Dec 28, 2018

オフィスが可視化されたときに見えるものは?イノベーションを生む都市・オフィスをソフト視点で考える。

Game Changer Catapult

オフィスが可視化されたときに見えるものは?イノベーションを生む都市・オフィスをソフト視点で考える。

10月30日から11月3日まで開催されたパナソニック創業100周年記念「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」の中で、「ソフト視点でオフィスと都市の未来を展望」というテーマのセッションが行われました。一般にオフィスや街づくりと言うと、どうしてもビルや施設など箱もの、ハードウエアを連想しますが、これからはハードに代わってサービス、ソフトウエアが大切になるのではないか?そういった視点に基づき、集まった参加者は三井不動産株式会社の光村さん、株式会社ウフルの八子さん、そしてGame Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)でtotteMEALのプロジェクトリーダーをしている井上です。司会者と3人によるディスカッションの模様をレポートします。

当日の登壇者

  • 三井不動産株式会社ベンチャー共創事業部 BASE Q運営責任者光村圭一郎氏
  • 株式会社ウフルCIO 兼 IoTイノベーションセンター所長 エグゼクティブコンサルタント八子 知礼氏
  • パナソニック株式会社Game Changer Catapult totteMEALリーダー井上貴之

都市はイノベーションのための装置であり、そのための工夫が必要

―まずは簡単に自己紹介をお願いします。

井上:私は現在、Game Changer Catapultで、「totteMEAL」の事業化に取り組んでいます。「totteMEAL」は無人販売をサポートする新しいプラットフォームです。オフィスの置き菓子サービスなど、無人販売サービスは既にいくつもありますが、共通の困り事を抱えてらっしゃいます。例えば、お金を入れずに取っていかれるとか、在庫補充のタイミングが分からないとか。アナログ管理のリスクに対して、例えば後付けのIoTユニットを使って「ロックだけ付けませんか?」「通信機能だけ付けませんか?」というご提案です。皆さんがすでにされている事業でお使いの冷蔵庫、冷凍庫に付けていただいたら、安全に無人でキャッスレスで販売できるというのが、この「totteMEAL」です。また、オフィスの中で美味しく健康的な食事がとれるサービスを提供することで、ランチ難民の方の課題を解決できるのではないかと、実証実験も行っています。あと、これが使えるのは冷蔵庫に限った話ではないので、会議室の扉に付けたり、本棚に付けたり、アイディア次第で色々チャレンジできるプラットフォームとなっています。

2_発表する井上の様子_Picture of Inoue at Cross Value Innovation Forum 2018.jpgGame Changer CatapultでtotteMEALのリーダーを務める井上貴之

3_発表する井上の自己紹介スライド_Picture of Inoue's profile at Cross Value Innovation Forum 2019.jpg

4_トークセッションのスライド_Picture of talk session slide at Cross Value Innovation Forum 2019.jpg

光村:私の顔は二つあります。一つは三井不動産の新規事業担当。オープンイノベーションという概念によって成し遂げていくという、いちプレイヤーとしての顔があります。主に我々が行っている商業施設事業や住宅、ホテルなどに、新たな外のテクノロジーやビジネスモデルを持ち込んで融合させていく橋渡しを行っています。もう一つは、東京ミッドタウン日比谷で「BASE Q」というコミュニティを開設しています。ここでは三井不動産のみならず、色々な日本の大手企業でオープンイノベーションをより本格的にやっていけるよう、サポートさせていただいています。

5_発表する光村氏氏の様子_Picture of Mr.Komura at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg三井不動産株式会社ベンチャー共創事業部 BASE Q運営責任者光村圭一郎氏

八子:私が所属しているウフルという会社は、デジタルトランスフォーメーションを実現するインテグレーターです。と言っても、実は色々な会社から出資していただいていて。私が2年半前に入社したタイミングから、システムとシステム、データとデータ、もしくはデータと人、物を繋げていくという仕事をしています。繋がっていないことを繋げていくことが社是であると捉え、IoTを軸にビジネスを再編成している会社です。この中でも私自身はIoTイノベーションセンターという部門で、オープンイノベーションを主軸として行っています。あと、最近地方から呼ばれることも多くて。IoTはどんどん地方にも進展していますので、地方でどうやってIoTを活用していけばいいのかというご相談に乗るような活動も行っています。

6_発表する八子氏の様子_Picture of Mr.Yako at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg株式会社ウフルCIO 兼 IoTイノベーションセンター所長 エグゼクティブコンサルタント八子 知礼氏

―では、今回のテーマなのですが。今、箱ものが立派になっていますよね。特に2020年に向けて東京は。その中で、人が、活動的に仕事ができるオフィスづくり、生活を楽しめる街づくりが大切になってくるかと思います。。それぞれ進められている事業で、どのあたりに問題意識をもっていて、どう変えようというアイディアだったり、モチベーションがありますか?

