Nov 22, 2019

若林恵氏と語る、未来を創るために大企業が担うべき役割

Game Changer Catapult

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若林恵氏と語る、未来を創るために大企業が担うべき役割

「未来のカデン」をカタチにするパナソニックの企業内アクセラレーターGame Changer Catapult。代表の深田昌則が、ワイアード日本版の元編集長で、現在はコンテンツレーベル黒鳥社のコンテンツディレクターを務める若林恵氏を訪ね、未来の社会、そこで企業が果たすべき役割をテーマに語ります。

日本は本当に技術大国なのか?日本の優位性について考える

若林恵氏は黒鳥社で、「社会を再想像する」ためのコンテンツづくりをミッションとしながら世界各地の今を観察されています。ふたりの会話は、最近訪れたテクノロジーの発展が著しい中国、深センで感じたことから始まりました。

若林 「残念な現実ですが、深センに日本の企業が訪ねていっても、中国の最先端のテック企業にはなかなか相手にしてもらえない、という感じがすでにあります。でも一方で、グラフィックデザインや建築をやっているクリエイターたちはいまも日本に対するリスペクトが極めて強い。

これは文化においては、日本にまだ優位性があることの現れだと思います。日本人は日本の価値を技術力だと自認している部分があるけれど、『本当に「技術」がウリだったのか?』と問い直すべきかもしれません。

例えば日本のタクシーを海外の人が見て、乗り降りの際にドアが自動開閉することに驚く、ということがありますよね。それって別に技術はすごくないじゃないですか。めちゃアナログですし。むしろ、その使い方とか、それを実現した『文化』を面白がってるんじゃないかと思うんです。

『おもてなし』といえばそうなんですが、海外の人には思いつきもしない発想がそこにあって、それが驚かれる。それは『技術』じゃないんですよ。お客さんが見えなくなるまでお辞儀をし続けるみたいな、そういうものに近いものなんだと思います。ウォシュレットみたいなものとか、ヒートテックとかも、実は技術じゃないんだと思うんですよ」

日本独自の文化による価値観が、世界から見ると異質かつ魅力的なのだと若林氏は言います。ユニクロや無印良品など、国境を越えて評価されている日本ブランドも、技術や機能的要素だけで評価されているのではなく、ブランドが表現する哲学や世界観など、文化の優位性も大きく関係していると若林氏は指摘します。

Game Changer Catapult (以下、GCカタパルト)にとっても、「文化と産業の交錯」は重要なテーマです。深田はその意味をこう語ります。

深田 「『日本は高齢化社会が世界に先駆けて進むなど、世界の中でも課題先進国といえる』といった論調が私はあまり好きではないんですね。『課題先進国』ということが頭にあると、つい、課題のあるマイナスの状態を 0に戻す、つまり高齢化社会をいかにやり過ごすか、という発想になり、豊かな未来をつくるためには不十分なのではないかと思っています。それだけでは GCカタパルトが生み出したい『未来のカデン』には到達できません。

私たちが目指すのは、文化と産業を結びつけて新しい価値を生み出すことです。本当に未来づくりをしようとすると、シニアだろうが若者だろうが関係なく、新しい文化や価値観をどんどん吸収して、それが世の中に出ていくという世界をつくるべきだと思っています。

そうすることで新しい産業が生まれ、若い世代に教育や挑戦へのチャンスが与えられ、未来への投資が可能になります。そういった好循環を生み出していくためには、課題に対する処置をしているだけでは十分ではないと感じています」

変化や革新が起きる時代のキーワードは「安心」

変化を受け入れ、新しい市場を生み出すためには、何が鍵になるのでしょうか。若林氏は、大きなビジョンを全体で共有すること、そして変革を進める際に、いかに恐怖を取り除き安心感を与えるかが重要だと語ります。

対談中の若林さんの様子_Wakabayashisan at the discussion.JPG大きな変革を迎える社会について語る若林氏

若林 「デンマークは2030年までに石油エネルギーから脱却すると宣言しているのですが、一方でデンマークの主要産業は大量にエネルギーを消費する造船業だったんですね。世界でも5本の指に入る一大産業を、『石油エネルギーからの脱却』というビジョンを実現するために、すでに斜陽産業だった造船業を、国をあげてトランスフォーメーションしにかかるわけです。

そのときにデンマーク政府は何をしたかというと、造船所を再生エネルギー関連の施設に変えるために政府主導で資金調達をして、同時に造船所で働いていた人たちが新産業へと移行できるよう再教育をするプログラムを組合と一緒に進めて、ダイナミックに産業全体を移し替えたんです。

デンマーク全体でどんな社会を作っていきたいのかというビジョンを共有し、利害関係者をサポートしながら変革を推し進めたというんですね。強引に旗を振りつつも、取り残される不安を持った人たちに安心を与えて、社会として見放さなかったんです。

