Apr 5, 2019

Slush Tokyo2019社内起業家ピッチステージレポート:自らの言葉で語ることで見える、新規事業に必要なこと

Game Changer Catapult

Slush Tokyo2019社内起業家ピッチステージレポート:自らの言葉で語ることで見える、新規事業に必要なこと

Written by Game Changer Catapult サポーター 中島 由美香(パナソニックアプライアンス社空調冷熱ソリューションズ事業部所属)

入口を入ってすぐのブースに現れるバーカウンター、上を見上げると「Panasonic」というよく見慣れたメーカー名。普段は群馬県でコールドチェーンの開発に取り組むメンバーから生まれた、音楽を介したインタラクティブコミュニケーションサービス"Howling Box"のブースである。

1_ Game Changer Catapultブース_Game Changer Catapult's Booth.JPG

1Howling Boxのブース_Booth of Howling Box.JPGHowling Boxのプロトタイプ

スタートアップのイベントに大企業が顔を出すなんて場違いなのでは、と微かな心配とは裏腹に、パナソニックは良い意味で場を乱す存在となっていた。開催1日目午前に行われた各事業アイディアのリーダーによるピッチでは立ち見で壁ができ、いくつかのメディアで取り上げられるなど当社の注目度が伺えた。今回パナソニックはスタートアップを買収し、出展しているわけではない。出展した6つのアイディアは、全て社内で本業をする傍らから生まれた事業の芽なのである。では今回なぜ我々のような大企業が出展に至ったのか、それはSlush Tokyoに出展しているその他のスタートアップと同様、自らの事業アイディアで世界を変えたいという思いをもった社員が自主的に動いた結果である。会社自体もそのような熱意の塊が職場の士気を高め、風通しの良い環境へと少しずつ変わっているように感じる。個性はどんどん輝かせたいという会社としての思いが堅調に表れた今回のイベントへの出展であった。

事業アイディアのリーダー自らが自分の言葉でコンセプトを語る

Slush Tokyoのイベントの特徴の一つは「ピッチ(プレゼン)」である。会場内にいくつか設けられたステージでは、世界中から集まった様々なスタートアップがひっきりなしに自らのアイディアを熱を込めて話していた。ここで自分の意見を話して投資家に認められれば、一気にビジネスとして成功することができる。投資家以外にも、世界中からの来場者の前で自分の言葉でビジョンを語ることで、新しい見方に気づき、アイディアがどんどんブラッシュアップされていく。ピッチ会場ではそんな緊張感と興奮が感じられた。

初日の2月22日午前からGame Changer Catapultの6つの事業アイディアの代表者たちがプロダクトピッチを行った。ちなみに、イベントの公用語は英語なので、ピッチは全て英語で行われる。実は今回登壇した社内起業家たちは普段英語を使う機会が多くなく、意を決して臨んだ舞台であったことがその発する一言一句から伝わる緊張感からも伺えた。それでも今回この機会に臨んだのはその緊張をも超え伝えたい思い、発したい熱意を持ったアイディアがあったからである。

「短い時間にエッセンスを凝縮して分かりやすく伝えることに配慮しました。早口で多くの情報を詰め込みたくなる衝動もありましたが、それを抑えて、短くてシンプルでも要点を押さえたプレゼンになるように心掛けました。本番はとても緊張しましたね。」(DECARTE リーダー 大塚泰雄)

自分たちのアイディアを伝えるために、各チームが工夫を凝らしていた。

「英語プレゼンは初めてで・・・。予想以上にお客さんが多く、緊張してどんどん後ずさってしまいましたが、メンバーがとっさにアドリブでプロトタイプを持ってお客さんの中を歩き回ってくれて。おかげで自然なプレゼンができました。プロトを見た時のお客さんの反応もよく手ごたえがありました。」(DishCanvas リーダー 工藤有華)

2michorチームによるピッチ_Pitch by michor.JPG「原稿を書いてネイティブに見てもらって丸暗記して・・・・。頑張って覚えたのですがわかりやすくなるように前日のリハーサルでまた直して。準備は非常に苦労しましたが、やりきれてホッとしました。やればできるものだと感じることができました。(michor リーダー 中島有季子)

「日本語をそのまま英語に訳すとどうしても説明っぽくなり過ぎるので、なるべく会場の人に伝わるようにするために帰国子女の友人に見てもらったり、と苦労しました。また、なるべく相手の気持ちに届くように一人称を"You"にしたりするなどの工夫もしました。」(Howling Box リーダー 溝口仁也)

自らの言葉でアイディアを話したことで、その後ブースに立ち寄ってくれた来場者も多くいらっしゃった。

3ダイアログステージの様子_Dialogue Stage.JPG「緊張のため頭が真っ白になってプレゼンのほとんどが飛んでしまって・・・・。反省ばかりでしたが、そんなピッチでも『ピッチをみたのでブースを見に来たよ』といってくださる方もいて、そこはとても嬉しかったです。(Hitokoe リーダー 波多江広佳)

