Feb 14, 2020

誰も気づかない課題の解決へ、Game Changer Catapult卒業生の今

Game Changer Catapult

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誰も気づかない課題の解決へ、Game Changer Catapult卒業生の今

すでにある課題を解決するのではなく、潜在的な課題を見いだす力こそ、社会へ貢献していくためには不可欠な能力かもしれません。キッチン空間事業部の森川 悠は、まさにそんな力を開花させて、事業アイデアを形にしようと挑戦を続けています。彼の成長の背景には、「誰も気づいていない課題の解決」に対する情熱がありました。

社内アクセラレーターが背中を押した、挑戦の道

森川 :「もともと、パナソニックへ入る以前、就活をしているころから、誰も気づいていないような課題を解決する事業をやりたいと思っていました。昔はモノがなかったから新しいモノがどんどん売れていましたが、現代はモノがあふれかえって、メーカー間の技術スペックにもほとんど差がなくなってきています。だからこそ、誰も気づいていないような課題を解決するサービスや製品が必要だと思っていたんです」

学生時代から、潜在的な課題を解決する重要性を感じていた森川。入社後も、ゆくゆくは新規事業を担当したいという想いを持ち続けていたといいます。

そんな森川にとって、自ら挑戦を始めるきっかけとなったのが、パナソニックの企業内アクセラレーターGame Changer Catapult(以下、GCカタパルト)が主催するビジネスコンテストでした。

社員から事業アイデアを募り、ビジネスコンテストの選考をパスしたアイデアは、GCカタパルトの支援を受け、方向性を修正しながら事業化を目指します。

森川は、当時の同期仲間と共にふたつのアイデアを提出しました。

森川 :「ひとつは保育関係のサービスでした。待機児童の問題が取り沙汰されていた時期だったので。もうひとつは、自分たちのように新規事業をやりたいと思う人たちを後押しできるようなプラットフォームを考えていました。今思えば、どちらもビジネスアイデアの体を成していなかったですね。とにかく最初は、アイデアを出すことに価値があると思っていたんです」

アイデアはふたつとも落選してしまいましたが、森川は新規事業における大切な気づきを得ました。

森川: 「結局、僕らには課題に対する思い入れがなかったんです。自分たちが向き合うべき課題は何なのか、どこの分野でやるべきなのかを知る必要を感じましたね」

その後の森川は、課題を自分ごととしてとらえられるよう、なんでも自ら体験することを重視するようになったといいます

森川: 「今考えると本当に手当たり次第なんですけど、伝統芸能に触れようと能を見に行ったりとか、農業のボランティアやったりとか、とにかくいろんなことに挑戦しました。事業部での普段の業務でも意識が改まりましたね。それまでは技術者として製品としてのスペックを高めようという感じだったんですが、お客様の課題がどこにあるかを意識するようになりました」

ユーザーに寄り添ったアイデアの発見と挫折

失敗を経て経験を積んだ森川。2度目のビジネスコンテストに出品したアイデア「Famileel(ファミリール)(*1)」が、最初の選考を通過しました。

Famileelは、通話中の音声を自然言語処理し、ディスプレイに字幕として表示することで、聴覚が衰えた人とのコミュニケーションをサポートするというもの。

森川: 「かなり身近な課題だったんです。私の祖母は耳が悪く、母が祖母に電話をするたび、話を聞き取ってもらえないことにイライラしてしまうんですね。。同じように高齢の家族との会話を課題に思っているメンバーとチームを組んで、なんとか解決できないかと考えたときにたどり着いたアイデアだったんです」

Famileelのアイデアは、GCカタパルトでの経験を通じて形になっていきました。特に、GCカタパルトが提供する社内起業家育成プログラムの中で、UX(ユーザー・エクスペリエンス)デザインを学んだことが、森川に大きな影響を与えたといいます。

森川: 「それまでは、電話での意思疎通が難しかった人に対して会話が通じる状態に戻すことが重要だと思っていたんです。しかしこの講義を受けた後、電話を使った通話だけでなく、その先に何を求めているのかを考えるようになりました。おばあちゃんが幸せになるにはどうしたらいいのか。そんな風に、見定めていたゴール地点が少し変わって見えるようになりました」

