Jun 22, 2020

逆境の中で考えるイノベーターの役割

Game Changer Catapult

逆境の中で考えるイノベーターの役割

深田 昌則
パナソニック アプライアンス社で未来のカデンを
カタチにする活動「ゲームチェンジャー・カタパルト」を創設し代表を務める。
AV機器の海外営業・宣伝、オリンピック事業担当、カナダ販社市販責任者などを
経て2016年より現職。2018年から米ベンチャー・キャピタルと合弁で
新規事業支援のため創業した株式会社BeeEdgeの取締役を兼任。

感染力が強い新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を防ごうと、多くのイベントが開催を中止したり、オンラインでの開催に切り替えたりなど対策を講じています。決断が求められるのは主催者だけではありません。私が代表を務めるパナソニックの企業内アクセラレータGame Changer Catapult(以下、GCカタパルト)でも、3月に予定していた「サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)2020」への出展を見合わせるという決断をしました。

SXSWは、アメリカ・テキサス州で毎年開催されているデジタル・インタラクティブや映画・音楽の分野での世界的規模の展示会です。スタートアップ企業の登竜門としても注目されています。GCカタパルトは、アイデアを実際に形にし、社会へ提案していくことを重視する観点から、この展示会に毎年参加し続けてきました。世界中の生活者に、私たちが考える新しいソリューションを届けたいと願う私たちにとって「SXSW」という機会を失うことは大きな痛手でした。

それでも判断を下したのは、社会人・企業人としてだけではなく、新規事業や社会変革を目指すイノベーターのひとりとして、この状況下にどういう行動をすべきか議論した結果でした。

逆境からイノベーションは生まれる

私たちはSXSWへの出展中止にあたり、以下のようなメッセージをGCカタパルトのオウンドメディアにて発信させていただきました。

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・客観的な事実やそれに近い情報を基盤に、冷静にきちんと問題に向き合う
・周囲に惑わされず、また他者の判断に盲目的に従うのではなく、自身が責任ある大人として考える
・ピンチをチャンスとして捉え、厳しい環境でもポジティブな結果に活かす行動を取る

Picture of We have abandon exhibit in SXSW2020_「SXSW2020」出展見合わせと逆境時におけるイノベーターの役割

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新型コロナウイルスが感染拡大するなかで、どのようにして事態にあたるべきか、考え方を示したものです。

そもそもの話となりますが、GCカタパルトはパナソニックという大企業のなかに居ながらにして、より新しい生活文化や心躍る体験を実現する、未来の「カデン*[1]」を生み出すことを目的に設立されました。

これまでの成功体験、従来通りの働き方にとらわれてしまうと、どうしても今そこにある社会課題との接点、繋がりを感じにくくなってしまいます。

GCカタパルトのメンバーは、時代の変化の中でまさにそうしたジレンマを日々の業務や生活のなかで感じながら、違和感も感じられる事業アイデアを形にし、社会との関わり方を模索しながら事業開発に取り組んできました。

そして思うのは、新型コロナウイルスによって起こっている大きな社会の動きに対し、人々が反応していることも大きな違いはないということ。課題が見えているのに、対策が結びついていないように感じる「違和感」がますます顕在化しているのだと思います。

ただ、その違和感に対してどう行動するかは人によって異なります。インターネット上でネガティブなデマを流す。行政や企業、個人の意見に対して批判だけして自らは何も行動を起こさない。残念ですがそういう人々も多い。こういうときこそ、社会を良くしたいというポジティブなマインドを持った人たちが活動を弱めることなく、強く継続していくべきだと思います。

人類史をさかのぼっても、危機に直面したときこそイノベーションは生まれてきました。食料不足に対する農耕技術の発展。労働人口を補う蒸気機関の誕生など。違和感にいち早く気づき、逆境に立ち向かい、行動した人たちがいた。それがイノベーターなのです。

イノベーターが持つべき4つのマインドセット

このように考えれば、新型コロナウイルスのような予期せぬ事態に直面したときにこそ、イノベーターとして持つべきマインドセットが有効だと思っています。先述した3つのメッセージに通じる4つのポイントを紹介します。