各チーム、初体験のピッチに挑戦したこと自体が、会場でより多くの気づきを得るきっかけになったようだ。ピッチでの聴衆からの質問では事業の実現性を問うものが多く、またその他michorでは質問者自身が勤務している美容学校に取り入れてみたいという声、Decarteではユーザーが飽きないよう、発展的な開発を求める声があった。

トークセッション:アーティスト/クリエイターから見た我らの未来の「カデン」

社内では新しいビジネスを始めようとしている彼らのアイディアは、家電というジャンルとは全く違った角度から見たらどう映るのだろうか。今回パネラーとして日本に拠点を置きながら映像制作を行うAlexandre Bartholoさん(以下 Alex)と歌手で自らもインフルエンサーとして活躍するマルチアーティストの草野絵美さんにご登壇いただき、HowlingBoxの溝口さん、michorの中島さんと一緒に今回のアイディアについてディスカッションしてもらった。

4_ディスカッションの様子_Discussion.JPGトークセッションの様子、左から草野さん、Alexさん、中島さん、溝口さん

共感で広がる音楽のアイデンティティ

Alex:まずHowling Boxについて聞いてみましょう。今までバー等公共の場所で音楽を通して人に出会ったことありますか?

溝口:はい、よく通っているバーでは顧客とバーテンダーが好きな曲について話しあっていて、そんな中から今回のアイディアが生まれました。

Alex:今回の商品についてのビジョンを聞かせてもらえますか?

溝口:ジャズやブルース、ロックなど顧客の音楽への嗜好をベースとした"特定のコミュニティ"をつくることです。

Alex:すごく良いアイディアですね。インターネットが普及していろんなジャンルの音楽が知れるようになったと同時に選択肢が増えた。あなた達のビジョンはきっと「適切な時」に「適切な場所」を音楽をきっかけとして探すってことなんじゃないかなって思っています。音楽をどこでどのように聞くべきか、という着眼点は面白いですね。将来的に開発がもっと進んだらアプリを通してその「適切」な場所でもっと気軽に好きな音楽を紹介しあったりできるのでは、と思っています。

草野:私は「80年代」に特化して音楽をつくっているのですが、この仕組みを使ってファンの輪をつくってみたいと思っています。

Alex:僕はよくリコメンデーションを見て音楽を知ることがあって、それが一種のライフスタイルにもなっています。そこでインスパイアされて検索し、更に音楽を探していくこともよくあって、そういったコミュニティってすごく大切だと思っています。

草野:日本人はシャイだけどカラオケが好きですよね。スナックとか、音楽がかかるとそれをきっかけに話しだしたりすることもよくあります。

国を超えたJapanese beautyの発信

Alex:michorについてはどうでしょう。僕はあまり髪をセットしたりしないので、この商品を使うとしたらオープンカーを運転して髪が荒れた時くらいですね... (笑)。逆にEmi(草野さん)はまさにターゲットですね。

草野:はい、私は今朝もmichorを使ってセットしてみました。やはりこれは自身の経験から生まれたものですか?

中島:そうですね、Youtubeやinstagramで沢山の髪型をセットするビデオを見つけても実際に自分がそれをするのは難しくて、このアイディアが生まれました。前後の様子を同時に見ながらセットできたらいいなって思ったのがきっかけです。

草野:同時にチュートリアルビデオが見られるのも良い点ですね。私はいつもヘアメイクさんにキレイにセットしてもらっても忘れてしまうのですが、後で確認することができたらと思うことが良くあります。このメインターゲットはどんな人ですか?

中島:カスタマーサービスとしてヘアサロンがツールとして使ってくれたらいいなって思っています。あとはYoutuberとか。これに限らず、もっとヘアスタイルの幅を広げていきたいです。

草野:誰でもヘアスタイルの先生になれるようクリエイターに対してプラットフォームを作るのもいい案だと思います。クリエイターにとってマネタイズの手段になるかもしれないですし。

Alex:チュートリアルビジネスってどんどん伸びているので、市場として可能性があると思っています。

草野:あとは、国を超えた市場の広がりにも注目できるのではないかと。今や日本だけじゃなくて韓国やアメリカのビューティーサイトにも簡単にアクセスできるというのもあって。日本だけだと市場が限られるけど、韓国やアメリカも含めれば美容市場というのは非常に大きい、そことつながっていくと可能性が大きく広がるかもしれませんね。

夢への第一歩、世界の舞台「プロダクトピッチ」へ登壇

今回Slush Tokyoの目玉である「プロダクトピッチ」には、世界各国から厳選されたスタートアップが出場する。投資家に認められることで自らのアイディアを実現させ、新しい世の中を作っていきたいと本気で思っている人達が競い合う、厳しい現場である。厳しさはありつつも、会場は新たな宝物を探しにくるような"ワクワク"した人たちが集まり、和気あいあいとした雰囲気の中プロダクトピッチは始まった。今回そこへ弊社からもKajiTrainerとHowling Boxの2チームが審査を通過し、登壇を果たした。

