Jan 18, 2022

ビジネスコンテスト3期生の現在。事業化に向け走り続けた一年間を振り返る

Game Changer Catapult

ビジネスコンテスト3期生の現在。事業化に向け走り続けた一年間を振り返る

Written by DECARTE リーダー 大塚 泰雄

こんにちは。口腔ケアをサポートする新規事業テーマ「DECARTE(デカルト)」のリーダーの大塚です。パナソニックの新規事業創出活動 Game Changer Catapult(以下、GCカタパルト)のビジネスコンテストに3期生としてこのテーマを立案、応募して、その後、くらしアプライアンス社の先行開発テーマに選ばれたことで、事業化に向け大きな一歩を踏み出し、プロジェクトを取り巻く環境も変わりました。一方、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発出され、思うように進まないこともありました。

しかし、そのような逆境があっても、できることから始めることで、新しい成果と課題も見えてきています。今回は、そんな一年間の取り組みを振り返りながらお話しします。


▼これまでの取り組みはこちら
DECARTE(デカルト)が導く歯の健康チェック習慣:カタパリスト達の現在地〈ビジネスコンテスト 3・4期生編〉Vol.1

産学連携の取り組みやWeb上での大規模調査。先行開発テーマにも選ばれ大きく前進

1_Picture_of_DECARTE_21.png

私はもともと、デジタル一眼カメラの開発を行う部署で開発プロジェクトのリーダーをしていました。AI画像認識などのイメージング技術を用いて、自分で撮影した口腔内の画像から自分のお口の健康状態をチェックするDECARTEのコンセプトは、LUMIXで培ったカメラの高い技術力を従来の写真の領域だけに留まらせることなく他の分野にも応用したいという想いからスタートしています。ビジネスコンテストの書類選考を通過した後は、顧客が自分で口腔内を撮影し、その画像から磨き残しや虫歯や歯周病などのリスクを見える化して顧客に把握させるDECARTEのコンセプトを具現化するため、社内外の力を借りながらプロジェクトを進めてきました。
そんな中、「心と体の健やかさ」をスローガンに掲げるくらしアプライアンス社でDECARTEのコンセプトが技術本部の先行開発テーマに選出されました。私も技術本部へと移籍し、現在はその開発が専任業務となっています。
デジタル一眼カメラの開発プロジェクトリーダーと掛け持ちしているときのDECARTEの活動は、有志のメンバーによる、いわゆる "課外活動" に留まっていました。しかし、技術本部での正式なテーマとなってからは、組織的に取り組めるようになり、使える予算も工数も増えて、新しい専任メンバーにも参画して頂き、プロジェクトが大きく前進したと感じました。

DECARTEは、AIを用いた画像認識などによって「口の中の汚れやリスクを見える化」するシステムですが、お口の中の健康状態をしっかりと認識するにはやはり専門家である歯科医師のプロの知見や歯学的裏付けが必要です。そこで、歯学部付属病院を持つ某大学の歯学研究科と共同研究契約を結び、AI画像認識用の口腔内画像のデータ収集とその正解値付けや検証を始めました。AI画像認識は、DECARTEを進める上での肝であり、且つ、最も難易度が高い技術要素のひとつです。新型コロナウイルスの影響で、患者の来院数が減少し、加えて歯科医院内の衛生管理も大変な中、新規のデータを集めることは容易ではありませんが、関係者の協力を得ながら地道に進めております。
加えて、口腔カメラ本体の検証も進めております。新型コロナウイルスの影響で、試作協業先との打合せも、現物を前にして Face to Face で行うことが難しくなり、さらに新たな連携先とは一からの関係構築をオンラインで進めなければならないため、意図や言葉のニュアンスを伝えるのが難しくコミュニケーションの面でやや苦労しましたが、そのような中でも、試作機はマイナーチェンジを重ね、現在は3代目の試作機に幾つかの改造を施しながら、歯科関係者に使っていただき、改善点の抽出や、量産に向けた仕様検討を進めています。「自分たちの力だけで進めよう」と凝り固まることなく、部署外や社外の協力も取り付けることは、大きな推進力になると思っています。
上記のような技術的アプローチに並行して、DECARTEの需要性を確かめるため、Web上で大規模な調査も実施しました。

