Jan 14, 2020

新規事業創出とは文化を変えること。ヘアアレンジの概念を打ち破るmichorの挑戦

Game Changer Catapult

新規事業創出とは文化を変えること。ヘアアレンジの概念を打ち破るmichorの挑戦

単なる製品開発ではなく、生活者へ新たな価値を提供する「未来のカデン」の創出を目指すGame Changer Catapult。事業化を進めるmichorは、ヘアアレンジの固定概念を打ち破り、どのように新しい価値を提供しようと考えてきたのか?michorチームの取り組みをご紹介します。

誰もが共感する事業アイデア「michor」とは?

毎朝のヘアセット、ヘアアレンジで誰もが一度は思ったことでしょう。自分の後ろ姿を眺めながら髪を整えることができたなら......。「michor(ミチャー)」は、そんな悩みを解決するGame Changer Catapult (以下、GCカタパルト)から生まれた事業アイデア。人の背面を映すカメラの映像を無線で飛ばし、ディスプレイ機能をもった鏡に映します。正面の鏡をのぞきながら、自分の後ろ姿もチェックすることができるのです。
(michor公式ページ:https://gccatapult.panasonic.com/ideas/michor.php

michorの事業化に向け、企画から営業まで携わり、チームを牽引する中島 有季子は当時コミュニケーションプロダクツ事業部で固定電話・FAXの商品企画を担当していました。最初は何気ない思いつきから始まったと振りかえります。

中島:「もとは同じ事業部内の若手社員が、いくつか新規プロジェクトのアイデアを出し合っていた中で、パナソニックが持つ無線技術とカメラやモニターの技術を活用できないか?と議論していたんです。ヘアアレンジに生かせるのではという意見があり、GCカタパルトのビジネスコンテンストが開催されるタイミングでもあったので、自信はあまりない中で応募したところ最終選考まで残りました」

パナソニックで「未来のカデンを形にする」ことを目指す社内アクセラレーターのGCカタパルト。主催するビジネスコンテストは、社員を対象に事業アイデアを募集し、審査通過後は、約半年間の社内起業家育成プログラム(ブートキャンプ)を通じて事業化を目指します。世界のイノベーションが集まるSXSW (*1)やSlush Tokyo(*2)の出展機会が提供されたり、メンタリングなどの支援を受けたり、といった経験を通じて事業アイデアの方向性を修正しながら事業化を目指していきます。ただ、「michor」のアイデアを応募した中島は、最終選考で残ったことに喜びつつも不安も抱えていました。

中島: 「解決できる課題も明確で、モノとして商品化できそうだとは思っていました。ですが、これをビジネスとしてどのように広げていくかというと、応募当初はまだ明確なイメージが持てていませんでした」

しかし、想定ユーザー層へのインタビュー調査を重ねることで、中島の心境に変化が起こりました。

中島: 「実際にインタビューしてみると、ヘアアレンジをしてみたい人は多いのに、納得いくヘアアレンジができていないという課題を持つ人が想定以上に多いことがわかりました。そんな中で michorのことを紹介すると、コンセプトに対して深く共感してくれて......。共感いただけたことで、想いが使命感に変わっていきました。ああ、このアイデアは絶対に事業化すべきだと」

新規事業とは何かを教えてくれる、GCカタパルトの「ユーザー起点」カルチャー

2_Slush Tokyoに出張したmichor_michor at Slush Tokyo.jpgSlush Tokyoにも出展

GCカタパルトで事業化をめざす取り組みは「michor」のメンバーにとって大きな経験となりました。

中島: 「新しく事業を起こすということがどういうものか、頭では理解はできていたつもりでした。でも実際プロジェクトを進めることで、本当はわかっていなかったんだと気づくことができましたね」

同じ事業部でホームネットワークのソフトウェア開発に従事しており(当時)、michorのソフトウェアの開発を担当した尾家 瑶子も、中島の言葉にうなずきます。

尾家:「私自身もそうでしたが、極端な話をすれば、新製品を企画することを、新規事業だと捉えている人が社内にもまだ多くいると思います」

新製品開発と新規に事業を起こすことの違いは、たとえば開発プロセスにあるといいます。

中島: 「たとえば事業部で新製品開発をする場合は、新しいアイデアを社外に公開することはご法度ですよね。一方で、GCカタパルトでは、むしろアイデアをオープンにすることが求められます。普通なら情報流出につながると懸念されます。しかし、GCカタパルトではユーザーの声をどんどん集めて、それをどのように活用して人を動かすかということを、メンタリングやブートキャンプといったプログラムを通じて叩き込まれました。

本当にユーザーの声がすべてなんだな、という価値観に自分たちも変わってきましたし、この声によって多くの人たちに私たちの想いが届いたという実感があります」

二人は、ユーザーインタビューの結果を文字情報としてまとめるのでなく、映像でプレゼンに生かすことで、「michor」へのニーズの高さをアピールしていったことも共感を得られたひとつの要因だったと振り返ります。

尾家: 「ユーザーインタビューを撮影して、ユーザーが自分の言葉で実際にしゃべっているところを見せるようにしていたので、それが共感を得やすかったのかもしれないですね」

中島: 「プレゼンテーションだけじゃなくて社内で協力者を集めるときも、その声がとても重要なんです。生の声を聴いてもらうことで、協力してくれる人が増え、できることも増えていきました。尾家さんと私、たったふたりではやれることも限られていますから。新規事業を起こしていく上では共感してくれる協力者を募ることがとても大事だとあらためて感じましたね」