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1.会社の視点、個人の視点、社会の視点を併せ持つ
2.ネガティブをポジティブに
3.切り替えは速く
4.アイデア+行動

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1.個人の視点、会社の視点、社会の視点を併せ持つ

1つ目は、個人の視点、会社(組織)の視点、社会の視点をバランス良く併せ持つことです。

企業など組織のなかにいる人は、これまではどうしても上司や組織の判断に従うという傾向がありました。間違った行動ではありませんが、一個人としても日々の生活の中でどんな行動をとるべきかを考えられなくてはなりません。新型コロナウイルスに関しても、政府や企業が言ったからといって、盲目的に従う、あるいは批判するということではなく、自分だったらどうするのか、どう行動すべきなのかを考えるきっかけにしていかなくてはなりません。

2.ネガティブをポジティブに

2つ目は、ネガティブな情報をポジティブにとらえなおす力です。

たとえば東京2020オリンピック・パラリンピックの開催延期に対して、追加費用やさまざまな課題などを考慮しネガティブにとらえる人もいるでしょう。実際に大会開催に向けて準備されていた組織委員会や東京都、競技施設などのみならず、スポーツ選手や競技団体、オリンピック・パートナーと呼ばれる企業、サプライヤーや来場客のおもてなしに関する産業、さらには地元商店街や住民自治会の方々などにも大変な苦労があると思います。

しかし、オリンピック・パラリンピックの延期によって空白となった期間や施設を活用した新しい取り組みのアイデアづくりをはじめ、新型コロナウィルスに向き合う「Withコロナ時代」だからこその大会開催のあり方やその準備への議論など、今後の社会に良い影響を与えていくために何が出来るかということも考えられるはずです。今だからこそやるべきこと、やれることはたくさんあります。ネガティブなことが起こったときに、そのまま我慢して縮こまって受け入れるよりは、社会全体にとって意義のあることにどう繋げていくかを考えることがイノベーションにつながるのです。

3.切り替えは速く

3つ目が切り替えのスピードです。

私は学生時代にバスケットボールをしていました。得点の応酬が激しいスポーツではボールを取られたことを悔やみ、落ち込んでいる暇はありません。その隙が次の失点につながってしまうからです。切り替えの早さは、ビジネスの世界でも勝敗を分ける重要な要素です。ちなみに私たちが出展を取りやめたSXSWも結果的に開催を中止しています。判断が主催者発表に先だったことで時間的なロスを減らしアイデアを切り替える時間ができたといえるでしょう。

4.アイデア+行動

4つ目は、アイデアに行動を掛け合わせるということです。

アイデアを生むだけではなく、行動を起こせる人が、結果としてイノベーターと呼ばれます。私たちGCカタパルトがSXSWをはじめとした、世界規模のカンファレンスへの出展にこだわってきた理由もそこにあるのです。これは決して特別なことではなく、普段からアイデアに行動をプラスすることを意識しておけば良いのです。SXSWでは実際に行動を起こした人々と直接出会い、議論し、場合によってはパートナーシップを構築できる場です。私たちも、世界規模で行動を起こさなければいけないと居ても立ってもいられないという感覚を身につけることが大変重要です。

イノベーターへの期待

新型コロナウイルスによってさまざまな社会課題が顕在化している今、新規事業創出やイノベーションに向き合い続け、逆境に対するレジリエンス力を高めてきたイノベーターの出番だといえます。

今回のような世界的な感染症の拡大によって起きた社会の変化に対し、どれだけ早く、前向きに取り組めるか。結果を出すことだけでなく、いち早く行動を起こすことそのものがイノベーターに期待されることだと思います。

イノベーターたちは上記のような考え方で、組織の行動に縛られることなく、個人として敏感に社会の課題に気づき、同様に考えるイノベーターたちと連携していくことによって、さらに社会に大きな影響を与えていくことが出来ると考えています。

[1] 未来のカデン*:電化製品に限らず、モノからコトへのシフトなど、くらしにまつわるサービスやコンテンツによる価値提供を含めた幅広い概念

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