Sep 7, 2018

移動する部屋に住むという新しい価値観

Game Changer Catapult

移動する部屋に住むという新しい価値観

東京の下町でモバイルハウス事業を展開しているsampo.inc。お金や場所にとらわれないライフスタイルを提案し、幅広い業界から注目されています。指揮しているのは村上大陸氏と塩浦 一彗氏。ともに20代で様々な経験を持ち、ミレニアル世代ならではの感性が光る異才です。マテリアルよりも体験がニーズを生み出すと言われている今、様々な出会いと驚きが得られる移動型住居は、世界にどういった流れを生み出すのか。若き2人とGame Changer Catapultで未来について考えました。

動く住居を使った未来のライフスタイル

鈴木:最初にsampoは何をしている会社なのか紹介してもらえますか?

2_GCC鈴木の写真_Picture of Suzuki from GCC.jpgGame Changer Catapult プランニングリード 鈴木講介

村上:僕たちはモバイルハウスという動く住居を使った、未来のライフスタイルを提案しています。

3_sampo村上氏塩浦氏の写真_Picture of Mr.Murakami and Mr.Shioura from sampo.jpg左;sampo.inc CHIEF EXECIVE OFFICER, CO-FOUNDER 村上大陸/ 右:sampo.inc Chief Architecture Officer、Co-founder 塩浦一彗

塩浦:設立は2016年の11月になります。

鈴木:モバイルハウス、動く家のコンセプトは世の中に少しずつ出てきている気がします。その中で、sampoのユニークな点はどこですか?

村上:僕たちが提案しているモバイルハウスは、あくまで部屋の感覚なんです。個室だからキッチンやトイレなどは付いていません。インフラの部分は切り離し、不動産の方に任せます。いろんなタイプの不動産と、持ち運べる個室がドッキングして、家として完成するイメージです。

4_モバイルセルの写真_Picture of Mobile Cell side.jpg5_モバイルセルの写真_Picture of Mobile Cell front.jpg6_モバイルセルの写真_Picture of Mobile Cell side.jpg7_モバイルセルの写真_Picture of Mobile Cell back.jpg

塩浦:部屋持ち寄り型シェアハウスといったイメージで、それを多拠点に持てるわけです。その軸となる不動産を僕たちは、「HOC(House Core:ハウスコア)」と呼んでいて、動く機構の部屋の部分を僕たちは「MOC(Mobile Cell:モバイルセル)」と呼んでます。

村上: MOC(モバイセル)とHOC(ハウスコア)の1対で、家として機能するような感じですね。

8_sampo村上氏塩浦氏の写真_Picture of Mr.Murakami and Mr.Shioura from sampo.jpg

1950年代に生まれたメタボリズムが今こそ効果的

鈴木:私たちパナソニックは、主に家電の仕事をしていますが、大きな前提条件として"住居は不動"という考えがあります。それが当たり前、バイアスになっているんですけど、まさにそれを壊すようなアクションですよね。すごく面白いと思っていて、どんなきっかけから始めたのだろうと。

村上:僕はかつて、VR(バーチャルリアリティ)のエンジニアでした。VRって「リアル」を「バーチャル」の世界で再現しようとしているものですよね?そしたら、バーチャルとリアルの違いがわからなかったら、本当のVRというものは創れないんじゃないかと。なので、身の回りにあって1番リアルなものを探したんです。その結果がモバイルハウス。大工の村で育った僕には、すでに家を作る技術がありました。そこに旅の要素を加えると、様々な出会いやイレギュラーな事件が発生して、まったく予測のつかないものになるでしょう。それが、「リアル」だと思ったんです。作りたての1号機で旅しながら、東京オリンピックのVRロボットを開発していたある時、長野県の川のそばに停まってて。たまたまそこにいたときに、友人のエンジニアがunityで作成した、"きれいな川の流れ"をのVRを送ってきたんですよ。とても良くできてて。でも、その後モバイルハウスから出てみたら、目の前にある現実の川があるじゃないですか。リアル感が圧倒的に違うんですよね。現実の川の景色は、滝や木漏れ日、湿気など、もっとパラメータが多くて、ディスプレイの前でバーを動かしているだけでは作れるわけがない......。それがバーチャルリアリティの限界を知り、モバイルハウス一本に転換したきっかけです。その後、一彗(塩浦)に出会いました。