大規模なWeb調査で見えてきた課題。口腔内ケアの重要性を広めるために

2_Picture_of_DECARTE_21.png

DECARTEの市場受容性や想定顧客の口腔ケア意識を調べるために、Web上で大規模な調査を実施しました。質問内容は、口腔ケアに関して困っていることや、お口のためにどのくらいのお金をかけているか、DECARTEに対しての印象など多岐にわたります。
調査の結果を見ながら、特に気になった方を選び、デプスインタビューも実施しました。顧客層として事前に想定した幾つかの対象群の中から、DECARTEの使用意向がある方とない方の二通りの方を抽出し、商品のどこに魅力を感じるのか、または感じないのか、口腔内をどう変えたいのか、DECARTEの改善点と思われるところや欲しいと思わない理由などを掘り下げて尋ねました。自分で口腔内の状態をすべて管理したいという非常に意識の高い方や、インプラントに想定以上の高い金額を投資されたような、いわゆるエクストリームな方々と質疑応答させていただいたことは、机上で追いかけるだけではなかなか触れることが出来ない貴重な気づきにも繋がりました。

「人生100年時代」や「Quality of Life」のような言葉が普通に聞かれるようになりましたが、そこには単なる長生きではなく「健康寿命」が必要で、それを支えるためにはお口の健康が必要不可欠であることが分かっています。もっとも厄介な敵は、歯周病です。歯を失う理由の第一位が歯周病(約4割)と言われるだけでなく、歯周病により癌や糖尿病などの全身疾患のリスクが増大し、また歯を失うことを主因とする口腔機能の低下は食事や会話の能力を失わせて "寝たきり" に向かう老化を急速に進めます。
歯周病というと、何か年寄りの病気のような、自分にはまだ関係のない病気のように感じられる方も多いと思います。しかし、本当にそうでしょうか?
厚生労働省のデータを見ると、歯周病の罹患率は年齢とともに増加しますが、30代の時点で既に78割が歯周病にかかっており、さらに罹患者のうちの約7割は自覚症状がないというデータがあります。つまり、30代以降の約半数は、自覚症状が無い歯周病患者です。そうなると、恐らく、この記事をご覧の皆さんも、関係ないとは言い切れないと思います。
自覚症状が無いままに歯周病が進行すると、4050代で「歯茎が支えられない歯」が何本か出てきて、ぐらついた歯を抜かざるを得ない状況になります。今回の調査結果でも、そのくらいの年代から、歯の悩みや入れ歯やインプラントが同年代との話題として登場し始め、「もっと若いころからお口のケアをしておけば良かった」と後悔している実態があることがわかりました。
しかし、セルフケアで、虫歯や歯周病をきちんと予防できるかというと、なかなか難しい現状があります。多くの場合、歯を磨くと歯磨き粉で清涼感が得られるため「きちんと磨けているはずだ」と満足して、予防のための十分なケアが実際には出来ていないことに、気が付くことすらできていません。歯を磨けば良いのではなく、予防のためのきちんとした口腔ケアを行うことが健康で長生きするために重要なのだと、改めて周知させる必要があると考えています。
繰り返しになりますが、口腔ケアがきちんと出来ているか否かをチェックすることが大切です。DECARTEの有用性を認識して頂く必要があります。具体的には、DECARTEを使った群と使わなかった群とを比較し、その結果をファクトとして提示すること。その中で、客観的な事実やデータに基づいた数値を見せ、DECARTEの信ぴょう性を高めていくことが必要です。このような実証にまつわる活動も、自社だけでは実施が難しいので、社外に理解者や協力者を得て、連携しながら取り組んでいきたいと考えています。

「パナソニックならでは」の新たな価値を紡いで、お客様に届けたい、世の中を良くしたい

3_Picture_of_DECARTE_21.png 左から、デザインモック、1st PoC,3rd PoC。初期に作ったデザインモックは、オーラルケア商品のスタイルをやや踏襲しつつ握りながらカメラの向きをグリップだけで認識できるシンプルでスタイリッシュなデザインを、3rd PoCでは、機能モデルである1st PoCの形状をミニマムにしつつ口腔内に入れたときの当たり具合が滑らかになるように、また、置いたときにカメラヘッド部が机などに当接しないようなデザインを、デザイン部門の方のご協力を得てカタチにして、検証に使用しました