井上:私は関西出身で、最近関東に転勤してきました。東京に来て一番思うのは、高層ビル、高層マンションがたくさんあるなと。ランチ難民なんていないと思っていたのですが、実際自分がそうなって大変な問題だと感じました。そこで、エレベーターで下りなくてもオフィス内で食べられるものがないかと思っているときに、置き形ビジネスがたくさんあることを知り、さらにそういった方たちの共通の困り事が見えたんですよね。それを解決するというのが「totteMEAL」に繋がるんです。やはり今の都市は一局集中しすぎで、人が集まりすぎているが故に、上に上にと向いていっているので、今後食事以外でも色々と課題が見えて来るのではないかと思っています。

―高層ビルを作っても、その後そこで働く人たちに強いられる負担や困り事には、あまり思いが巡らされていないんですね。

光村:数十年前からオフィスビルにおける3大クレームって変わっていないんですよ。エレベーターの待ち時間、トイレの混雑、空調の暑い寒い。でも、色々なニーズやクレームはありますが、どこの何を捉えて根本的に解決しなければならないのか、逆に言えば、きちんと情報公開してフェアなクレームをいただくようにすべきだという点に関しては、正直努力が足りていなくて。正に今IoTや色々な通信インフラの中で、潜在的なニーズの集約をフェアにやるというところは考えないといけないですよね。

―新しい問題というのはあまり出てこないのでしょうか?

光村:都市を一つの概念として捉える時に、都市ってイノベーションのための装置だと思うんです。様々なものが狭いエリアの中に密集している都市は、ぶつかり合いや組み合わせの中でイノベーションが生まれやすい環境だと。一極集中しすぎた結果色々な弊害がありますが、一方それによって生まれるイノベーションもあるので、イノベーションがより生まれやすくなるためのインフラ整備やソリューション提供というのが新しい問題ではないかと、私は強く意識して考えています。

井上:そこは確かに後手に回ってきた感じです。

光村:結局それを偶然性によるものとしてしまうのか、もう少し効率的にマネジメントできるものだと考えるのか、そのあたりにヒントがある気がします。

8_発表する井上の様子_Picture of Inoue at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg

―よく出張で地方に行くと「都会の人は良いね」と。「一つのビルの中に色々な人がいて、刺激に溢れていて、イノベーションが起こりやすいよね」と言われますね。田舎はイノベーションの機会が少ないと、よく嘆かれます。

光村:でも、同じビルにたくさん人がいても、閉じこもっていてはイノベーションが生まれるわけもないんですよ誰と誰が手を合わせ、誰と誰がどういう会話でコミュニケーションをとるのかをデザインして、はじめてイノベーションが生まれる都市ができる。そこに大きなチャンスと、我々が果たすべき役割があると思っています。

井上:そういう意味ではうちの部署も、ようやく関西から関東に来たのですが、全部自社ビルなので。結局パナソニックの人間しかいないんですよね、色々な組織が集まってはいますが。それで社内の人間で話し合って、パナソニックのものしかできないんですよ。だから、今仰っていただいたような複合施設とかコミュニティとか、そういうところを積極的に活用しないといけないのですが、慣れていないのでうまくコミュニケーションがとれない。そういう人たちからすると、最初の一歩ってどう動けば良いのでしょうか?

光村:これはけっこう大事なところで、日本人の特殊性がありますよね。皆さん口では「コミュニティを求めてここに来ました」という割には、いる人同士で喋らない。日本人ってシャイで、話しかければ話しますけど。セミナーにも知見を求めて参加する割には、聞くだけで終わってしまう。

井上:シリコンバレーに行く日本人と同じですよね。

光村:シリコンバレーやサンフランシスコなら、ワーキングスペースで仕事しつつ一息ついていたら「Hey、どうしたんだい?」と話しかけてくる人がいる。でも、ああいうのは日本で欲しいといってもないものねだりです。じゃあ、どうする?というので、サービスやテクノロジーの力で何かできないかなとは思いますね。

―日本人はこういう会議室にいると、隣同士で挨拶することもなかなかないですよね。そういう中で、何か工夫などされていますか?