日本では官民一体となった業界再編は少なく、変化の最中にある業界では、スキルのある人材が別の業界に流出するのを見過ごすしかない状況のように見えます。沈みかかっている旧弊な業界のなかにいるポータブルなスキルを持った人材の移動を、本当はもっと積極的に後押ししたほうがいいと思うんです」

自身でもポッドキャストの配信を行う若林氏は、その収録・編集作業に取り組む中で、現在は最盛期の約半分に広告費が落ち込んでいる音声メディアとしてのラジオ業界こそ、ポッドキャスト市場にもっと積極的に関わって行くべきだと考えるようになったといいます。

若林 「 Podcastの番組をつくるのって、ちゃんとやろうとする結構大変なんです。冒頭にジングル入れて、途中で中締めの音が入って、エンディングを入れて、音声のバランスを調整して、ちゃんと構成するとなると本当はプロが介在している方が圧倒的に望ましいんです。で、ポッドキャストの企画制作をやれる人って、普通に考えるとラジオディレクターなんですよ。

デンマーク政府の話にならえば、斜陽産業のラジオが、業界一丸となってポッドキャストのマーケットを創出していけば、業界内にいるスキルワーカーの雇用を生み出せるかもしれないわけです。

そうやって新しい市場に高いスキルを持った優秀な人材が入って行けば、アウトプットのクオリティが上がって、クオリティが上がればマーケットも広がっていく。そういう良いサイクルをつくり上げられるのではないかと思うんです。

これはラジオに限った話ではなく、厳しい状況にある業界が息を吹き返すチャンスはあるはずで、業界全体で同じ方向をみて新たなマーケットを創出することに賭けてみることは大事なんじゃないかと思います」

深田 「 『デンマーク型』はたしかに理想的で、ビジョンを持って企業全体の変革を起こしていきたいとは思うものの、実際には既存の組織の中で利害関係があるので、そう簡単なことではないと感じています。そんな中で当事者として感じているのは、小さくともアクションを始めて積み重ねていくことで、少しずつ安心を育てていけるのではないかということ。

実際に GCカタパルトでは、単にビジョンを掲げるだけではなく、プロトタイプをつくり、 SXSW(*1)( South by Southwest®/サウス・バイ・サウスウエスト )のような展示会で発表することや、スピンアウト企業を立ち上げることなど、小さくても『形にすること』を重視しています」

(*1)SXSWとは?:アメリカ合衆国テキサス州オースティンで毎年3月に開催される、デジタル・インタラクティブや映画・音楽の分野での世界的規模の大型展示会。1987年に音楽イベントとして始まり、1994年にフィルム部門とインタラクティブ部門が追加され、現在の形式となる。とくにインタラクティブ部門は世界的に影響力があり、スタートアップ企業の登竜門として、昨今、企業や投資家などから大変注目を集める。

大企業が誇る最大のアセット――それは「はみ出せる人材」

若林氏は、パナソニックではないですが、あるプロジェクトで大企業の未来について考える機会があったといいます。その大手メーカーで新規事業に携わる若手社員が、「会社に思い入れはないが、大企業が持つ資源を利用してイノベーションを起こしたい」と話すのを聞き「大企業と個人の関係性における、ひとつのリアリティを感じた」といいます。

企業の立場からすれば自社への愛着や帰属意識が無いようにも映りますが、「むしろ喜ぶべきこと」だと若林氏が語るのには理由があったのです。

若林 「会社に縛られたくないのは、若い世代ならふつうの感覚だし、私も同じように思っていました。そういった考えを否定するのではなく、企業の側は、そうした志向性をどう生かすのかという方向で向き合うべきなんだと思います。

企業が膠着して新しいアイデアが生み出せないような現在の状況では、会社の枠から出て、外から組織に新しい風をもたらす人は貴重な存在になります。そうした人たちの価値を、どういう雇用形態で、どういうふうに社の資源に変えていくのかは、あらゆる企業の課題となります。そういう人材を囲い込んで独占化しようとするとかえって、その価値が生きないということもあります。

これからの企業は、そうやって新しい挑戦する人たちをうまく見守って、後押しする役割を果たすべきなのかもしれません。社会が大きく変わる中で働き手には『挑戦しろ』という期待がかけられがちですが、同時に『挑戦して失敗したら自己責任』『会社に頼らず生きろ』というのでは挑戦のしようもない。挑戦する者にとって、企業がある意味セーフティネットとして機能することが、今後社会から求められる役割かもしれません。

そして彼らが組織を『利用』して生み出す新規事業が、会社の次世代をリードする。これは個人やスタートアップには持てないアセットを膨大にもっている大企業にしかできないことかもしれません」

深田も自身の体験から、大企業で働く人々の考え方の変化についてこう話します。

深田はGCCでの経験をもとに語ります_Masa Fukata talking based on his experience in GC Catapult.JPG若林氏と未来について語るGame Changer Catapult代表の深田昌則

