう音を聞いて心地良いと思ってくれる方もいらっしゃると。一方で、見ての通り大きいので、これは一般家庭には大きすぎる、持て余すのでは?というようなこともくっきりしてきました。

最後にお泊りの方からは、「これいつ出るんですか?」とか、「こういう風な値段だったら買いたいです」とか、インサイトに近い声を拾いました。

実証実験のパートナーから見た「AMP」とは?~「HOTEL ANTEROOM KYOTO」編

谷口:続いて、岩崎さんからのご紹介で知り合った、京都のアートホテルの先駆けでもあり、さまざまな新しい取り組みをされている、「HOTEL ANTEROOM KYOTO(ホテル アンテルーム キョウト)」の館長でアートキュレーターの上田さんです。実は一番長く実証実験をたっていただいています。昨年12月ぐらいに初めて1号機を入れてから、いろいろな取り組みを行い、いまだに置かせていただいています。

上田:実は「HOTEL ANTEROOM KYOTO」を企画・設計・運営しているUDSは、まちづくりにつながる事業を手がている会社になりまして。まちづくりにつながる要素をホテルの中にも取り入れたいということで、人の流れができるようなギャラリーを併設しています。ここに「AMP」を置いてみて、色々なアーティストの方とご一緒して。展示のディスプレイとして扱う中で、様々なフィードバックがあります。例えば、「プロジェクターやテレビモニター以外の選択肢はないのか」とか、「映像のコンテンツを見せる時に、ただ大きければいいのか」とか。そういった、わりと展示の突っ込んだ根っこの部分も、谷口さんとご一緒に議論しながら取り組んでいます。

また、展示作品に関しては、映画監督と一緒にコンテンツの開発までさせていただいたので、本当にアーティストと議論しながら作り上げられるという、実験のような要素があるのも私たちの強みだなと思っています。また、実際この展示空間というのがホテルのエントランスに位置していまして、ホテルに泊まる方だけではなくて、街の人も気軽に来られるような場所なんです。そういった方からのフィードバックもたくさん吸い上げて、谷口さんにお届けしています。

4_HOTEL ANTEROOM KYOTOの上田氏_Ms. Ueda of HOTEL ANTEROOM KYOTO.jpg

実証実験のパートナーから見た「AMP」とは?~「ワウ株式会社」編

谷口:次にご紹介するのが、ワウ株式会社のプロデューサーの佐伯さんです。ワウさんは今年創業20周年を迎えられて、先般表参道のSPIRAL(スパイラル)で回顧展を開催されました。その際、新作映像作品「motion texture 02」を「AMP」を使って発表したいと熱烈なラブコールをいただきまして、色々とやらせていただきました。

佐伯:わたしたちは、映像を軸にインスタレーションやアプリケーション、ユーザーインターフェイスなど、様々な形で作品を制作しているビジュアルデザインスタジオです。制作物のほとんどはクライアントワークですが、毎年必ず、誰からもお願いされていない、自身のオリジナル作品を制作しています。その中の一つに、モーションテクスチャーというプロジェクトがあります。わたしたちは、このモーションテクスチャープロジェクトでAMPとコラボレーションさせてもらいました。モーションテクスチャープロジェクトは、いわゆる映画やドキュメンタリー映像のように「何かしらのメッセージを伝える」という目的ではなく、AMPのコンセプトでもある、「環境に存在して、何かを感じさせる」ということを目的にした映像作品です。

モーションテクスチャープロジェクトの第一弾(2007年)では、DVDパッケージとして映像作品をリリースしたのですが、2018年現在、最新の映像作品をどういった形でリリースするかすごく悩みました。一般的にはYouTubeやVimeoなど、視聴者の多いオンラインプラットフォームに映像をのせるのがメインストリームだと思いますが、それはやりたくなかった。もっと別次元で、できれば物質化して、例えば、彫刻や絵画のような美術作品といえるレベルでリリースしたいと考えていました。そうした時に、「AMP」と巡りあい、是非AMPで映像作品を発表できないものかと思い至り、谷口さんに相談しました。その思いを受けとめていただき、AMPにインストールし、空間に設置するという形で作品をリリースすることができました。

また、今回「映像コンテンツとハードウエアの未来」というタイトルなので、少しだけ補足をさせていただきます。歴史を振り返ると、活版印刷ができたことで、小説などの文学作品が大量に生まれたり、絵の具を入れるチューブができたことで、屋外でも手軽に描くことが可能となり、印象派が生まれたり、映写機ができたことで映画が生まれたり。表現というのは、こういった新しいハードウエアの開発が引き金となり、そこから新しいものが生まれるということがあると思います。

なので、今回AMPという新しいハードウエアが生まれたことで、わたしたちのような作家たちから、今までにない、新しい映像作品が生み出されていくのではないかと感じています。

5_ワウ株式会社の佐伯氏_Mr. Saeki.jpg

今までのデジタルフレームにはない「AMP」の魅力とは

谷口:ここからは、ちょうどこのセッションと時を同じくして開幕した「MUTEK JAPAN(ミューテックジャパン)」という電子音楽とデジタルアートの祭典でコラボレーションさせていただいている脇田さんと、日経BP社の仲森さんをゲストにお迎えしたいと思います。脇田さんは、アーティスト、サイエンティストということで、流体力学や熱力学などに基づいたソフトウエアで映像作品を開発されています。また、普段は慶應義塾大学の先生でもいらっしゃいます。では早速ですが、脇田さんから見た「AMP」ってどうですか?