八子:以前の職場であるシスコでは、少なくともコピーを取る時には、敢えてその周りに人が集まりやすい環境を作っていました。コピー待ちの間にコーヒーが飲めて、コーヒーを飲んでいると他のコピー待ちの人が来る。そこで複数人が集まって会話が弾むという。

―ひとつは、オフィスレイアウトで上手くカバーできるところがありそうだということでしょうか。

八子:そうですね。あと、シスコはミッドタウンにあったので、オフィスエリアで働く人たちが飲食店エリアに出ていくのに使えるアプリがありました。どこの飲食店が空いているとか、クーポンを発行しているとか。敢えて動線を積極的にするような、誘客をやっているんです。そうしないと、オフィスはオフィスで、商業施設は商業施設で分離するという形になるので。元々の崇高な都市設計に対する土台がはばかられますよね。

―上手くコミュニケーションが出始めるきっかけを、オフィスのいたるところに張り巡らせておくという発想ですね。

八子:はい。それと、今ウルフのオフィスは、半分は社外の方もアクセス可能なフロアにしていて、パートナーさんもお客さまも自由に入って来ていただいています。例えば、八子とアポイントを取りました。で、それまでに2時間あるからと、そのフロアで普通に働いているというパートナーさんたちが、ざらにいます。そういったオープンというのが本当にできているかが、一つの経験上の課題だと思います。

活性化のため情報をオープンに、見えないものを可視化する

光村:オープンにするためには、当然テクノロジー的な面が必要で。今日も、参加者を見ても誰が誰か分からない。例えば、申込みの際に私は誰で何に興味があってと登録した情報、それが名札に仕込まれたチップに入っていて、自分と興味の近い人が近づいたらアラートが鳴るとかすれば良いのになと。よくプライバシー云々と言われますが、こういう場において何を最上級の概念に置くのかと言うと、コミュニケーションなので。そんなの関係ない。正にコミュニティデザイン、設計者の意志みたいなところとテクノロジーを組み合わせていくのが大切だなと思います。

7_発表する光村氏の様子_Picture of Mr.Komura at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg

―海外のイベントに行くと、誰が参加しているのか、けっこうオープンですよね。

井上:海外のイベントを国内に誘致した場合は、けっこう踏襲した形になるので。オープンに情報を出していることが多いですが、国内主体のイベントはなかなか。日本の法律、個人情報保護みたいなのもあるかもしれないですが、仮に技術的な視点で、こうしたら良いのでは?というのはありませんか?

八子:展示会だけに限らず、今、人の動きがどうなっているかをもっと可視化しましょう。で、その人が誰なのか、情報をオープンにしましょう。というムードが高まりつつあります。我々もオフィスの中ではビーコンを付けていて、誰がどこにいるのか、どの社員からも分かるようになっています。また、例えばこの部屋の二酸化炭素濃度は、あと2時間もすると1200ぐらいに上がって、誰も話を聞いてない状態になります。そういった環境状態も可視化していかなければならないですが、まだ全然されていないと。そういった見えてない中で、パフォーマンスを発揮できるか分からない中で、我々コミュニケーションを高めましょうと言われても、高まるはずがないですよね。

13_トークセッションの様子_Picture of talk session at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg

光村:やはり、IoTやソフトの開発に繋げようという時に「見えないものを可視化する」というところが決定的に重要なわけで。先程の個人情報云々で、こういう場においてコミュニケーションを発揮するために、結局一番可視化されなければいけないのは「信用」という言葉だと思うんです。例えば、一定のアビリティを持った人しか参加しない、信用できる仲間だけが集まったセミナーでは個人情報だだ漏れでも良いけれど、そういう設計がなっていない場においては、テクノロジーが必要とされるところがあったりする。そういうのが大きなテーマなんだろうと思うんですよね。

井上:私が取り組んでいる「totteMEAL」も、実は食事のログという、今までデジタル化されていなかったアナログデータをデジタル化しようというのをきっかけに始めていまして。IoT家電なら朝と夜はいずれ取れるでしょうけど、昼抜けるよねというところで。もしかしたら昼チャンスがあるのではないかというのがきっかけでもあるんです。

「totteMEAL」のデータが持つ無限の価値、可能性とは

―「totteMEAL」は今から本格展開ということですが、色々とデータが集まってくると、どのような展開が考えられますか?

