Mar 6, 2018

【対談】大企業のなかで事業化を目指すからこそ、共感力を重視したい。

Game Changer Catapult

【対談】大企業のなかで事業化を目指すからこそ、共感力を重視したい。

Published by Game Changer Catapult 編集部

Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)は、既存のハードウェア開発・販売のプロセスにとらわれず、お客様に継続的に提供する「サービスとしての広がり」を持ったアイディアを育て、実際の事業化を目指しています。

今回は聞き手にi.lab マネージング・ディレクターの横田幸信氏をお招きして、Game Changer Catapult代表の深田昌則との対談を企画。深田が設立の背景やチーム・アイディアづくりの過程を振り返りながら、イノベーションプロジェクトやイノベーション教育に精通されている横田氏と共に、「これからの大企業におけるイノベーションの在り方」について語り合いました。

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(左)i.lab マネージング・ディレクター横田幸信氏
(右)Game Changer Catapult代表・深田昌則

「製造業」ではなく、「サービス業」へのチャレンジ

横田:まず始めに、Game Changer Catapultが生まれた経緯についてお伺いさせてください。このプロジェクトの設立の背景には、どんな課題意識があったのでしょうか。


深田:パナソニックは今年で創業100周年を迎えます。これも皆様の支えがあってのことですが、一方で「このままではいけない」という危機感を持っています。私たちは今、変化の激しい世の中に生きています。価値観の多様化や技術の革新に伴って、ビジネスの前提も目まぐるしく変化し続けている。激動の時代を生き残る会社であるためには、社会の変化に合わせて、我々も変わっていかなければならない。Game Changer Catapultはこうした課題意識から、『未来の「カデン」をカタチにする』ための活動として立ち上げました。


横田:「カデン」をカタカナにしている所には、どのような意図が?


深田: Game Changer Catapultで生み出そうとしているのは、従来型のハードウェアとしての「家電」のみではなくて、そこに付帯するプラットフォームやコミュニティを含めた、今までにないプロダクトとサービス全体の概念です。モノを作る「製造業」というよりも、モノとともに新しいサービスを提供する「サービス業」に近い考え方です。なので「家電」と区別し「カデン」としたんです。

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横田:これまでに発表されたプロトタイプを見てみると、その意図がよく伝わってきますね。
Game Changer Catapultのプロジェクトには「ソーシャルビジネス」的な要素を含んでいるものが多いですが、これも当初からコンセプトに含んでいたのでしょうか。

深田:実は、そこは最初から狙ったわけではないんです。Game Changer Catapultの社内事業コンテストで選ばれたプロジェクトのほとんどは、社員一人ひとりが日常で感じている不便、身近な困りごとから着想されています。それが結果的に、広く社会課題の解決や社会変革に貢献し得るアイディアに繋がっていて。昨年の「SXSW(サウスバイ・サウスウェスト)」に出展した際も、各プロジェクトの「身近な課題の解決」に寄り添ったコンセプトを、多くの方に高く評価していただけました。

横田:それは面白い流れですね。私はi.schoolのディレクターとして、これまでさまざまな学生と接してきましたが、10年ほど前と比べると、「社会課題を解決したい」という意識を持った若者が極めて増えてきているように感じます。

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深田:社内ではこれまで、課題解決型の商品の企画案は数多く出されていたと思います。けれども、その多くはどれも会議で非採用となっていた。なぜならば、それらの多くは「売れない」と判断されていたからです。

横田:それは「マスに売れない」という意味で?

深田:そうです。大企業の商品企画は往々にして「大量生産・大量消費」を前提とし、標準的な人々―「マス」をターゲットとするのが基本でした。一方で、特定の課題解決に向けた 商品だとターゲットは限定されますから、それは「マスに受けるものではない」とも言えます。切実なニーズはあるものの、大企業としては「うちが作る規模感のものではない」と判断されがちです。
けれども、それは自分たちの目の届く範囲で「売れない」と規定しているだけで、グローバルに広げれば、決してマーケットは小さくないケースもある。それは、SXSWへの出展の反響を受けて、強く実感しました。

横田:なるほど。

深田:プロトタイプでもいいからプロセスをオープンにして、「こんなアイディアから生まれたモノ、どうですか?」と広く周りに見せると、必ず何かしらの反応があります。「私も一緒に作ります」「私の研究が役に立つかもしれない」と協力者が集まるきっかけにもなる。期待する声が多ければ、商品化していく説得材料にもなりますし、こうしたオープンイノベーション的な手法は、限られたターゲットのニーズでも大企業が商品化に挑戦する価値があると主張する上で重要だと思っています。
Game Changer Catapultもどう新規事業を生み出すか、やり方はまだまだ試行錯誤です。でも私たちが行きたい方向は、大量生産販売論ではないところにある。それがGame Changer Catapultの方向性のひとつだと思っています。