塩浦:僕はバックグラウンドが建築なんです。親が建築家、デザイナーで、小さい頃に「ここは一坪100万円なのよ」とか言われて育ってきたくらい。でも、住みたいだけなのに、どうしてそんなにお金がかかるの? 必要ないよねという気持ちがあって。普通の家賃は土地と箱がセットですが、僕たちのサービスでは、箱は箱で土地は土地。土地代は、その時々で支払うタイミングを選択できる。実はこの形は、僕が昔から1番理にかなっていると思っていた形態です。どうして建築に携わるプロたちがそういうことに口を出さず、お金持ちのためだけの公共施設ばかり作るのか、個別の建築物に限らず、都市計画レベルでもそうなんですよね。もともと日本だと1950年代からメタボリズムという、銀座にある中銀カプセルホテルのような、カプセルやユニットを移動させるアイデアがあって。その発想は今でも通用する、むしろ現代でこそより効果的だと考えています。

9_議論の様子の写真_Picture of discussion.jpg

鈴木:なるほど。私たちは家という暮らしの空間を、エアコンやテレビ、冷蔵庫といった家電によって、誰にとっても「便利」で「機能的」なものにしようと努力してきました。しかし、本当にそれだけが正解なのか疑問で。例えば、村上さんがおっしゃっているリアル。個人仕様に特化しカスタマイズされた、それぞれにとってのリアルな住まいという考えが必要かも知れませんね。sampoのモバイルハウスを拝見すると、オリジナリティが色濃く感じられます。1人1人が自分の空間を、目的や嗜好によって作り上げる。そのあたりは意識してらっしゃいますか?

村上:意識せずできるのが僕たちのMOCかなと。自分の身体スケールで作れて、気張る必要はないです。空間が制限されているから、本当に好きなものしか入れられない。だから自然とその人が現れます。、家というより服に近い存在かな。ウェアラブルな家と言いますか、ただ生きているだけで、個性が出てくるんです。

動く家だから得られる都市全体に住む感覚

鈴木:服のように個性が反映され、自身と一緒に移動する住居。動くことでリアルな体験や出会い、様々な面白さが生まれますね。

村上:今までは大きく素敵な家を求める価値観が主流でした。ところが、僕たちの家は小さい空間で、なおかつ動くから、都市全体で住むみたいな感覚に自然となっていきます。以前、19歳の学生を連れて京都に出張したことがあるんですけど、オフォスの最寄り駅に帰ってきたら、学生の彼が「もう家に着いたね。靴脱ごう」って言いだすんですよね。

10_sampo村上氏塩浦氏の写真_Picture of Mr.Murakami and Mr.Shioura from sampo.jpg

塩浦:自分の住む町に帰ってきただけで、もう家の玄関についた感覚なんですよ。駅から続く路地が廊下で、脇道に入れば銭湯やレストランもある。先にご飯にする? それともお風呂? みたいな感じで、街全体を自分の家として自然に解釈しちゃってたんですよね。その感覚は僕たちにとっては当たり前ですが、モバイルハウスを少し利用しただけの子でも得られるというのが興味深かったです。

鈴木:家だけじゃなく、例えば冷蔵庫は一家に1台が鉄則になっていますが、本当にマストなのでしょうか? 街に2〜3台あって共有する形でも良いのでは? もっと言うと、炊飯器なんて別に四六時中使う家電ではありませんよね。パナソニック的には正しい考えではないかも知れませんけど(笑)。

横田:この文脈だと、冷蔵庫はコンビニやスーパーになるんじゃないですか?