井上:普通に考えると、売れ行きが見えるので売上促進でしょうか。「とりあえず自由に使ってください」と言うと、私が思いつかないような変な使い方をする人が出て来ると思うので、そこでまだ想像もできないようなものが見えるだろうと思っています。今現状できるのは単純な在庫管理や、食事ログなので健康診断と繋いでみたり、レストランに誘致してみたり。そういう一般的な、皆さんが思い浮かべるようなところを超えることは、まだできていません。

15_発表する井上の様子_Picture of Inoue at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg

光村:三井不動産みたいな立場からすると、そのデータはすごく欲しいんです。「totteMEAL」をよく使っている人って、その会社の中でめっちゃ忙しい、将来絶対に出世する優秀な人である可能性が高いわけですよ。絶対に目をつけて、何か繋がりを持っておくべきっていう。こういう方々との接点って、今までは千人一山でしかなくて、そのために法人営業部隊を置いて色々なキーマンを攻めているわけです。だったら、このデータを見た方がよっぽど早い。関連する色々な数字も一緒に見た方が、絶対に関係性が深まりますよね。ここでもうすでにアライアンスが生まれるわけです。

井上:インタビューさせていただく中で、ランチがすごく短かったり大変だったりする方ほど、役職が上なんですよ。あるところまで行き過ぎると、たぶん自由に時間がとれるので変わってしまうという意味であれば、ヘッドハンティングとか青田買いするにはちょうど良いかもしれないです。

光村:それはたぶん逆ですね。忙しい人が単に役職が上というだけで、それが優秀というのはどうかと。若いうちから忙しくしている人を見つけるというのが大事かなと。あと、色々な人と食事している、それがいつも同じチームではないというのは、その人のコミュニケーション属性がよく見えて来ますし、社内でハブになっているという見え方をするので、それは見たいですよね。

井上:そういう意味では、オフィスの部屋ごと、部署ごとに置いて自由に買ってもらうようにすれば、今日はどこで買ったのか、動線も見えるようになります。

見えないオフィスの中を見える化すると、無数のビジネスが生まれる

八子:お二人の話の共通点は、いかにオフィスの中が今は見えていないのかということですよね。なおかつ、街全体と繋げていった時に、もっと可能性があるのだと。見えていない所をもっと見える化すると共に、オフィスの中だけを考えるのではなくて、もっと街全体を繋げていく、他のビジネスパーソンや会社と繋げていくべきだと。それで、「totteMEAL」がやろうとしているのは「パーソナルな食事の体験、経験をちゃんと管理しましょう」ということですが、それ全体がビジネスのパフォーマンスと繋がっている。依然として繋がっていない物事があまりにも多すぎて、その間をどうやって繋げていくかによって、いわゆるスマートオフィスであるとか、スマートシティであるとかいうところに繋がってくるんですよね。

17_発表する八子氏の様子_Picture of Mr.Yako at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg

光村:確かにIoT単体で見ると、市場規模なんて大したことないんですよ。でも、今まで繋がっていなかったものをつなげれば価値が出てくる。「totteMEAL」自体も、大して儲からない。でも、「これからの日本企業を支える優秀な人材のデータベース持てますよ」と言った瞬間に、みんなちょっと目の色が変わる。それをヘッドハンティングビジネスにもできますし、そういう人たちにはどんどん教育の機会を与えていかなければならないので「ここで年間1000万円ぐらいの教育費用が動きますよ」と。そうなると、市場がどんどん大きくなるわけじゃないですか。金融資産も売れるでしょうし、商品も保険も売れるでしょうし、どんどん巻き込んでいくと、スーパーエリートビジネスアライアンスみたいなのができてくる。

18_発表する光村氏と八子氏の様子_Picture of Mr.Komura and Mr.Yako at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg

井上:オフィスという、今まであんまり見えなかったところのデータだから価値があると。

光村:そういう人たちを集めて来て、例えば「BASE Q」で「トップランチ難民たちによる新しい町の作り方」みたいな会議をするとか。

八子:正に一番とんがっている人たちの課題を吸収できる良い場になって、そこに参加した人がまたお金払ってきますので、どんどんお金の連鎖が生まれてくるわけですよね。

ニーズの見える化のためには、顧客目線と広い視野が必要

―やはり、色々な方が「お客さんが見えない」と言うんですよね。今年いくら売れましたというデータはあっても、個別には全然分からない。どれだけお客さんを見える化するのか、大きい課題になりそうですね。

光村:そうなった時に、考えなければならないことがあるとすると......。もう、一つスマートホームというテーマがあった時に、さっさと「日本のIoTホームはこれだ」という基準を、全主要メーカー集まって作れば良いと思っていて。次元は街全体だよと。

八子:30年前からずっと何も変わっていないですよね。スマートホームって言われていますが、全然スマートじゃないし。結局家の中だけで完結するものって、全然スマートじゃないんですよね。ホームだけ考えていても意味がなくて、街と繋がる、サービスと繋がる形にしないと意味がない。

19_発表する光村氏と八子氏の様子_Picture of Mr.Komura and Mr.Yako at Cross Value Innovation Forum 2018.jpg