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横田:深田さんはGame Changer Catapultの設計に当たって、社外への訴求と同様に、社内への影響を強く意識されているのですね。

深田:社内プロジェクトとして取り組む上で、「社内の企業文化にどのようなプラスの変化を与えられるか」という意識は常に持っています。そこで大事にしているのが、「新しい働き方」の視点です。
これまでの大企業の働き方の形は、各人がそれぞれの部署に配属されて「こういうミッションに取り組みなさい」と指示を受けるのが一般的です。加えて、社内のレガシーな価値軸の上で「良い点数」を取れる人が評価されます。しかし、こうした文化の中では、今までに前例のないプロダクトやサービスは生まれにくいと感じます。

横田:そこに変化をもたらしたいと。

深田:これからの社会を担う働き手には、受け身にならず「自分のやりたいことを『企業』というプラットフォームを利用して実現しよう」という意志を持ってほしい。そして、それを正当に評価して育てていくことが、大企業にとってのイノベーションに繋がると、私は思っています。Game Changer Catapultのプロセスや成果を社内に示すことで、社員一人ひとりが自分の個人的な意志や情熱を、日々の業務に落とし込めるようなワーク スタイルを定着させたいですね。
時代の変化に順応していくためには、過去の体験やノウハウなどを一旦忘れる「アンラーン(Unlearn)」が必要です。居心地のいい領域から離れ、既存の考え方をディスラプト(破壊)する側にならなければ、自分たちが時代にディスラプトされてしまいますから。

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未知の価値を訴求するカギは「バックストーリーの共有」

横田:ここまでの深田さんのお話の中で、私が特に可能性を感じているのは、Game Changer Catapultが「大企業のリソースを利用して、どう新しい価値を創造していくか」ということに着目している点です。

日本の製造業の強みは、不確実性の高い複雑なデバイスですら「量産化するならこうだ」と既存のアセットの中で即座に検討できる所にあると、私は考えています。そして、それを実現し得る高い技術力とブランド力、広い流通網を、大企業は持っている。

深田:そうですね。

横田:ようするに、企業体としては「0→1」を考えるようなンセプトアイディア作りより、上市させるまでの「1→100」や普及させる「100→10,000」が得意なんですよね。大企業の今後のイノベーションの在り方を考えると、いかに「0→1」を見出して、「1→100」「100→10,000→100,000」のラインに乗せていくかが重要になってくる。

先ほど深田さんも仰っていましたが、Game Changer CatapultでもSXSWでの交流をきっかけに、社外の協力者との提携の可能性が見えてきている。こうした、外部と接続によって「0→1」を加速させていく手法は、今後の大企業のイノベーションの定石のひとつになると思います。

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深田:Game Changer Catapultは外部を巻き込みながら「0→1」を生み出すアイディアの発射台だと思っています。実際「100→10,000」へのスケール化のノウハウは社内の事業部が持っている。今後、新たなアイディアをどうイグジット(事業化実現)させるのかは、新規事業に挑戦する多くの大企業の課題だと思います。

ただ、Game Changer Catapultでは「Panasonic」というブランドの利用についても、慎重に検討しています。既存のブランドを押し出せば家電としての信頼性をアピールできる反面、従来の「家電」のイメージが先行してしまって、「カデン」を出したいGame Changer Catapultの狙いとズレてしまう場合もあるかもしれません。Game Changer Catapultではハードウェアそのものより、その上に乗せる体験に共感し、価値を感じてもらいたいと思っています。

横田:「共感」というのは、こうしたイノベーションを成熟させるためのキーワードですね。未知の体験に価値を見出し、お金を払ってもらうためには、顧客とのコミュニケーションの取り方が肝要になります。そこで有効になってくるのが「バックストーリーを共有する」という手法です。Game Changer Catapultの皆さんは、これを自然と実践されているように見受けます。