5_メインステージ_Main Stage.JPG緑に包まれたメインステージの様子

KajiTrainer

1日目も終盤に差し掛かった頃「KajiTrainer」の名が司会者から紹介されると同時に大きな歓声が沸き上がり、モップを持って腰にKajiTrainerを巻いた2名の女性が堂々と現れた。

7_Product Pitchに挑戦する鍛冶_松尾_Matsuo & Kaji talking at Product Pitch.JPG

主婦の1日の30%を占める家事をトレーニングに変えてしまおうという斬新な発想から生まれたこのアイディアは投資家たちの興味をそそり、質問が飛んだ。「運動によって健康を維持する、ということは作業療法士が既にやっていることでは?なぜデバイスとサービスでやろうとしているのか?デバイスとサービスでユーザーが個人できちんと運動できるという自信はあるのか? 」これに対してKajiTrainerの松尾さんは「自信はある。実際にKajiTrainerに搭載されているメニューは作業療法士によって作られたもので実際に作業療法士が日々の家事に取り入れて行うよう勧めているものも多い。健康維持のための習慣をつくるため日々の家事という負荷を使うところが私たちのアイディアのユニークなところ。」と堂々と答える。また、「面倒だと感じる人が多い家事(掃除など)に健康やダイエットという別の目的が足されるのは良いアイディアだと思う。ちなみに、もし仮に週に2回、1カ月KajiTrainerを使うとしたらどれくらいのダイエット効果がありそう?」という問いには「まだKajiTrainerでの実績は作れていないが、このプロジェクトの協力者であり、シニア向け健康づくり教室を運営されている清田先生*の生徒さんで掃除でトレーニングを行った方の中には半年で9.6キロ減らした人もいるそうです。」と、和気あいあいとしたやり取りが行われた。

Howling Box

Game Changer Catapultから2人目に登場したのがこちらも自らのアイディアで世の中の仕組みを変えたいと思う人の一人、音楽もface to faceで繋がりあうコミュニティの形成を促すためのきかっけづくりをするHowling Boxだ。

6_Product Pitchに挑戦する溝口_Product Pitch.JPG

会場からは「将来的にどうやってマネタイズしていきたいと考えているの?」と質問が飛びだす。Howling Boxリーダーの溝口さんは、「最初は飲食店を対象としたレンタルサービスから始めそこで音楽の嗜好データを蓄積させ、音楽視聴に関するデータビジネスにからマネタイズしたい」と思いを語った。また、「今後"Like"以外のリアクションを増やす予定はないのか。"Like"だけで会話を始めるのは難しいと思うので、リアクションを増やした方が良いのでは。」とサービスの中身に踏み込んだ意見もあった。溝口さんは、「今後リアクションを増やすことも考えているが、まずはユーザーのリクエストを聞き検証したいと考えている。また、あくまでもリアルコミュニケーションにこだわりたいという思いを持っており、リアクションはあくまでも『きっかけ』としてうまくワークするように考えたい」と思いを語った。

Slush Tokyo 2019の「プロダクトピッチ」は、働き方から仕事を探せるプラットフォームを提案した「Clarity(クラリティ)」が選抜された世界各国50社の中から優勝を果たした。Slush Tokyoで日本人起業家が優勝したのは今回が初めてとなる。

当社の2つのアイディアも優勝こそは逃したものの、このような厳しいスタートアップの世界を初めて体感し、様々な角度からのフォードバックをもらい更にアイディアが磨き上げられた。このSlush Tokyoがゴールではなく、今後更に世界で戦える実力をつけて事業化に向け推進していくことが求められる。

Slush Tokyoの現場で感じたこと

Slush Tokyoの現場に行って感じたのは、アイディアを形にするために「熱意」が大きな原動力となる、ということだ。大企業にいると目の前の事業から離れたことをするなんて半ば異端児のようにも思われるが、そういった自主的な活動を応援する風潮が社内にも徐々にできてきていることを改めて感じた。今や大企業とスタートアップは二項対立のものではなくなってきており、組織は個人を尊重している。新しいものを生み出すにはスピードとエネルギーが求められるがそういった中で共感、理解を社内外に得てオフィシャルに進められる仕組みがあることは非常に力強い。実は私は昨年末に2年間の海外駐在から帰ってきたところだ。この2年間の社会とパナソニックの変化を、自分もAmericanizedされた世界から帰国したところなのですんなり受け入れることができた。そういったクリエイティブワークがむしろ本職を促進させ人生を豊かにさせるのでは、と考えている。今回のアイディアの中には多様なビジネスを行っているパナソニックだからこそ実現できた、事業部の垣根を超えた商品がほとんどである。そのようなアイディアの芽は、Slush Tokyoが終了した後も本業と変わらず「お客様第一」の精神で今後も更にブラッシュアップされていくのだろうと強く感じさせられた。

*清田真未さん http://bisouji.com/

一般社団法人日本整理収納協会 代表理事、美そうじコンサルタントとして著書「1日5分で家じゅうどこでもダイエット 『やせる掃除!』(かんき出版)」を出版するなど活動中

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