深田 「講演などで社外の方に対して話をする機会に、とくに若い世代から反応が大きいのは働き方に関するトピックスです。 GCカタパルトに挑戦する社員は、本業を持つ会社員でありながら、自分のやりたいテーマに取り組みます。事業創出がうまくいけば、スピンアウトして会社を立ち上げているような社員も実際に存在する。

上司に与えられた目標だけを追いかけるのではなく、自らやりたいことをテーマアップし、事業機会を探す、という働き方に魅力を感じてくれます。

その働き方の何が良いかというと、社員個人の成長はもちろんですが、企業としてのパワーアップにもつながっていることですね。たとえそのアイデアは事業化につながらなかったとしても、事業を生み出そうと本気で取り組んだ経験は本業にも生かされるわけですから、結果的に既存事業、ひいては企業の成長につながります」

GCカタパルトは、社内に眠る事業の種をインキュベートする組織です。大企業の次世代を担う人材を生み出し続けるためには、新規事業組織を立ち上げるだけでなく、いかに活動として持続させていくかが重要になります。企業の中の組織としてどのように位置づけ、活用していくべきなのか、今後もGCカタパルトの挑戦と試行錯誤は続きます。

大企業が起業家のセーフティネットになる。未来をつくる人材へ与える選択肢

昨今のテクノロジーの進化と共に新しい職種や業種が生まれ、逆に役目を終えた仕事は消えていくことが予測されています。終身雇用や年功序列は未来永劫に続かないことは、もはや共通認識です。デジタル化によって事業のスモールスタートがしやすくなる反面、変化する社会で雇用からあふれる人たちをどのようにカバーするか。

その課題に対して企業ができることは何か。若林氏が示唆するのは、「社会全体で起業する人が増えるよう、社員に道具を持たせた上で『巣立ちをサポートする』」という考え方です。

若林 「イノベーションを生む前提として、挑戦する人がチャンスもリスクもすべて背負うのではなく、社会が彼らをサポートすることが必要です。大企業が起業家のセーフティネットになるというのは理にかなっていると思います。

日本のスタートアップも、融資などで負債を抱えて始める形から、投資を受けるエクイティ型のスタイルが多くなっている。そこに、『大企業の社員から自分の会社をスピンアウトする』選択肢が加わっても良いと思います。

巷でよく聞く、大企業かスタートアップかの二択ではなく、その中間があって、若い人に限らず可能な限り多様な人たちに向けて、さまざまなオプションが提供されるべきだと思います。自分たちの生き方に合わせて、多様なグラデーションが用意されていることが必要だと思います」

お話される若林氏_Mr. Wakabayashi talking.JPG

深田 「大企業が新規事業のプラットフォームになることで、投資ファンドだけではできないサポートが可能です。たとえば事業会社が持つ技術や、事業運営、法務などのノウハウなどのリソースを提供できるのは大きなアドバンテージになると考えています。

中国の大手エレクトロニクス企業でも、事業を生み出すしくみをオープンプラットフォーム化してアイデアを集め、事業創出をしているところが出てきています。事業会社だからこそ、パッションとアイデアさえあれば、事業化に向けてさまざまな方面からのサポートができるんです。

時代をさかのぼれば、江戸時代末期、坂本龍馬をはじめとした維新の志士たちも、各藩の大名にサポートされていたと言われています。藩主としては脱藩者である彼らを政治的に認められない一方で、個人としてはその動機や情熱に共感し、資金を提供していたといわれていますよね。その関係性はこれからの企業と社員のあるべき関係と近いのではないでしょうか」

これからの日本の未来を考える上で、大企業ならではの果たすべき役割があるのではないかと考えられています。

若林 「パナソニックなど、国内で歴史がある企業はやはり社会的信頼はいまでも厚いです。そういう企業が、時代の先行きが見えない中で、社会に向けて、こういう世の中、社会を創っていくんだと発信することは、社会を安心させる意味でも大事なことだと思います」

深田 「そして、企業には挑戦する若者を支える役割を担うこともできると思いますね。大きいコトに挑戦するときにリスクを低減しながらサポートするしくみや、新規事業やスピンアウトを生むスキームの構築などは、企業にとっても社会全体にとってもかけがえのない重要な価値を生み出す基盤になると考えています」

大企業は事業を生みだすプラットフォームを目指す──予測困難かつ複雑な環境にある現代だからこそ、企業と社員がこれまでのような単なる雇用する側とされる側という関係ではなく、パートナーとして共にどんな未来を描けるのかを考える必要があるのではないでしょうか。

私たちGCカタパルトは従来の企業や組織の枠を越え、新規事業の創出を加速させるため、このような大きな社会の変化点を迎えていることを念頭に置きながら、これからも挑戦する人々を支え、社会全体に大きなインパクトを与えられる貢献を目指していきます。

Special thanks ; 黒鳥社(blkswn publishers) https://blkswn.tokyo

プロフィール------------------

若林恵

1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後,雑誌,書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。著書『さよなら未来』(岩波書店・20184月刊行)、責任編集『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』(黒鳥社/日本経済新聞出版社・201812月刊行)。

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