共感の広がりから見つけたビジネスの可能性

3_ユーザーからのフィードバックを集めていく_Nakashima gathering user's voice.jpg試作品を試し、ユーザーの声を集めていく

「michor」のアイデアが形になってくると、二人は体験する場をつくりたいと考えました。

中島: 「 michorを知って、欲しいと思ってもらうために、どうやって michorとお客様が出会うべきか考えました。そうしたときに、体験の場があれば購買意欲が高まるだろうと、目を付けたのが美容院です。今の時代、モノはインターネットでいつでもどこでも購入できますが、髪のお手入れは美容院に行かなくてはできませんよね。さっそく美容師の方に意見を求めてみると、『美容院へ通うお客様とのコミュニケーションの質が上がるし、美容院でこそ展開すべき』と、 michorのアイデアに対するニーズが "髪 "のプロである美容院にもあることがわかったんです。 BtoBのビジネスとして成り立つ可能性を感じたのはこのときですね」

その後、事業化に向けてインタビューを続けながらもアイデアを試作品に落とし込んでいく必要が出てきます。そんなときに手を差し伸べてくれたのは社内の有志社員達でした。

尾家: 「あり合わせのもので試作品をつくってもらったんです。初期の頃は、鏡の背面にあるものが透けて見えるハーフミラーを応用した製品を試作していました」

中島:「私たちが働いている福岡の拠点でつくっている製品のひとつに家庭用インターホンがあったので、その子機をカメラに流用したり、色々なアイデアで工夫しながら対応してくれました。ゼロからつくり上げるわけではなく電気系、無線系のプロフェッショナルが社内にいるので効率的に進められましたね。本当にサポートしてくださった皆さんには感謝しかないです」

自分たちの実現したいこと、解決したい課題を熱意を持って伝えることで協力者が増えていきました。

中島: 「新規事業に必要なのはやはり行動すること。とにかく動かないと何も生み出せません。調べるだけじゃなく行動することで、人とつながることができます。結果的に知識など得るものも多くなったと感じます」

また、情報をオープンにすることに対し、ふたりはさらにポジティブな期待を持っています。

中島: 「情報をオープンにできるので、実際に試作品を試していただき、声をいただくだけでなく、お客様とつながりもできます。発売はまだだけど、実際に製品化されたとき「あ!」と思う人が世の中にいると思うんです。やればやるほどそのときに向けた準備になるのかなと思います」

尾家: 「関わってくれた人ならつい買っちゃうだろうし、『これ私が手伝ったの!』って自慢したくなりますよね。お客様と一緒に事業をつくっている感覚はこれまでになかったものですね」

GCカタパルトが目覚めさせるパナソニックの遺伝子

4_michor.チーム写真_Picture of michor team member.jpg2021年度の事業化を目指すmichorチーム。松尾 友裕(左)、尾家 瑤子(中)、中島 有季子(右)

自ら動き、多くの協力者を獲得していた結果、「michor」は数年以内に事業化するという具体的な目標を掲げるにいたりました。2019年11月からは、福岡市の一部の美容院で実証実験を開始しています。

尾家: 「無線を利用する機械なので、すぐにトラブル対応が可能にするため、まずは私たちの拠点がある福岡の美容院を中心に30店舗に導入することを目的に活動をしていますね」

中島: 「最初は BtoB領域で検証を始めます。美容院側のニーズがあることはわかってきましたが、まだまだ情報が足りていない。美容院をさらに研究して、サービスを構築していかなくてはと考えています」

あらためて、美容師からのフィードバックに驚いていると言います。

中島: 「美容院へ営業する中で、『髪の分け目を 3ミリ変えるだけで、お客様の本当の良さを引き立てられる。これがあれば正面だけじゃなくて、全方位でベストを尽くしてお客さんにお見せできる。本当に夢のある商品です』と言っていただけたときは、とても感動しました」

今後、より具体的に成長戦略を描くフェーズに入ったこともあり、新たなメンバー、スマートコミュニケーションビジネスユニットのホームネットワークを担当していた松尾 友裕も加わりました。

松尾: 「ビジネスモデルの検討や、実務的に進めるうえでの問題への対応、組織間でのやりとりなどを担当しています。これまでも事業部で新規事業を担当してきて、うまくいかない経験というのを何度もしてきました。でも、GCカタパルトで鍛えられてきたメンバーと一緒にやれるということを、すごく心地よく感じています」

松尾の語る心地良さとは、まさしく中島と尾家がGCカタパルトの活動を通し身に着けてきた、新規事業に対する考え方に起因しています。

尾家: 「 GCカタパルトでの活動を通し、やはり新規事業というものについての理解が深まったと感じます。最初はモノとして成立しておけばそれで良いと思っていたんですが、 GCカタパルトのプログラムの中で、『コトの価値が成立していない、モノから離れろ』と常に指摘されたことで、それじゃだめだということに気づかされました」

中島: 「モノをつくるということだけにとらわれず、文化を変えるための試みだと意識することが重要だと感じています。毎朝のヘアアレンジで自分の後ろ姿が見えて当たり前の世界をつくりたいんです」

松尾: 「現在の時代の流れに合わせて、モノからコトへ価値観が変わったわけではなくて、パナソニックはずっとコトをつくることを続けてきたんだと思います。新規事業に携わっていると、会社が大きくなることで失われかけていた、そうした感覚が思い出されてくるような気がしますね」

メンバーの行動がさらに多くの人を巻き込み、事業化を加速させていくでしょう。毎朝のヘアアレンジの固定概念を打ち破り、自分の後ろ姿を確かめながら気分に合わせて自由自在にヘアスタイルをデザインする──そんな世界を実現できる日はそう遠くはないかもしれません。

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