Jul 15, 2022

起業のプロが語る極意。「イノベーションを会社の文化に」

Game Changer Catapult

起業のプロが語る極意。「イノベーションを会社の文化に」

Written by Game Changer Catapult 事務局

新たな価値を生み出すために活動する人たちを、さまざまな形でサポートするパナソニックのGame Changer Catapult(以下、GCカタパルト)。

今回は「イノベーションを起こす意義と実現させるステップ」と題し、株式会社ユニコーンファームCEOの田所雅之氏より講演頂きました。


ゲスト講師:田所 雅之(たどころ まさゆき)

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スタートアップ経営や大企業のイノベーションを支援する株式会社ユニコーンファームのCEOを務める。日本とシリコンバレーで起業した経験を持ち、著書「起業の科学 スタートアップサイエンス」は大手ネット通販サイトの経営管理部門で売り上げランキング115週連続1位を記録。

ユーザーが本当に欲しいものを見つける、という姿勢がイノベーションを生む

最初に田所さんは、これまでのおさらいとしてイノベーションの型は「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の2種類があると伝えました。顕在化している市場に対して、より良いものを提供することがフォーカスされる「持続的イノベーション」は非常に大事なものであるが、これを追い求めてしまうと過剰な機能を持つプロダクトが生まれ、顧客が求めるニーズからかけ離れてしまうジレンマがあると話し、そこから脱却し市場を発展させた事例として、パナソニック社の電動歯ブラシを挙げました。

2000年代の電動歯ブラシの市場は低迷しており、その原因は抗菌など機能の高さを打ち出した製品を開発してユーザーのニーズを超越してしまったことにありました。しかし、2010年代に「ポケットDoltz」シリーズが登場すると一気に市場が成長。

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田所さんは「この事例のすごいところは、ユーザーが本当に欲しいと思うものを深く洞察して本質を見つけたところにある」と解説。「若い女性はランチ後に化粧室で歯磨きをするが、電動歯ブラシは使わないことが分かった。理由を探ると『歯をきれいにしたいけど電動歯ブラシは音が大きすぎるから、おじさんくさくて恥ずかしい』という本音があるということが分かり、さらに深堀りすると『化粧室は社交場であり、使うものはおしゃれじゃないとダメ』というインサイトを発見した。チームはこのインサイトを捉えた化粧ポーチに入るサイズの『ポケットDoltz』を開発。若い女性を中心に支持され、市場を席捲する『破壊的イノベーション』が起こった」と紹介しました。

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GCカタパルトでも、課題にフォーカスすることが大事だと言われているが、課題の表面だけを見ても、ユーザーが本当に欲しいものに気づかない場合がある。ユーザーに寄り添い、共感して本質を見抜くことが大事であり、深堀りして浮かび上がった課題に対して適切なソリューションを提案することが新たな市場を作るのではないか」と伝えました。

幸せの価値観は、最大多数から最大多様に変化している

続いて、田所さんはオープンイノベーションの重要性について解説。これまでの時代は自社の研究や技術のみで画期的なプロダクトやビジネスモデルを開発するクローズドイノベーションが主流であったが、企業が大学や研究機関、スタートアップなど外部から新たな技術やアイデアを募集してビジネスモデルを開発するオープンイノベーションが必要になってきていると話しました。

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さらに、ここ50年で産業構造が大きく変わったことに言及し「1960年代~1990年代は供給サイドが主流で、作ったら売れるという風潮があった。そのため企業は供給システムをいかに最適化するかということを重視していた。その後1990年代~2010年代になると、インターネットの登場によって価値が多様化する情報化の時代に。企画や開発、サービスの部分が重視されるようになった。2010年代~2025年はDX/アフターデジタルの時代と呼ばれ、買った後のサービスやユーザーに継続して購入してもらえるかどうかが大事だと言われるように。そして2025年以降は、一人ひとりに共感されることに価値があるインパクト/パーパスの時代と言われている。購入動機に自己実現や感情欲求が入っているかどうか、それがサステナブルであるかが大きな特長。これまでの価値観は『最大多数の最大幸福』だったが2025年以降は『最大多様の最大幸福』に変わり、これが大きな違いだと考えている」と、説明しました。