深田:確かに、そうかもしれません。

横田:「私たちは、こういう社会課題を解決しようと、こんなプロセスで頑張りながら、このようなモノを作っています」というプロダクトの文脈を公開すると、「これが実現したら...」という期待感や、「ぜひ実現してほしい!」という共感が生まれます。その先にある価値というのは、今までにないものだから、いくら払えばいいのかはよく分からない。それでも、「この人たちが踏み出そうとしている一歩を応援したい」と感じてもらえるならば、それはマスに届き得る訴求力になります。

Fukata_0002_s-gcc_0238.png2017年SXSWに出展したAMP。元ホームエンターテインメント関連事業部のメンバーが中心になり、映像音響コンテンツを住空間価値として「感じる」という新たな体験を提案。


身近な共感なくして、「社会のため」は成立しない

深田:オープンイノベーションの手法自体は、10年前くらいから事例として出始めてきたものなので、現在ではそこまで珍しい話ではないのかもしれません。実際、Game Changer Catapult内では言葉としてもあまり使わないです。
Game Changer Catapultでは、単に外から技術を導入するだけではなく、顧客を含めた世の中のあらゆる人たちとアイディアを議論し創発を実践しして、事業へと昇華させていく手法を模索していきたいと考えています。最終的には「大企業だからこそ」といった視点にすら固執することなく、社会を巻き込みながら小さなサークルが自然発生して、その活動が新たな事業に成長する―そんな環境を作っていくことが、これからの目標ですね。

横田:日本に限らず、先進諸国における労働者人口は、これからどんどん減少していきます。そうなれば当然、人材の調達が困難になりますよね。「優秀な」「若者」と条件が付けば付くほど、取り合いになる。社外に開かれた魅力的なサークルやプロジェクトがあることは、今後の人材調達において大きな強みになるはずです。

深田:Game Changer Catapultがそういう存在になるよう、育てていきたいなと。社外への共感はもちろん、社内の共感も意識的に作っていかなければいけません。Game Changer Catapultのメンバーは全員、自分の本業を持ちながら、並行してGame Changer Catapultのプロジェクトもやってもらっています。そこでの本業とのバランスに関しては、メンバー自身が周囲と話し合って調整するようにもしているんですよ。

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横田:それはいい経験ですね。


深田:こうした調整って、本当に大事なんですよね。「そういうチャレンジをしてるなら、応援するよ! こっちはできるだけフォローするから」という関係づくりができないと、Game Changer Catapultのようなプロジェクトは上手く運びません。仕組みで支えることも必要ですが、周囲の共感で支えられることは、もっと不可欠な要素です。その共感を得るための話し方や、普段の行動などは、スキルとしてメンバーに身につけてもらいたいと考えています。
私自身、Game Changer Catapultを2年間やってきて、痛切に感じたことがあります。それは、「社会のために何かをやる」時に大事なのは、その行為自体ではなく、それをやる本人自身が周りからの共感をある程度集められないと意味がない、ということです。自分の最も身近な人たち、最も近しい社会である職場や友人にも理解を得ながら「社会のため」の活動をやっていく。


横田:人の共感を得るためのスキルというのは、これからの組織の中核を担う人材に、まさに求められる素養ですね。
オープンイノベーションによる社外との交流から、新しいものの捉え方や生み出し方を学ぶ。社内での共感を得るためのコミュニケーションの中では、既存事業についての理解と、周囲の信頼を深めていく――社内外で経験値と共感を積み上げた人たちが、多様化する社員を取りまとめる求心力となり、未来の大企業を背負って立つ存在になるのだろうと、私は思います。

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横田 幸信 Yukinobu Yokota / i.labマネージング・ディレクター

i.schoolディレクター。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて経営コンサルティング業務に携わる。その後、イノベーション教育の世界的先駆機関である東京大学i.schoolでは、2013年度よりディレクターとして活動全体のマネジメントを行ってきた。イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、コンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。近著に「INNOVATION PATH」(日経BP社)がある。


深田 昌則 Masanori Fukata / Game Changer Catapult代表

1989年パナソニック(松下電器産業)入社後、米国松下電器およびカナダ松下電器に赴任。帰国後、AV機器国際営業担当後、海外宣伝課長を担当、LUMIX等の全世界市場導入を実施。ハリウッド映画連携等による全世界販促を実施。その後、オリンピックプロジェクト実務責任者。IOCや各五輪組織委員会との折衝とマーケティング活動を担当。2010年よりパナソニックカナダ。2015年よりアプライアンス社海外マーケティング本部新規事業開発室長、2016年にデジタル変革時代の社内アクセラレーター「Game Changer Catapult」を創設し現職。神戸大学大学院経営学研究科卒(MBA)。

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