11_GCC横田の写真_Picture of Yokota from GCC.jpgGame Changer Catapult UXデザインディレクター 横田雅美 (左)

一同:うんうん。

村上:すでにハウスコアがあるので、シェアハウス風の居住意識になりますね。みんなで色々と共有。普通に考えたらそうですよ。

鈴木:例えば料理。自分の知らないレシピや調理方法で誰かが作ってくれて、こんなに美味しい食べ方があるんだ! と体験できることは、とても価値があると思います。チンすればいつでも素早くいつもと同じ味が楽しめます、というだけじゃなく、新たな出会いみたいな生活の体験は、便利か否かの価値観を超えて重要かと。私たち家電メーカーも、そういった体験が得られるようなアクションの必要性を感じているなか、今おっしゃった世界観はすごく近いと思えます。街全体を家と捉えたら、シェアリング冷蔵庫とかシェアリング炊飯器だって、全く違和感ありませんね。

12_モバイルセルの写真_Picture of Mobile Cell.jpg

村上:実際、世の中はそうなりつつありますよ。

モバイルハウスが人生100年時代をどう変えるのか

鈴木:独身時代や結婚、子育て、定年後とか、状況に応じて、このサイズの家に住み、こういう家電使って、こんなファッションをする。みたいな、モデルケース的不文律が今までは有ったと思います。これを変える可能性が、sampoの提唱する世界観にはあると思います。現に人生100年時代と言われるようになり、従来のライフプランを見直す時期です。モバイルハウスによって、今の私たちの生活は大きく変わるのでしょうか?

13_sampo村上氏塩浦氏の写真_Picture of Mr.Murakami and Mr.Shioura from sampo.jpg

村上:どうなんですかね。今のように不動産に住んでいたって、日々入ってくる情報量が多くて、脳みそパンクしそうなのに、動いちゃったときにはもっと大変かも。扉開けたら違う土地だし、知らない人いるし。仮に僕たち世代の育てた子供がモバイルハウスに住み始めたとします。そこでようやくモバイルネイティブ、ジプシーネイティブが登場しますよね。僕たちが当然のように持っている、「この曲がり角懐かしい」、「あのお店まだあった」とかいう故郷が、彼らにはない。だから、想像もつかないことにフォーカスしかねませんよ。音や匂いなんかが懐かしいと思うかも。もう人間の種として違いすぎます。

塩浦:すでに日本はいろんなフェーズを経てきています。ですから、世代によって特徴がありますよね。僕たちみたいな成長や発展をあまり見ない連中は、半分禅みたいな価値観を持っていたり。ところが大人になるにつれ、自分なりの楽しみや刺激を見つけて、オリジナリティある遊び方するパターンが多い気がします。それを見ている子供たちが次の世代。だから全然イメージできませんし、逆にワクワクもします。

横田:自分たちが動いて景色を変え、そして再び移動して戻って来たとき、前とは異なる風景だった。それで故郷がなくて悲しくなったら、VRにより昔の景色を再現するのはどうでしょう。

14_議論の様子の写真_Picture of discussion.jpg

村上:いやぁそれは無理なんですよ。

塩浦:ダメですね。否定せざるをえないです。だって、リアルじゃないですから。音とか匂いと言ったのは、あくまで自分の五感で得た情報のほうが記憶と深く結びつくと思うからです。

横田:なるほど、今、いわゆる「コンテンツ」といわれているものはほとんど全て「過去のアーカイブ」だけど、そういうものがもはや鑑賞対象にはならなくなるのかもしれませんね。今後のコンテンツというのは、その時その時に感じた「音」とか、「香り」とか、個人の五感をトリガーに、リアルタイムで創り出されていく様々な「リアル」なのかもしれない。そのためにもライブ感とか、スピード感が必要とされてくるのかもしれませんね。

うまく遊べる人間が生き残る

鈴木:その五感とか人間のセンサーみたいなものが、我々の体験にとってもっと大事になる気がします。だからこそ、GCカタパルトの中にも、パーソナライズされた香りの体験を提供するプロジェクトが進行中です。既存の見る聞くに関したテクノロジーは当たり前で、食感に味覚、香りや触れるといった領域も、豊かな体験をサポートするうえで欠かせません。そういう分野を私たちが発展させ、モバイルハウスのように様々な場所でダイレクトに体感し、経験を積めるアクションと、2030〜40年くらいにうまく交差できれば、新しい世界が見えるでしょうね。