6_議論する脇田氏と谷口_Mr. Wakita and Taniguchi is discussing.JPG

脇田:作家としては、今まで映像をディスプレイとプレイヤー込みで、しかも美的に満足するような精度で表示する環境というのが存在しなかったんです。国内外でもデジタルフレームというのが出てきていますがが、どうも今一つ手を出そうと思えない、壁みたいなものを感じていて。でも「AMP」はそういうのをとっぱらって使いたいと思ったんですよね。まず置いているだけでも様になるし、スピーカーも内蔵しているし。おそらく「アンビエント」という名前が、生活環境の意識の背後という意味だと思うのですが、それを超えて私たち作家が積極的に情報をプッシュしていくような、そういう在り方もあるのではないかと、機材からインスピレーションを受けています。

7_脇田氏の写真_Picture of Mr. Wakita.jpg

谷口:実は脇田さんとお会いしたのは約2週間前。そこで実際の「AMP」を見ていただいて、「これ面白いかも」っていうので作品を作っていただいて、今日の「MUTEK」での発表に至っていると。すごいスピード感です。

仲森:私は日経BP社で『日経エレクトロニクス』という媒体を長く担当していまして、ディスプレイの歴史には詳しいんです。それで、実は最初にこのお話をいただいた時に、「あ、なんか見たことあるな」と思ったんですよね。世界の名画みたいなものが1分ごとに切り替わるとか。色々なコンセプト商品が出ましたけど、ほとんど成功しなかったという歴史が実はあるんです。熱帯魚を延々と映し続ける高精細ディスプレイがそこそこ話題になって売れた、といったことはありましたが。で、今回も「これはまたヤバイんじゃないか」と思ったんですけど。でも、色々なお話をさせていただく中で、自分でも何か可能性を感じているというのがあって。それで先程脇田さんが、他は無理だと思ったけど今回は、というお話があったので、そのあたりを改めてお聞きしたいのですが。

9_議論する脇田氏中森氏と谷口_Mr Wakita, Mr.Nakamori and Taniguchi is discussiong.JPG

脇田:他の製品で引っかかるハードルとしては......一つはアプリと言うか、サービスに入らないと使えないということです。つまり、自分がそのサービスに入って作品を公開したり、作品を買ったり、それらが込みになっているんですよね。で、またID、PWかぁ......というようなハードルがあって。単純にハードウエアとしてポンとあって、自由にデータを抜き差しできるという環境であれば、一気に下がるわけですよ。自分が発表した作品や持っている映像、これを買ったとか自慢できるようなネットワークと一体化しているというのは今どきなのかもしれませんが、作り手からすると面倒くさいっていう話ですよね。

仲森:逆に映像を作る立場として、「AMP」はある決まったハードウエアに対して映像を作っていくという世界だと思いますが、逆にスマホでもパソコンでも何でも見られますという世界もあるわけですよね。そういうものと比べて、ある意味すごく不自由な感じに思えるのですが、それでもっていうのは何かありますか?

脇田:今回使わせていただいている形はインスタレーションなんです。つまり、空間を作っているんです。これまで映像というのは壁にかけたり置いたりするものでしたけど、「AMP」は自立する。6台置いていて、それだけでインスタレーションになってくるんですよ。そういった、映像を空間化していくということがどこまで可能かというのが、この「AMP」はけっこう面白いところだと思っています。

人の繋がりを呼び起こす、家庭における「AMP」の持つ可能性

仲森:最初の話に戻ると、「AMP」は難しそうだという風に思えた点のもう一つは、プロモーションビデオを見た時。私はあんなに良い家に住んでいませんし、「いや、これ無理」と思ったんです。でも、先程の実証実験のお話を伺っていると、ハレの場と言いますか、非日常的な空間でそういうものを体験するというのは、けっこうアリなのかなという気がしてきていて。だから、それがリビングに置くという日常になると、またコンテンツの在り方から、ディスプレイの在り方から、色々と変わって来るのかなと思うのですが。例えば今回使われたものを実際に家庭用となったら、全く違うコンセプトやコンテンツになっていくというイメージなのでしょうか?