ユーザーに寄り添ってみると、電話をかけるという行為自体にハードルがあることがわかってきました。

森川: 「おばあちゃんは、相手が今は忙しいんじゃないかとか気を使って電話がなかなかかけられないようです。電話が終わったら終わったで、その後の一人の時間を寂しく感じることもあるようでした。電話をしているときにどんな課題があるのかと、通話中ばかり見ていましたが、通話前後の時間にも解決すべき課題があることに気づかされました。ユーザーへヒアリングを重ねるほどに、課題の深さとそれに対するソリューションを提供するんだという想いが、どんどん強くなっていきましたね」

Famileelには「遠くにいる人を身近に感じられる」機能が追加されました。通信機にセンサーとLEDライトをとりつけ、通話していないときでも、人が近づくと遠方にあるもう一方の通信機が光る仕組みに。不意に灯る明かりが、大切な人が身近にいるような感覚を与えます。この機能は、海外でも意外な需要がありました。

森川: 「GCカタパルトのプログラムとして『SXSW(*2)( South by Southwest®/サウス・バイ・サウスウエスト )』に出展したところ、留学生のコミュニケーションなどにも需要があるという声をいただきました。アイデアに対する潜在的な需要の広がりを感じましたね」

1_SXSW出展時の様子、左が森川_Morikawa (Left) at SXSW.JPGSXSW 2018に出展した時の様子、左が森川

その後も賛同者を増やしていったFamileelですが、残念ながら、GCカタパルトのプログラム終了後、事業化に結びつけることはできませんでした。

森川: 「(事業継続不可の決断に際し)めちゃくちゃ悔しくて、なんで?と思い、審査員に突っかかりもしました。ただ、ビジネスとしての広がりを描き切れなかったことも確かです」

(*1)Famileel (ファミリール):離れている家族をいつでも身近に感じられる新しいコミュニケーションを提供する事業アイデア。近づくだけでお互いを感じられる光るデバイスや、通話を字幕でサポートする機能でコミュニケーションをサポートする。今はいったん検討を中止している。(https://gccatapult.panasonic.com/ideas/famileel.php

(*2)SXSWとは?:アメリカ合衆国テキサス州オースティンで毎年3月に開催されるデジタル・インタラクティブや映画・音楽の分野での世界的規模の大型展示会。1987年に音楽イベントとして始まり、1994年にフィルム部門とインタラクティブ部門が追加され、現在の形式となる。特にインタラクティブ部門は世界的に影響力があり、スタートアップ企業の登竜門として、昨今、企業や投資家などから大変注目を集める。

めないことでつかんだ、さらなる成長

GCカタパルトでのプロジェクト継続の道が絶たれた森川ですが、Famileelの事業化を諦めはしませんでした。経済産業省が次世代のイノベーターを育成することを目的に開催している「始動 Next Innovator 2018 (グローバル起業家等育成プログラム」というプログラムに、Famileelのアイデアを持ち込んだのです。120人という参加枠に対し、およそ350名が応募する狭き門を見事通過しました。

森川: 「『始動』も6カ月でおこなわれるプロジェクトで、事業計画書の審査と数回のピッチを経て、アイデアをブラッシュアップしていきます。参加者の業界・業種はさまざまです。ベンチャーキャピタルの方からもアドバイスをいただけるので、これまで思いつかなかったようなビジネス展開の仕方を学ぶことができました」

一方、GCカタパルトで得た学びをあらためて実感する機会にもなったといいます。

森川: 「しっかりとした課題を見つけ、それに対するソリューションを打ち出すというアプローチができていたことが評価されました。GCカタパルトでUXデザインを学んだおかげですね。他の参加者は、ただがむしゃらにユーザーヒアリングをしているように感じました。それだと結局、ユーザーのインサイトがどこにあるかわからないんです」

2_「始動」でシリコンバレー派遣に選ばれた瞬間_Morikawa at Shido project.jpg経済産業省が開催する「始動 Next Innovator 2018」でシリコンバレー派遣の切符を手に