15_sampo村上氏塩浦氏の写真_Picture of Mr.Murakami and Mr.Shioura from sampo.jpg

村上:結局モバイルハウスは小さいため、匂いや音などの要素が、普通の不動産より人間に対して近いんです。そこをおろそかにしちゃうと、一般的な住居でどでかいダサい棚を設置したくらいのインパクトが。僕は色々試して、モバイルハウスにおける最高のインテリアは音だという結論にいたりました。俺は音派、私は触覚派と、人によって違ってくるでしょうけど、感覚的な部分を仕上げてインテリアはフィニッシュになると思いますね。

塩浦:音や匂いの有無で全然違いますからね。照明でも良いと思いますけど。

横田:その時の音とか匂いは自分を表現するためのツールでしょうか?

村上:いや、なんでも良いんです。個性、というのもあるでしょうし、日々の調子だったり。今日はこういうムードで! みたいなのがあるじゃないですか。

横田:その時の気分?

村上:そうです。なんなら高性能スピーカーが常にベストかというと、そうではなくて。今日はアナログ風のシャカシャカが良いとか、100均で買ったイヤホンをマックスにしてノイズ混ぜるとか。その都度その都度、どれが最高のフィニッシュになるか選ぶんです。特に人を招いている時はこだわります。

16_議論の様子の写真_Picture of discussion.jpg

鈴木:そういうのは遊んでいる感覚ですね。

村上、塩浦:そうそう!

鈴木:遊び方が上手なことも、今後大事になってくると思います。モバイルハウスはいろんな体験を直接できますから、遊び方がうまくなるでしょうね。その点はやっぱり意識を?

塩浦:意識もあると言えばあります。超極論でざっくり言いますけど、生きているってそういうことじゃないですか。楽しくなかったら意味ないという気持ちは、すごく俯瞰した意味で全体的にあって。だから僕らの中では趣味と仕事を区別しないし、ほぼ一緒です。仕事はつまらないとか、休みの日が楽しい! というのはありえません。常にいかに楽しくするかは考えていますが。

17_モバイルセルの天井の写真_Picture of Mobile Cell.jpg

村上:うまく遊べるやつが生き残ると思うので。世の中、自動車の発明によって本当に豊かになったかと言うとそうではなく、移動時間が縮まったのにメチャクチャ忙しいじゃないですか。多分遊びたいがために作ったのに、さらに追われているみたいな。

塩浦:AIが誕生したからって、もう働かなくて良いです、とはならないわけですよ。これまでテクノロジーを生み出してきた人たちはそのつもりだったのかも知れませんが、結果は効率的になったというか、早くなっただけ。ライン自体は変わっていません。もう利便性とかテクノロジーではなく、価値観やアクションの問題。どっちが良いか選択するだけじゃないですか? だから、AIなんてあまり普及してないでしょう。働き方云々とか言っているのも一緒だと思いますよ。

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Special Thanks: sampo.inc

プロフィール-----------------------

村上大陸

sampo.inc CHIEF EXECIVE OFFICER, CO-FOUNDER

1996年生まれ。大学を休学したのち、東京で日本酒やスニーカー、VRなど、複数の事業を行う。VRの会社経営時は、軽トラの上に作ったモバイルハウスが自宅兼オフィスであった。モバイルハウス生活を送るなかで、VRのVが不要なことに気付き、モバイルハウス事業へ転換した。

塩浦一彗

sampo.inc Chief Architecture Officer、Co-founder

1993年生まれ。ミラノの高校を卒業後、ロンドンに渡りUCL,Bartlettにて建築を学んだ。2016年に帰国し、建築新人戦2016最優秀新人賞を獲得。建築事務所で様々なプロジェクトに携わるが、家賃を払わなくていい家を体現するために、SAMPOを村上と立ち上げる。

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