脇田:今はライフスタイルもかなり多様化してきていて、家庭というものの定義もなかなか難しいと思うんですよね。例えば昭和的な意味での家庭となると、それはかつてテレビが担った、同じ場所と時間を共有するためのメディアとして、「AMP」がどうワークしうるかという可能性の話なると思うんです。でも、今はみんな好きな場所で好きな空間で見ているわけで、テレビが家族を結び付けてはいないわけですよね。だから「AMP」っていうのは、たぶん公共放送やテレビとは違う軸で、リビングが心地良いから人が集まるとか。つまり、分断した人々の時間、家族の時間をもう1回復活させる、何かそういうメディアになるのかなという気はしています。

谷口:ちょうど今日プレゼンテーションの中で、心地良さみたいなお話をさせていただきましたが、その心地よさの根底には、やはり人との繋がりが現代社会で薄くなってきているというところに端を発するのではないかと。なので、リアルな場の価値に先祖がえりするような動きが最近多くなっているのだと思っています。そこにまだまだ価値を作れるチャンスがあると思うのです。

脇田:「アンビエント」っていう言葉、可能性ですよね。私のいる情報工学の世界では、アンビエントメディアというと、情報をそれとなく可視化するものなんですよ。例えば、雨が降るとなると傘が光るとか。そういうアンビエントメディアって、今までのサイネージのように情報をプッシュするのではなく、プルする。意味を知っている人だけがそこから引き出せるという意味で。何かそういった切り替えの時期なのかなという感覚はあります。今回の「AMP」の「アンビエント」っていうのは、そういう学術的な意味とはまた違う可能性を持っていると思いますね。

情報のプッシュから抜け出し、情報にダイブしていく感覚を取り戻す

谷口:プッシュされてくる情報という話だと、今はやはりテレビでも何でもそうですが、情報が洪水のように溢れていますよね。それはとても便利ですが、意外と疲れている側面もあったりして。

脇田:それはとても感じますね。スマートフォンも通知ばかり。テレビもサイネージもプッシュばかり。その情報を処理するだけに一生懸命で、一個一個のものに自分から入っていくというのを、僕らは忘れつつあるわけですよ。僕ら自体がもうCPUになってしまっている。そういう時に、映像一個一個に入っていくというのがどういうことなのか、もう一度考えるべきだと思いますね。

10_議論する脇田氏、中森氏、谷口_Mr. Wakita, Mr. Nakamori and Mr. Taniguchi discussiong.JPG

谷口:そうですね。映像との関係性ですよね。

脇田:かつて絵画とか彫刻っていうのは、自分がしっかり見てダイブしていかないと鑑賞しきれないものでしたよね。でも、写真や映画っていうのは、どんどん自分のほうに迫って来るから、そこまで入らなくてもいいっていう。だから「AMP」のようなもので、もう1回入っていくっていうところをね。私の作品も、自分から入るような感じになっているんです。

谷口:先程の「HOTEL ANTEROOM KYOTO」さんとの検証の中に出ていた作品(三宅唱 WORLD TOUR in KYOTO with AMP*)、あれは「AMP」が4台並んでいてちょうど1時間の作品なのですが、ただただ映像を眺めていると何か分からないけど取り込まれていくっていう。自分の中で新しい結合が起こり始めるような感覚にであいました。その映像自体はまったく知らない場所や内容なのに、まるで自分の経験したことがあるような感覚というのでしょうか。その作品を作った監督の三宅さんとお話しますと、デジャブではなくてその反対のジャメブって言うんですよと教わりました。情報をもらっているわけでもなんでもないのに、違う頭の回転が起こってきて、逆にひらめきが出てきたりするんです。今回の脇田さんの作品にも、すごくそういうものを感じていて。やはりそういったプッシュされてくる情報から、もう1回そっちに戻っていくというか、何となく揺り戻しみたいな。それが上手くはまってくると、何か可能性が開けてくるのかもしれないなと、今お話しながら思いました。

脇田:そうかもしれないですね。複製可能なメディアではあるんだけれども、それをかつての複製困難なメディアのように見るっていう。絵画のように映像を見る。一点モノのように複製可能なものを見る。そういうスタイルなのかもしれないです。

今後は作り手と買い手の関係性が変わり、新たなコマースが生まれる

仲森:アートっぽいものにどんどん振っていくことになると、そもそも生活の場にアートなんでなくても良いという人と、あってほしいといってものすごくお金を出す人と、両極の世界がありますよね。しかも、アートを好きな人にも色々なジャンルがあって。日本の美術の古いところが好きな人には、先程見せていただいたような作品はあまり受けないかもって思うんです。そう考えていくと、結局ずっと風景が流れているとか、万人受けするものになっていくと。でもそれだと、スクリーンセーバーみたいなもので全然良くなってしまう。だから一部の人たちに向けてのアートに専有化していくんだと思うのですが。ただ、ビジネス的に見るとそれがマーケットをどんどん小さくしていくような、ジレンマみたいなものが相当あるのではないでしょうか。

谷口:今回、実証実験をする中で、作家性の濃度というか、どれぐらいまでの作家性を許すのかというようなところが、すごく難しいと思っています。アートにより過ぎると、本当にその分野の人しか分からないということが起こりますし。かと言って、量産できるコンテンツは、それはそれで価値はありますが、やはりそれだけではない世界をと思っていて。どのあたりの塩梅が良いのかは、今はまだ手探りしています。そこがわかってくると、作る人も使う人も、お互いに良い所が見つかって来るのかなと思うのですが、いかがですか?