森川は120人のプログラム参加者の中からたった20人しか選ばれない、シリコンバレー派遣の切符を手にし、さらに学びを深めます。

森川: 「シリコンバレーで実感したのは、見ている世界の広さ。日本人の事業計画って、なんでもまず日本でやって、その時点では世界展開については特に何も考えていない。うまくいったらその後海外展開をするという絵を描く傾向があるんですよね。一方で、シリコンバレーの人たちは本気で最初から海外展開を見据えてビジネスをつくるんです。見ている景色が全然違うんですよ」

シリコンバレーからの帰国後、森川は「始動」の最終ピッチに挑みますが、残念ながらファイナリストに残ることはかないませんでした。

森川:「『始動』に参加することで、業種を超えた社外の方のアイデアや考え方に触れることが出来たのは貴重な経験になりました。外に出ることによって視野が広がり、GCカタパルトで課題だったビジネスプランの精度は上がったと思います。ただその計画を事業に落とし込むのが一番重要で、そのギャップを埋めるのが難しかったですね。技術的な困難を、そのときのメンバーだけでは解決しきれなかったことが大きいです」

仲間と共に目指す、新規事業創出のその先

森川は、これまでの経験をもとに、新たな事業アイデアを形にしようと挑戦を続けています。次なるテーマは「予防医療」です。

森川: 「『始動』を終えたころ、社内で異動があり食洗機事業の事業企画へ移りました。食洗機事業では家庭用の洗浄機を、医療用に展開しているんです。それをきっかけに医療について勉強していくと、意外なことに気づきました。健康を考える上で一般に重要だとされている運動や栄養と同じくらい『歯』がとても大切らしいのです。口の中の衛生環境が原因で、肺炎を引き起こす例はとても多いんですね。誤嚥性肺炎というんですが、高齢者が誤嚥したときに口腔内の衛生環境が悪いと肺に菌が入り、肺炎になるリスクが非常に高まります。阪神淡路大震災のときも、震災関連死、つまり直接の震災被害でなくなるのではなく、避難所での過酷な生活など、震災の影響によって多くの被災者が亡くなりました。肺炎で亡くなる人が最も多く、そのほとんどが誤嚥性肺炎だったそうです(*3)」

新たな課題を前にして、森川はアイデアを固めるとともに、新規事業を起こす上で必要となるスキルを身につけようとしています。

森川: 「実際は事業企画が担当なんですが、今は営業や技術担当みたいなことも全てやっています。商談をし、契約を結ぶなど幅広い事業経験は、これからも新規事業の創出を目指していく中で避けては通れないこと。一方で、自分たちだけではやれることも限られてしまうので、社内はもちろんですが、社外のパートナーとも積極的に関わっていきたいと考えています。社外の専門家とコラボレーションすることでとても勉強になっています」

また、自らの能力を伸ばすだけでなく、新規事業を起こそうとする仲間の支援も始めています。

森川: 初めてGCカタパルトに応募したアイデアがベースにあるんです。あれから新規事業をつくる難しさを経験し、意識改革や、イノベーションのベースになる知識の獲得が不可欠と気づかされました。そこを補うために、有志を集めたインキュベーションサークルの共同代表として勉強会やイベントを開催したり、お互いの取り組みを語り合うことで刺激しあい、モチベーションを高め合う活動を始めています。

あと、最近すごく嬉しいことがありました。社外のアイデアソンイベントに出たときに知り合った大学生が、「自分が所属している学生団体で、『Famileel』のことが話題になりました、こんなUXをつくりたい!と目標にしていました」と言ってくれたんです。自分たちが実現しようとしたことに深く共感してくれた人がいた、というのは本当に力になります。それを糧に、今後も挑戦を続けていきたいと思います」

3_仲間と始めた新規事業サークル_Morikawa with members of incubation team.jpg森川が立ち上げから幹事として携わるパナソニック内のインキュベーションサークルのメンバーと、大阪万博でパビリオン出展を目指す学生団体「WAKAZO」とで共同ワークショップを実施

仲間を支援する中で、森川は、人の意識が変わってく過程を見ることに喜びを感じるといいます。それは、彼が新規事業の創出だけを目的にしているのではなく、まだ気づかれていない課題を見いだし、社会をより良くすることを目指しているからでしょう。カタパリストの一員としての、森川の今後の活躍を期待しています。

(*3) 出展 https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/34/3/34_245/_pdf

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