産業構造が変わるなか、どのようにイノベーションを起こすべきかという問いに対して、田所さんは「まずは、組織として目指すロードマップを明確にすること」と言及。「少し先の未来に対して組織をどのように最適化させるかを考え、それを実行した後に組織を整える、そのうえで自社の未来志向をベースに、組織としてあるべき姿を明確にすることが重要である」と話しました。そのために、まずは自分たちができることとやりたいことを整理してからイノベーションの土壌を耕すことが必要であるとし、「GCカタパルトは社内ビジネスコンテストという立ち位置かもしれないが、土壌があるからこそ多くの方々が0→1を経験できる。企業内で一から事業を立ち上げることの難しさを体感できる土壌があることは、非常に意味がある」と伝えました。

組織構造をアップデートし、イノベーションを会社の文化に

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組織のアップデートについて、田所さんはまず先進的な組織と古い組織の体制の違いを理解することが必要だと話し、「古い組織は蛸壺のようなタテ型体制になっており、事業の損益計算書が絶対的な指標である。そのため、失敗やリスクを嫌うマネージャーが事業を統括するというマインドセットになり、新規事業に対してもリスクばかり指摘するということが起きてしまう。一方で先進的な組織はコアビジネスを担う層、新規事業を担う層、イノベーションを担う層の三階建ての体制となっている。ここで大事なのは長期志向と短期志向のバランスを上手く取ること。そのためには、層ごとにKPIを別で設定することが必要である」と解説。

例としてTOYOTATeslaのプロダクトの推移を挙げ、「TOYOTATesla1階にあたるコアビジネス、稼ぎ頭としての事業があるから、2階の新規事業や3階のイノベーションといった上の階層に投資することができる。新規事業部門では市場シェアと利益率が密に関わるので、市場をより多く獲得すること、イノベーション部門では何がユーザーにとって最適なのか探索することがミッションである。1階は儲けること、2階は勝つこと、3階は市場を発見することが大事だとすると、目標設定や人事評価、適正人材を各階で変えることが必要。違う階なのに同じ制度を設定してしまうと、部署間でハレーションが起きてしまう。経営陣としてはコアビジネスとイノベーションのバランスを上手く取りつつ、すべての部門は同じ建物の中にあるので『企業としてのビジョン』は同じ方向を向いていることが重要だ」と解説しました。

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さらに、三階建ての組織を実現し成功した事例として、田所さんはマイクロソフトとSONY2つの企業を挙げました。「元々は先述の古い組織体制で、経営面でも何年も低迷が続いていた。そこからマイクロソフトは戦略やカルチャー、メンタルモデルを刷新し、いかに製品を売るかという思考から、製品でどれだけユーザーに感動や価値を提供できるかという思考に変えることで躍進した。SONYの場合も新規創造のビジョンを立ち上げ、新規事業に100%専念する体制にシフトし、社員なら誰でも新規事業を起案できる仕組みを整えた。一方でCMOSや半導体などのコアビジネスの深化も進めることで、組織のアップデートに成功した。コアビジネスの部分だけを見ると、どうしても財務リターンを重視してしまうが、イノベーションでは個人の理想やどのような未来を描くかが重視される。経営陣はそこの視座を持てるかどうかが大事になると思う。そして、最終的にはイノベーションを会社の文化にするということ。3階のイノベーションの部分を統括しながら、1階、2階部分のコアビジネスや新規事業の部分と連携してアップデートできるかが、今後非常に重要である」と伝えました。

今回は田所さんに、イノベーション実現のためのステップを他企業の新規企業創出事例を挙げながらご講演いただきました。良質なビジネスアイデアはユーザーが持つ課題を深堀りする必要があることや、組織をアップデートし、イノベーションを会社の文化に根付かせる体制の必要性など、社員はもちろん、経営陣にとっても気づきを得る有意義な時間になりました。GCカタパルトでは、今後もパナソニック社員向けにイベントの開催を予定。さまざまな形でゲームチェンジャーたちの挑戦をサポートします。

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