脇田:今後は、今までのように作る人、それを買う人という、そういう関係がもっと曖昧になってくる気がするんですよね。例えば、「映像はもう5エディションしかありません」と。その代わり「1個100万円です」とか「数千万円です」とか言って、それを買うと5人だけは見られる。で、その人はまた次の人にその権利を売って、その時にまた金額が変わっていると。そうやってどんどんトレースしていって、「この映像って5年前は誰々が持っていたんだって」ということ自体が価値になっていくとか。もしくは「5エディションの残りあと2個だけですよ」っていうので、急にプライスが上がったり。これまでの映像と違う世界のアートの売り方みたいなものも入って来るでしょうし、それが新しいコミュニティとかコマースを作っていく可能性もあると思うんですよね。

谷口:例えば時計ってほとんどクオーツですけど、何パーセントかの人が機械式を使っていて、単価が全然違うんですよ。で、実は高級機械式時計のほうがマーケットが大きいと。だから1%でも、2ケタ違えば同じマーケットサイズなんですよね。だから、映像コンテンツも美術品と一緒で、リセールできると全然性格が変わって来るんですよね。そういった世界にも気づけたら、また全く新しいことが起きるなと思います。

新たな価値の下、「AMP」が新しい経済圏、文化を生み出していく

脇田:1年前にルオーの宗教画を見せていただいたことがありまして。ものすごく古い木のフレームですが、額縁は変わっていないんです。裏面を見ると、これがどこの美術館にあったかとか、かつての個人所有者とかが書いてあって、それ自体がまた物語性とか価値を生むわけですよね。何かその、今までお金にならなかったところもお金になるっていうような、そういう経済圏があって。

谷口:それは映像作品がデータであるがゆえの不遇さみたいなものを感じますね。やはり、結局価値ってどうやって作るのかみたいなところを、実際色々な方と接しながら思うので。今のような話ってすごく面白いし、誰が価値を決めていくのかみたいなところですよね。この世界ってまだまだ掘れそうな感じがしています。

仲森:実は日本の古い美術品も同じで。誰が持っていたかという歴史があるものとないものではやはり何桁も値段が違いますし、何重もの箱に入っていて、そういう附属を含めての価値になっていくと。それは西洋の在り方も東洋の在り方もものすごく似ています。そういう意味で本物のアートになっていければすごく面白いなあという想いはありますね。あと、家庭とかを目指さずに、こういったイベントなどちょっと非日常を味わう空間に特化したチューニングの仕方っていうのもあるのかなとも思いますし。色々な方向性があるのかなと。

11_グラフィックレコーディングの様子_Graphic Recording.JPG

当日はグラフィックレコーディングで議論の様子を残していただきました。

脇田:多くの人工物は、生産された直後の価値が最大なんですよね。そこから価値が下がっていくという。そのモデルをどう変えていくかということだと思うんです。家もプロジェクターもPCも。そこから価値を上げて、価値増進型のデザイン、ライフスタイルをどう実現するかという時に、今日の話はけっこうヒントになるんじゃないかなと思います。

仲森:あと外野からお願いしたいのは、型にはまらず、どんどん変えていってほしいですね。あとは個人的に、パーソナルとか家庭用ということに限って言えば、例えばこのハードウエアを無料で配ったらどうかと。そうして、コンテンツのほうで何か稼ぐ。あるいは、コンテンツを提供するスポンサーを立てる。あるいは誰がどういうものを見ているっていうデータを生かして何かする。全くアート作品と真逆の方向性ですが、それてまた何か生まれるのかもしれないですし。

谷口:仰る通り、コアになるコンセプトを守りつつ、何か新しい経済圏というか文化が「AMP」の上で育っていくようなことができたら良いなと思っています。

「AMP」に関するお問い合わせ先
本ホームページのCONTACT以外に以下でもお問い合わせを受け付けております。パナソニック株式会社 アプライアンス社 カンパニー戦略本部 事業開発センター AMPプロジェクトへのメールはこちらです。

amp-info @ ml.jp.panasonic.com

AMP設置先一覧(Google Map):https://goo.gl/maps/F4pJZ4yFf2v
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