―スマートホームの話って、どうしてもサプライヤー視点ですよね。

八子:そんなに困っていないことに対して+αのコストをどれぐらい払うのかと言うと、払わないですよ。「プラス200万でこんなに良いことがある」と言われても、「良いことかもしれないけど、全然困ってない」っていう。結局個人の生活において何がハッピーなのかというところを提言できていない。メーカー側からの発想、視点でしか見ていないので。これは別にスマートホームだけではなくて。最近になってようやく街で提供されている様々なサービスが、例えばスマートスピーカーのようなもので発注できて家の中へ取り入れられるようになってきましたけど。そういう形で、家と街とをもっと繋げていかないと、そもそも家の中だけで完結する話ではないと思っています。

お客さんと一緒にアクションを起こす、サイレントマジョリティを可視化する

井上:発想を変えて全然違う人を巻き込もうという時によくある大企業病、「許可していないものをなぜ公表するのだ」と言う人たちに対して、社内を説得する良い切り口、キーワードってあるのでしょうか。

光村:役員とか経営者にとっての危機感は、どこまでも抽象的なレベルで認識されているだけで、具体化されていないんです。具体化されるとは結局何かと言うと、現に体験すること。使うことでしか具体化されないなと思っていて。「どれぐらい皆さん使っていて、ジャッジしているんですか?」というのが、一つ鍵になると思っています。

井上:その人が体験しない限り、ということですよね。

光村:そう、あと、やはりお客さんの声が一番だと思っていて。お客さんが求めていることに対して、否定できるトップなんていないと思います。だから先にお客さんを作ってしまうか。先にプロトタイプを作って、売れるかどうか、お金をいただくかどうかは置いておいて、使ってもらって「これ欲しいですね」と言わせてしまう。これからはお客さんにも、「一緒にサービスを作っているんだ」という感覚を持ってもらわないと、もっと距離感が近くならないと、良いものはできないと思うんですよね。

八子:オフィスの中のサービスももちろんそうですし、例えば地方創生もそう。それぞれの所で本当に困っている人たちが、確かに「こういうことで困っている」という風にオピニオン形成をしていかないといけないんですよね。「困っているんだよね?」「うん、困っているけど、日々の生活あるし......」といった風に全然無関心になってしまうと、いつまでたっても解決されない。本当に困っていて、何とかしたい。けれど、アイディアがない。それに対して、助けてくれる人たち呼んできて、その人たちと一緒にアクションを起こす。これがやっぱり、解決の一歩としては大切なんじゃないかと思っています。

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光村:地方創生が問われる最大の阻害要因って、ノイジーマイノリティの声が大きすぎて、歪められるという問題があるじゃないですか。地方によってはサイレントマジョリティすら無視されるという状況がある中で、サイレントマジョリティの声を可視化すること。それによって健全なる意思決定プロセスを取り戻すというところにも、IoTやネットワークの力が働くところだと思います。そうでなければきついですよね。地方に限らず、ノイジーマイノリティが幅を聞かせている組織を民主化するためには、データで勝つしかないと。

これからのデータ、ツール、ソフトの使い方とは

―では、最後に一言ずつお願いします。

井上:大企業は自分たちでデータを囲みたいからと、自分たちの製品にしか付けられないIoTデバイスを作りがちなのですが、そんなことをしてもデータは集まらないですし、何の価値もないデータしか取れないので。私が行っているような後付けというのを切り口に、色々な企業とコラボしていければ良いなと、今日改めて思いました。

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光村:私はIoTにしろテクノロジー全般にしろ、ツールにすぎないと思っていて。志なき者がツールだけ手に入れても何もできないですし、むしろ邪悪なことしか起きない。やはり何か志があって、それを実現するためにツールがある。そういう順番で見た時に、都市にしてもソフトにしても、どうありたいのかという理想論を青臭くも真正面から取り組み、それを持っている人をサポートするためにツールを使っていくという正の循環を、都市においても作り出していきたいと思っています。

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八子:一つ言える観点としては、ソフトを、ソフトウエアだけではなくサービスも含めたソフトと考えた時に、箱だけで解決できない。箱だけでできないところを、どうやって人やIoTの力や手段を使って解決していくのか。世の中って、物事の境目にしか課題が存在しないんですね。なので、その課題に着目した時に、それをどうやって繋いでいくのか。オフィスの中と外であるとか、個人とビジネスであるとか。とにかく境目に着目していますと。だから、スマートタウンとスマートホームもスマートシティも全部そうですけど、境目に注目して解決していきたいと思います。

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