先行開発テーマに選ばれたことで、事業化への新たなステップを踏み出せたのはうれしかったですが、この一年を振り返ってみると、もっとできることがあったのではないかとの後悔も感じています。
本来なら今頃は、もう少し完成度の高い試作機を作り上げ、それをN増しして、ある限られたフィールドで実際にそれをお客様に使っていただく「モニター実証」のフェーズまで進めたかったところですが、先述したような新型コロナウイルスの影響に加え、予算にも限りがあり、ここは思うようにいきませんでした。
現状、AIを用いた画像認識と、カメラハードの開発、お客様にお使いいただくためユーザインターフェースの検討が、並行して走っていますが、最終的にはすべてを連動させなければならず、そのためにも試作機の開発を加速せねばと考えております。

DECARTEの開発には、単なる口腔カメラやイメージング技術だけではなく、口腔ケアの知見や技術やノウハウ、刺さる顧客層の探索とそこにどのような価値をどんなカタチでどこと組んで提供するかのビジネス開発、顧客へアプローチするための顧客接点開拓や価値訴求の戦略など、さまざまな幅広い分野の技術や知識が必要です。DECARTEは、デジタルカメラ「LUMIX」とオーラルケア「Doltz」で培った技術やノウハウを相乗効果を持たせながら活かせる、事業領域の広いパナソニックだからこそできる新規事業であると考えています。残念ながら、プロジェクトを進めていると、社内でネガティブな意見を聞く機会も間々あります。しかし、歯科関係者をはじめ、社外の方々と話をしていると、DECARTEに対して非常に好意的な意見を寄せて協力までしてくださる方が実は会社の外に多くいらっしゃることに気づかされます。社内に味方が多くいても社外や市場で理解が得られないケースを考えれば、DECARTEはその逆なので、社内で強い向かい風に遭ったとしても過度に応じなくて良いのかな、と前向きな姿勢にも繋げています。また、難しい課題があっても「ぜひ一緒に検討しましょう」と言ってくださる方がその都度出てきてくださったりするので、そのような社内外の方を上手に巻き込みながら、イメージング技術とオーラルケア技術の高度な融合による新たな価値創出、DECARTEを通じたクロスバリューイノベーションの実現を目指していきたいと思います。

新しいことに挑戦できる。新規事業に携わる意義

4_Picture_of_DECARTE_21.png京都デザインセンターで、これからのオーラルケアについて、インフォバーンの井登さんと検討しているところ

思うように進捗していない部分もありますが、感覚的には事業化までの道のりの半分くらいまで来たのではないかと思っています。DECARTEが本当に事業化できるのかどうか、ここからが本当の正念場だと思います。時節柄としては、コロナ禍で外出や密を出来るだけ避けたいという思いから、歯医者へ行かなくても自宅できちんと口腔ケアをしたいという需要は高まっていると感じています。まだまだ課題はありますが、DECARTEの可能性を信じ、これからも取り組み続けます。

新規事業の立ち上げは、技術的な問題や、予算、想定外のステークホルダの出現、社内外のさまざまな意見もあり、決して楽な道ではありません。正直、動揺してコーヒーをこぼしたり、何度か心が折れかけたこともあります。しかし、逆風や批判を真に受けて心が折れるくらいなら気にせず割り切る図太さがむしろ大切で、そのあたりを上手にコントロールしながらモチベーションをうまく維持する必要があると思っています。新規事業の立ち上げは、視野が切り拓かれる楽しさに加え、他の組織を巻き込んで新たな領域にチャレンジする遣り甲斐など、他にはない面白味もあります。通常業務ではない分だけリスクも大きくてかなりしんどいですが、興味がある方はぜひGCカタパルトのビジネスコンテストに挑戦してみてください。

Share

  • Facebook
  • Twitter
KEEP IN TOUCH!
プロジェクトの最新情報はSNSで発信しています。ぜひフォローしてください。